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「特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法の一部を改正する法律案」について     



 令和6年2月9日閣議決定され、第213回国会に「特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法の一部を改正する法律案」(略称法令名:「長期契約法」)が提出されました。

 現在の長期契約法は2019年2月8日に法律が成立し、附則には西暦2024年3月31日で効力失効の規定があります。国際社会の安全保障環境の複雑化や装備品等の高度化に伴い防衛装備の計画的な調達の必要があり、この法律を延長し恒久化する為に法案が提出されました。
 変更点は、長期契約法の附則「法律の失効日」と「経過措置」が削除されました。

 この長期契約法第3条に、財政法18条の閣議決定後直ぐに特定防衛調達の概要及び当該特定防衛調達の縮減費を公表するとなっています。
 

概要

 2月9日、木原防衛大臣による法案提出の説明会見です。

長期契約法につきましては、防衛力の計画的な整備のため、財政法上5か年度とされている国庫債務負担行為により支出すべき年限の上限を、特定防衛調達に係る国庫債務負担行為については、10か年度とする特例を定めるものであります。現行法は、令和6年3月31日で期限を迎えるところ、現下の厳しい財政状況の下で防衛力の計画的な整備を引き続き実施していくため、本法案では、この特例を恒久化することとしています。

木原防衛大臣閣議後会見

 特定防衛調達とは、自衛隊のみが使用する装備品等を長期にまとめて契約し、経費の縮減及び安定的な調達をする為のやり方です。詳細は「特定防衛調達の対象となる装備品等及び役務に関する指針について」に書いてあります。
 その長期間の契約ですが、財政法15条の「国庫債務負担行為」により契約金の支払いについては議会の承認が必要です。




1・令和6年度予算の特定防衛調達

 長期契約法第3条の規定に基づき、特定防衛調達の情報が公表されています。調達品は以下4点に成ります。
1・輸送ヘリコプター(CH-47JA) 12機
  縮減率が296億6千万円
2・輸送ヘリコプター(CH-47J) 5機
  縮減される経費の額 約86.8億円(約8.1%)、
3・PAC―2GEMの再保証 1式  
  縮減率約307.0億円(約28.9%)
4・F110エンジンの維持部品包括契約 1式
  約108.4億円(約13.9%)

令和6年度予算における特定防衛調達の概要等について1枚目


 CHー47JAは、航空基地とレーダーサイトへ必要器材を運ぶ輸送ヘリコプターです。
 1961年にアメリカのボーイング社によってCH-47が開発され、1961年に初飛行してから50年以上もの歴史を持つ名機です。当初は米陸軍の火砲(155mm榴弾砲)を空輸する目的で開発されましたが、現在では世界20ヶ国以上もの国々で採用されているベストセラー機になりました。

航空自衛隊の主要装備のサイトに内容がありました。

 日本の製造会社のKAWASAKI のサイトの説明には、「1984年にD型をベースにCH-47J型の生産を始め、1993年からは、燃料タンク大型化等の改良を加えたCH47JA型の生産を行っており、現在まで陸上自衛隊及び航空自衛隊向けに110機以上を納入しております。」とあり、走行距離は1000キロメートルを超えています。

 わざわざまとめ買いをして縮減率を明記するのですから気になるのはお値段で、 陸自応援サイト「陸自調査団」には価格約55億円となっています。 
 外交防衛委員会調査室資料の平成29年度防衛関係費の概要には、CH-47JAを6機(1機86億円)を長期契約による一括購入で、平成33年度(2021)3機・平成34年(2022)3機納入と書かれています。
 そして、令和6年度のCH-47JAの予算は、8年間で12機納入する縮減した総額が2106億円で、単純に計算して1機175.5億円です。平成29年度の予算時の約2倍の値段です。

平成29年度防衛関係費の概要

 これまで防衛予算の減少や装備品の高度化、維持・修理経費の増大などで取得数も減少し、それに合わせて防衛産業を維持する部品工場や製造企業等の撤退・倒産が続き、国内企業からの調達コストが跳ね上がってしまいました。
 「防衛関連調達額は約2.5兆円で、自動車産業の62兆円規模に比べ、防衛産業の規模は足元にも及ばない状況です。世界の防衛関連企業の売り上げ規模は、防衛売り上げの割合が高くなっているのに対し、我が国は防衛以外の売り上げの割合がはるかに高くなっています」と防衛装備庁長官官房審議官 春日原大樹氏は話しています。


2・法整備(安保三文書)

 この様な状況は政府内でも以前から問題視されていました。日本政府が防衛産業を維持し継続的・安定的な購入の方針で法整備したのは、2022年2月24日のロシアによるウクライナへの軍事侵攻がきっかけになります。

 2022年12月16日、岸田内閣と国家安全保障会議は、安保三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を決定しました。相手の領域内を直接攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に名称変更する事や、保有する防衛費を国内総生産(GDP)比で2%に増やし、その財源は歳出改革などで捻出したうえで、なお不足する分は法人、所得、たばこの3税で確保する方針を示したものです。
 国家安全保障戦略は外交・防衛の基本方針を定め、国家防衛戦略はこの戦略を踏まえた防衛力の水準を規定し、防衛力整備計画は5年間の防衛費の総額や主要装備の数量を定めるものです。

 今回の安保三文書は、日本の領域が現実的に軍事攻撃を受ける事態を想定して戦略を策定したという点が大きいです。
 国家安全保障戦略の基本認識は、中国・北朝鮮を念頭に日本の周辺国の軍備増強が急速に拡大している中、ロシアの武力による一方的な現状変更がウクライナに起き、それは国際秩序の根幹を揺るがす深刻な事態で、東アジアでも起こりえると考え、防衛力の抜本的強化が急がれました。
 具体的には日米同盟を基軸として「宇宙・サイバー・電磁波の領域および陸・海・空の領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により、自衛隊の全体の能力を増幅させる領域横断作戦能力に加え、侵攻部隊に対し、その脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力等に重層的に対処する」という内容です。


今後のスタンド・オフ防衛能力の運用(イメージ)


 22年末に閣議決定された安保3文書では防衛力強化の「7つの重視分野」が示されましたが、継戦能力や新たな領域の能力強化のように、過去の大綱から積み残された課題がウクライナ戦争によって改めて浮き彫りになったものが多かったと言われています。


 令和5年12月22日内閣官房長官記者会見の防衛装備移転三原則の一部改正について にはその経緯が説明されています。

これらの決定は、昨年策定いたしました国家安全保障戦略に記載をしておりますとおり、防衛装備品の海外移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止をして、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出等を進めるための重要な政策的手段であると、こうした観点から、与党ワーキングチームにおいて合意された内容を踏まえて、第1弾として見直しを行ったものであります。今回の見直しによりまして、国際共同開発・生産、そしてライセンス生産品の提供、また部品の移転など、幅広い分野での防衛装備品の移転を可能とする一方で、審査プロセスの厳格化、これも同時に図ってまいります。与党ワーキングチームの提言も踏まえて、個別の案件の重要性に応じて、あらかじめ与党とよく御相談しつつ、国家安全保障会議で特に慎重に審議をしてまいります。その上で、本日、国家安全保障会議四大臣会合を開催し、今般見直した防衛装備移転三原則の運用指針を適用する案件として、米国からのライセンス生産品であるペトリオット・ミサイルの米国への移転について、特に慎重な検討と厳格な審査を経て、認め得るということを確認をいたしました。本件は日米同盟の強化の観点から大きな意義を有するものでありまして、我が国の安全保障及びインド太平洋地域の平和と安定に寄与するものでございます。

 2023年12月には防衛装備移転三原則が改正され、「官民一体となって防衛装備の海外移転を進める」方針が示されました。この方針のもと、外国企業から技術を導入して国内で製造する「ライセンス生産」について、ライセンス元の国に完成品を輸出できるようにしました。
 つまり、賃金や物価の安いインドから部品を調達し日本で製造し、ライセンス国のアメリカに輸出する事も可能となったということです。



3・防衛費43兆円の問題点


 政府は、2023年度から2027年度までの5年間の防衛費を総額43兆円程度にすることを閣議決定しました。
 防衛費増額には反対はしておりませんが、その防衛予算の額に対し十分な知見が入っているかどうかが気になる所です。また、自衛隊の在り方自体に様々な宿題が片付いてないように思っています。

 

①次期戦闘機の輸出問題

 令和5年12月の防衛装備移転三原則に運用開始に盛り込まれなった宿題があります。他国と共同開発した装備品の第三国への輸出については、7月にとりまとめた論点整理で容認することで一致していましたが、自民党と連立を組んでいる公明党が急に難色を示しました。イギリス・イタリアと共同開発を進める次期戦闘機が輸出出来ないとなると負担だけが残り、今後共同開発も出来ず、外国から高額な金額で最新式の戦闘機を買わねばなりません。
 「防衛装備品の輸出ルール緩和 なぜ“積み残し”起きたか」、このテーマは今国会での議論にもなるでしょう。


②大型予算に気を付けろ

 日本政府が急激に大型予算を組んだ時は、国民はその予算の使い方に警戒の目を持って注視しなければならないと思っています。
 2011年3月11日震度7の東日本大震災が起こり、その災害対策として復興予算と復興増税を行いました。そしてその復興増税は10年を過ぎても終わりません。
 会計検査院の報告では、措置された予算が44兆7478億円で、支出総額38兆1711億円で、不用額は6兆1488億円との報告がありました。不用額は返還してくれればよい話ですが、基金等になり使われていなかった場合それは勘定項目も人件費も基金自体も無駄遣いです。
 しかも、その復興税の使い方は福場ひとみ著『国家のシロアリ』でも指摘されていましたが、東北にも復興にも全く関係のない事業に使われ、挙句の果てには例えば国会議事堂のシャンデリアのLED取替えや、内閣府の霞が関合同庁舎4号館の建て替え費用など永田町・霞が関を始め全国で復興予算が国家機関の総リフォームに使われていたのです。
 ですから、大きな予算が付いた時は特に、きちんとした根拠で特定防衛調達が成されるよう注視が必要です。

 
 

③既得権益に要注意

 令和元年12月中国武漢から新型コロナウィルスが世界中に拡散されパンデミック状態になりました。
 日本もいち早く緊急事態宣言を発し、ワクチンの確保等政府は全力で対応していたように思います。しかし、感染症に対応する厚労省の発信内容や日本医師会の対応は現状にあった適切な対応とは言えませんでした。様々な規制の為に空きベッドにも代金を支払い、症状が無い人にも病院での隔離が成されたり、救急車で妊婦が運ばれても治療が出来ない状況や、ベッドが空かず救急搬送出来ずに間に合わなかったというあり得ない状況がありました。
 また、多額のコロナ対応の予算が地方自治体に交付されましたが、本来の目的とは違った使い方をした自治体が複数ありました。その中でも、令和6年1月元旦震度7強の地震があった能登町は、当時コロナ交付金でイカのモニュメントを作り、行政に依頼された民間の調査会社が調査し、行政は経済効果があったと発表しています。町の公募に応じた経営コンサルタントは無料で調査をすること自体おかしいわけで、そのイカキングに使われた税金で災害対策や食料等の備蓄をしていたらと思わずにはおれません。そういう使われ方があちこちであったのですが、そのコロナ対策の予算が77兆円というのは、国民の多くが知りません。
 そう言う意味で、政府の税金の使い方に疑問を持ち、その特定防衛調達品は本当に必要だったのか事後検証が必要だと言う事です。


④その装備品と規制は最先端か

 日本政府は多額の予算を出し、事後の検証をする事も無く反省もせず、繰り返し補助金を配ります。更にメンテナンス費用なども気にせず大型建築物を作ります。こういう事の繰り返しが何度も続いてます。本当に税金がそんなに必要なのでしょうか?
 防衛費増額に反対する者ではありませんが、急激に予算が増え、本当に必要な装備品なのか時代の変化についていける装備品なのか、法律がポジティブリストでも十分に自衛隊の力が発揮できる装備品なのか、もう一度検討して欲しいのです。
 ロシアの侵略によるウクライナの戦い方は近代兵器の以前とは全く変わり、遠隔操作のドローンを使い現場で戦術に合う兵器にカスタマイズしながら攻撃し、軍事大国ロシア相手にほぼ互角で闘っています。今やデジタルだけでなく、重装備の大型兵器にAIやデジタルを使い、認知戦もプラスした情報戦も仕掛けるという想像もできない戦い方になっています。
 日本は第二次世界大戦時に、世界の戦い方は大きく変わっていたにも拘らず大型の戦艦に大金を使い「戦艦大和」を建造し、あっという間に米国の戦闘機に撃沈させられました。


 インテリジェンスの専門家の江崎道朗氏と部谷 直亮氏(ひだに・なおあき)は警告しています。ドローンを購入しても、電波法など日本には様々な規制があり十分な訓練さえも出来ない状況です。ましてや本番を意識した実践訓練などあり得ません。戦術に合う様に兵器をカスタマイズできてこそ戦火があげられる時代になりました。さらに、状況に合わせた闘いが出来ない者は即、死に至るのです。日本の自衛隊が自国の規制で殺される事の無いよう、十分な訓練と無用な規制は廃止すべきです。最先端の武器と合わせて使う事で特定防衛調達した装備品が生かせるからです。

 

⑤自衛隊はべんりやさん

 日本に大地震や自然大災害があった時に、何故か自衛隊が便利屋さんになっている現実があります。
 国民保護や災害救助は地方自治体の仕事ですが、国防でいつなんどき自衛隊出動の要請が来るかもしれません。災害派遣で数週間対応していると自衛隊員の練度がどれほど落ちるかはかり知れません。高額な装備品を購入しても練度が落ちていれば効果は上げられません。
 自衛隊の災害派遣は最短最小だけお願いして、あとは警察・消防が直ぐ動けるように組織し普段から訓練して置く必要があるのでは?


参考記事:福場ひとみさんの復興予算流用問題を問う


2月22日追記:
「有識者から政策的な助言を得るための会議体を設置する」という記事がありました。


2024年2月19日防衛省1.有識者会議の目的がある。

しかし、「我が国防衛のための新たな戦略」をみても、攻め込まれないための防衛力であり、国内で起こる戦いは想定していない。つまり、ロシアに侵略されたウクライナはNATOに加盟はしておらず大国との同盟も無かったから攻め込まれたと日本政府は考え、スタンド・オフ防衛能力を選んだわけです。しかし、ウクライナのドローン攻撃を見ると、日本国内の敵国人が何時でも日本国内から戦闘が開始できるとも思えます。
 有識者会議は、この即本土決戦もあり得る状況をどう考えているのでしょうか?

日本の安全保障政策ー安全保障と経済成長の好循環に向けてー



「特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法の一部を改正する法律案」の調査は、NHK党から国民を守る党の参議員浜田聡議員の依頼で調査いたしました。

以上になります。

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