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園長に聞いてみた③歴史的低水準の出生数×こども誰でも通園制度 保育園はどう捉えている?

子育て支援企業「ここるく」のマコです。2024年度スタートの「こども誰でも通園制度」試行的事業。前回に引き続き、実際に本事業を行っている栃木県栃木市の「認定こども園さくら」の堀昌浩園長をお迎えし、制度をどう捉え、どう運営しているのか?についての具体的なお話しをうかがう「園長に聞いてみた」シリーズをお届けします。

今回は、歴史的低水準の出生率によって起こる子育て環境への影響について、深掘っていきたいと思います。特に、保育施設を運営している皆さん・子ども関連の仕事に携わっている皆さんのご参考にしていただけたら嬉しいです。

1回目の記事はこちら。「こども誰でも通園制度」をモデル事業から実施する認定こども園さくらでの、こども・保護者・保育者それぞれの状況を聞きました。

2回目の記事はこちら。2023年6月の本制度モデル事業の実施以来、”誰でも通園”を"いつでも通園"と誤って捉えている方が多いのではないか?というお話しから、実際の制度の様子を掘り下げていきました。

※2024年5月14日に行ったここるく創立10周年記念シンポジウム【こどもまんなか時代の子育て】の内容を文字起こし・補足・編集しています。(聞き手:株式会社ここるく代表 山下真実)
※本記事の会話文内では「こども誰でも通園制度」を「誰通」と省略して記載します。

※【歴史的低水準の出生数×こども誰でも通園制度 保育園はどう捉えている?】の内容は動画の34:17からご覧いただけます。

栃木県栃木市「認定こども園さくら」と堀昌浩園長のご紹介

社会福祉法人鐘の鳴る丘友の会「認定こども園さくら」は、300人規模の大型認可こども園で、乳幼児に特化した「さくら第2保育園」を併設。こどもの主体性を伸ばすプロジェクト型保育をいち早く実践し、こどもも大人と同じ一人の人間として地域の関わりの中で共に育つ意識を大切にされています。「こども誰でも通園制度」は、2023年6月のモデル事業から実施しており、2024年6月末の時点で延べ利用人数が570人に上ります。堀園長は、保育園・認定こども園・幼稚園の枠を越えた新しい乳幼児教育の普及のため「一般社団法人ラーニングジャーニー」を立上げ、代表理事としても活躍されています。

保育園は未就園児へのアプローチを考えなければならない

山下:第一部では右肩下がりの出生率、出生数のグラフを見ていただいたと思うんですけれど(※)、ここ2~3年ぐらい歴史的低水準の更新というニュースが出ていますよね。出生数がすごく下がっている中で誰通が始まるという現状を保育関係の皆さんや、堀さんの周りの方はどのように捉えていらっしゃるんですか?

※ここるく創立10周年記念シンポジウム【こどもまんなか時代の子育て】第一部は、玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友先生、Z世代から上智大学3年生の野尻彩菜さんを迎えて、昭和・平成・令和の子育て史100年を振り返りながら、持続可能な社会を築く第一歩=こどもまんなか社会の実現に向けて議論しました。YouTube動画はこちら

:どのようにというところでは、ネガティブとポジティブどちらもあると思うんです。例えばネガティブの方は、ひょっとすると0歳児の入園が少なくて運営が大変って言う面はありますね。

山下:園の経営的な運営ということですよね?0歳児クラスが定員通り埋まっていくっていうことは保育園の運営・経営の中でキーだったりするんですよね。なので出生率・出生数が減ると、どうしても園同士でのこどもの奪い合いになってきて、埋まる園と埋まらない園が出てくるということですよね。

:そう言いますけど実はそんなことなくて、それよりも育児休暇などが拡充されてきたことにより、保育園に預けなくてもいいというようなご家庭も増えてきているんです。結果として、0歳児を預ける人たち(0歳児クラス等)が減っていくことにも繋がっていきます。そこで「誰でも保育を受けることが必要ですよ」ということであれば、未就園の人たちに対するアプローチの仕方を考えていかなければいけないんです。しかし、その考えまで至っていない園や法人もあるんじゃないかと思います。

保育の専門性として、誰通のこどもと在園児の関わりを大切に

堀:ポジティブな園や法人では、「こどもは"こども社会"で育つ」(※)と言っている方もいます。しかし、運営や経営とかっていう視点が入ってくると、誰通専用の部屋を作り、毎日誰通のこどもたちだけをゴソッと集めて保育するということを考える人がいるかもしれません。

※本シリーズ①・②で既出の考え方。

山下:在園児が過ごしている部屋と(誰通のこどもを)別の部屋で保育するということですね?

:別室にすることを僕はネガティブに捉えているんだけど、ビジネスとしてポジティブに考えてる人たちもいますよね。保育の専門性として考えたときに、こどもはどうやって成長していくのかを他のこどもを見ることで見通せたり、ちょっとしたアドバイスができたりすること。それが僕たち保育者としての専門性の一部だから、そこを活かそうと思ったときには、(誰通のこどもと)在園しているこどもとの関わりも大切だと思っています。


僕たちはスーパーマンじゃない、保育のグラデーション化が必要

:僕たちってスーパーマンじゃないんですよね。配置基準ってあるんですけど、大人何人に対してこどもを何人見れるかという。保育士の配置基準が76年ぶりに見直されて、以前まで5歳児クラス30人に対して保育士1人だったのが、2024年度からは25人に対して1人になったところではあるんですが。

山下:大ニュースですよね。

:(1対25という配置基準の中だと)個性豊かなこどもが保育園に来た時には難しい部分がいっぱい出てきます。そういうときに、児童発達支援センターなどの機関とどう連携を取っていくのかっていうところも、今僕たちに求められていることだし、児発が僕たち保育園側とどう連携を取るのか。僕が「保育のグラデーション化が必要」(※)と言っているのは、その(インクルーシブ保育の)部分も含んで出来ていかないといけないことだと。そうしないと、第一部でZ世代の野尻さんが「友人との会話でこどもの話が出てこない」っておっしゃってましたけど、「こどもはかわいいよね!」って日常的に会話に出てくる世の中には繋がっていかないんじゃないかなって思うんですよね。

保育のグラデーション化=子育て支援センターの親子利用や保育園への親子通園などから始まって、徐々に保育時間を増やすことで、こどもは"こども社会"に自然に溶け込んでいくという堀園長の考える保育方針。

ボランティア活動を通してこどもを近くに感じてもらいながら、未来の子育て環境を創る

:少し話が脱線するのですが、僕の法人では平成8年に児童館を作ったんです。公設民営では関東圏の中でもすごい早い方だったんですけど、その時は【児童館】というもの自体があまり知られていなかったんです。学童保育もほとんどメジャーではない時代でした。僕はその時、児童館の担当だったので一番最初にやった仕事をちょっと紹介します。児童館って18歳まで利用できるんですけど、その時高校1年生だったうちの卒園児がですね、ちょっと悪さをして学校を停学になり、自宅謹慎になったんです。その子から「自宅謹慎の代わりに児童館でボランティアしていい?」って聞かれたので受け入れたんですけど、高校の先生が「児童館ってなんだ?そんな訳わかんないとこ行きやがって」と言ってきたんですよ。高校の先生ですら、児童館そのものを理解していなかったので、まず高校の先生に児童館の説明をするところから始めました。そこで、高校生がこどもと触れ合う場がなくなっていることや、学校の先生自身がそういう場を知らないということを感じたので、近隣の高校の校長先生たちにアポを取って、児童館でのボランティア募集をしていいですか?「ボランティア活動証明書」も出すので内申書に使ってください、って言いにいったんです。最初のうちは「こんなのもらっても」状態だったのが、そのうち内申書にも書いてもらえるようになっていってですね。結果的にはコロナ渦になるまで、毎年夏休みや冬休みには300人くらいの高校生がボランティアで来てくれるようになったんです。

山下:すごいですね!

:ボランティアに来てくれた高校生に感想を聞くと、「自分の手のひらに赤ちゃんの手が全部入ってびっくりした」とか、パンツを洗ってもらえるように頼んだら「こんなに小さいの履いてたんですね」なんて言っていて、君たちもちょっと前までそのサイズだったんだよって話しなんですけど(笑)、 (ボランティアを通じて)こどもたちが身近になりますね。そうやってボランティアに来てくれた人の中から、保護者になった人もいれば、保育者になった人もいるし、地域の企業に入りながら、まだボランティア活動を続けてくれる人がいたりと、人と人とのご縁が段々と広がっていくんです。

山下:同心円状(※)の外側へと自然と広がりますもんね。

※ここるくの子育てシンポジウムの第一部に登壇した、玉川大学教育学部乳幼児教育学科教授の大豆生田 啓友先生が示した「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)【概要】⑤の同心円のこと。(参照:こども家庭庁ホームページ)


保育園、児発、療育。それぞれが専門性を活かして手を取り合う

:少子化を改善するための活動になってしまうと、ものすごく負担感があると思うんです。ただ、流れの中で自然に解消していくことが理想であるのであれば、僕たちはいろんな人と手を組むことが大切になってくるんじゃないかと思うんです。園や法人が単独で手広くやっていくと、どんどん質が下がり、薄くなってしまう。でも「この部分で一緒にやってくれませんか?」と連携すれば、濃いもの同士だから質は下がらない。例えば、児童発達支援の方や療育をやってる方に「療育の部分に関してはノウハウがないので、僕たちと一緒にやりませんか?施設を見学させてください」というような関わりをしたり、反対に療育の先生が保育園(集団)での様子を見に来てもらったりと、組織ごとの垣根をどんどん壊していくというか、手を取り合っていくっていうのが、少子化に向けての第一歩や0ベースになっていけばいいじゃないかと思っています。

山下:そうですよね。第一部で大豆生田先生がおっしゃっていたみたいに、保育園側が壁を作って保育園の中でやっていたのが平成の時代だとすると、これからは外へ外へという流れはもう必然なのかもしれないですね。


【園長に聞いてみた③】はここまでです。保育施設を運営している皆さんや子ども関連の仕事に携わっている皆さんには、ご参考にしていただける内容だったのではないでしょうか?

次回は、シリーズ④【園長に聞いてみた④これからの時代に求められる子育て支援とは?】をお届けします。ぜひ合わせてご覧ください。