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園長に聞いてみた②「誰でも通園」は、「いつでも通園」ではない?

子育て支援企業「ここるく」のコーホーです。2024年度スタートの「こども誰でも通園制度」試行的事業。前回に引き続き、実際に本事業を行っている栃木県栃木市の「認定こども園さくら」の堀昌浩園長をお迎えし、制度をどう捉え、どう運営しているのか?についての具体的なお話しをうかがう「園長に聞いてみた」シリーズをお届けします。

今回は、2023年6月の本制度モデル事業の実施以来、”誰でも通園”を"いつでも通園"と誤って捉えている方が多いのではないか?というお話しを掘り下げていきます。特に、保育施設を運営している皆さん・保育に携わっている皆さんのご参考にしていただけたら嬉しいです。

1回目の記事はこちら。「こども誰でも通園制度」をモデル事業から実施する認定こども園さくらでの、こども・保護者・保育者それぞれの状況を聞きました。

※2024年5月14日に行ったここるく創立10周年記念シンポジウム【こどもまんなか時代の子育て】の内容を文字起こし・補足・編集しています。(聞き手:株式会社ここるく代表 山下真実)
※本記事の会話文内では「こども誰でも通園制度」を「誰通」と省略して記載します。

※【「誰でも通園」は、「いつでも通園」ではない?】についての内容は動画の25:12からご覧いただけます。


栃木県栃木市「認定こども園さくら」と堀昌浩園長のご紹介

認定こども園さくら 堀昌浩園長

社会福祉法人鐘の鳴る丘友の会「認定こども園さくら」は、300人規模の大型認可こども園で、乳幼児に特化した「さくら第2保育園」を併設。こどもの主体性を伸ばすプロジェクト型保育をいち早く実践し、こどもも大人と同じ一人の人間として地域の関わりの中で共に育つ意識を大切にされています。「こども誰でも通園制度」は、2023年6月のモデル事業から実施しており、2024年6月末の時点で延べ利用人数が570人に上ります。堀園長は、保育園・認定こども園・幼稚園の枠を越えた新しい乳幼児教育の普及のため「一般社団法人ラーニングジャーニー」を立上げ、代表理事としても活躍されています。

誰通は、いつでもこどもが園に押し寄せるわけではない

山下:誰通のモデル事業も堀園長と一緒にやらせていただいた関係で、この二人でオンラインセミナーや自治体さんに出向くことがあるんですけども、よくある質問が「誰通を始めますって手を挙げた瞬間にドドっとこどもが押し寄せてきて、捌ききれなくなるんじゃないか?」と。その心配で前に進めない園も多いのかなと思っていて、その時に堀さんは「誰でも&いつでも通園じゃないから大丈夫ですよ!」と答えられますよね。この勘違いというか、認識の違いがあるように思います。
 
堀:誰通の話と、異次元の少子化対策の話しが、令和5年の1月くらいから一緒に出始めたんですね。特に東京都は都知事も一緒に足並みを揃えた部分がある。そこが「いつでも通園」との勘違いのひとつの理由なのではないかなと。空きがある園にとってはある意味「いつでも通園」なのかもしれないですけれども、「誰でも通園」という言葉になっている背景がちゃんとあるんです。令和4年に児童福祉法の改正があって「保育に欠ける」という箇所が「保育が必要な」という条文に変わりました(※)。ここが実は誰通に繋がってきます。

(※)児童福祉法第三十九条の変更:
旧「保育所は日々保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳幼児又は幼児を保育することを目的とする施設とする。(以下略)」

現「保育所は、保育を必要とする乳児・幼児を日々保護者の下から通わせて保育を行うことを目的とする施設(利用定員が二十人以上であるものに限り、幼保連携型認定こども園を除く。)とする。(以下略)」
 
堀:保育や幼児教育が不要な人はいないよという改正ですが、その(法律改正の)後押しとして、令和5年度から誰通(のような預りモデル)が出てくることが令和4年度の段階で書かれていました。ただそれはまだ異次元の少子化対策が出てくる前の話しで、令和4年度の段階では要支援・要保護という人たちのための制度だという書き方しかできなかったんですね。ただ、(この制度の受け皿となる)保育園・幼稚園・認定こども園を使うにあたっては、保育室に空きがある・ゆとりがあるみたいな書かれ方になってしまっていて、それは定員割れの園が受け入れると公言していることになるじゃないですか。
 
山下:園の余裕活用型の預かりという意味ですか?
 
堀:そうです。それでは(受け入れ側と利用者が)お互いにWin-Winの関係にはならないので、その言葉は条文から消えて、ちょっとずつ法律も変わっていった経緯の中で誰通になったんです。

認定こども園さくらの堀昌浩園長

自然にこどもが"こども社会"に入っていく形をつくる


堀:親子通園だって最初はダメだった
んです。子育て支援センターで誰通を受け始めたのはうちが初めてでした(※)。何で支援センターなんだ?って色んなところから言われましたけど、支援センターが一番親和性が高いじゃないですか。だって元々親子で来ている場所なんだから。支援センターで親子で遊んで、ちょっと保育を見に行くっていう時もあるわけで、その延長線として、無理やり親からこどもを離すのではなく、いつの間にかこどもが"こども社会"の中に入っていくっていう方が人として自然じゃない?って。

※認定こども園さくらでは、併設する子育て支援センター「ゆめふうせん」を利用者の受入れ窓口としています。

保護者支援の「一時預かり」と、こどもまんなかの「誰通」

堀:誰通時の親子通園が認められるようになって、その中で独り歩きし始めたのが「いつでも通園」という話しなんです。(誰通が)「保護者支援」が色濃く出ている「一時預かり」の名前を変えただけになってしまうと「こどもまんなか社会」のための制度だということを無視してしまう。「一時預かり」の目的は、就労支援や育児リフレッシュなどで全部親のためになっているんです。そうすると、最終形態としては(親が使いたい時に)「いつでも利用することができるぞ!」となってしまう。だから空いていようが空いていまいが預けることができますみたいな報道が一瞬流れたのも確かなんです。
 
山下:そういうことにはなりようがないですけどね。
 
堀:地域社会が崩壊しているという話がありますけど、例えば公園は元々みんなが集まる集いの場だったのに、いつの間にか野球ダメサッカーダメ、花火ダメ騒いじゃダメって。先に居た先輩方から通報が入って、こどもがうるさいからって出されちゃったりと、訳のわからないことが起きてると僕は思っています。そういったことも含めて、昔の大家族感のようなものを今の社会に当てはめて考えて、「こどもは"こども社会"で育つ」ということを前面に出した方がいい。

山下:(誰通の利用者が必ず行う園での)堀さんの園では事前面談でも「こどもは"こども社会"で育つ」とお話しされるんですよね。
 
堀:事前面談では、アレルギーや既往歴を教えてもらうことと、利用するお子さんの様子を(保育者の視点で)見ておくことがあるんですが、その面談の時に一生懸命「こどもは"こども社会"で育つ」っていうことを伝えていくと、先ほど話したお母さんたちの間に譲り合いが出てくるような雰囲気作りができてくる(※)。誰通はそういうコンセプトデザインみたいなものがすごく大事ですから、自治体や議員さんたちが「何より保護者のための制度」と言ってしまった瞬間から、何か違うベクトル働いてしまって「こどもまんなか」ではなくなってしまうと僕は思っています。

※園長に聞いてみた①記事「利用者同士のコミュニティ意識の芽生え。枠の譲り合いも?!」参照。
 
山下:「いつでも」なのか「誰でも」なのか、こどもの育ちの環境を整えるときに、「こどもまんなか」と「いつでも」は整合しないっということは論理的に考えればわかるのではないかなと。こどもの育ちの環境は、ちゃんと整えないと自然発生的には提供できないですから、その視点がぶれないようにすれば「いつでも」じゃないけれど「誰でも」は叶えられる。「誰でも」を叶えるためには「いつでも」にはできないんだということがすごく自然に納得できるんじゃないでしょうか。公共的な福祉をずっと担ってきた保育園という立場の皆さんからすると、「お断りするなんて。。。」っていうような感覚がものすごくあるのかもしれないですね。
 
堀:最初の話に戻るんですけど(※)、「子育て支援」という言葉が持つ言葉の力もあるんだと思っていて、「支援する側」と「支援される側」で上下関係を作ってしまう部分でのことなのかな。

※園長に聞いてみた①記事「支援する側が偉くて、支援される側がお願いする形を排除して、利用のハードルを下げる」参照。
 

誰通によって「未就園」の概念はなくなり、子育て支援は"CO"育て&"CO"育ちに

堀:僕は、誰通によって「未就園」という概念がもうなくなると思ってるんです。未就園がなくなれば「支援」という言葉も当てはまらなくなる。「CO育て」=共に子育てをしていきましょうねっていう社会になるんじゃないかなと。
 
山下:
「CO」は「コワーキング」なんかの「CO」ですよね?
 
堀:
そうです。「CO育て」「CO育ち」って言われてるようなものがしっかりと保障されていくと、それが先ほど大豆生田先生が言っていたウェルビーイング(※)に最終的には繋がってくるんじゃないかな。

※ここるくの子育てシンポジウムの第一部に登壇した、玉川大学教育学部乳幼児教育学科教授の大豆生田 啓友先生。第一部のYouTube動画はこちら

【園長に聞いてみた②】はここまでです。既に「こども誰でも通園制度」の実施が始まっている園、またこれから始まる園の皆さんには実際の実施へのご参考にしていただける内容だったのではないでしょうか?

次回は、シリーズ③【園長に聞いてみた③歴史的低水準の出生数×こども誰でも通園制度 保育園はどう捉えている?】をお届けします。ぜひ合わせてご覧ください。