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Memo:上場時(IPO/PO)のコーナーストーン投資家とアンカー投資家

こんにちは。
中国大好きな竹内雄登です。
現在は、SPEEDAというデータベース向けに中国産業調査をしていますが、
前職は、ソフトバンクでベンチャー投資などのM&A業務をしていました。

日々の仕事やプライベートの時間を通して得た新しい知識などを
noteに残していくことにしました。

今日は「コーナーストーン投資家」「アンカー投資家」についてメモを残します。

きっかけは、以下2つのニュースです。
2/5に上場予定の快手がテンセントやテマセクなど10のコーナーストーン投資家を確保したというニュースなのですが、最初にこの情報を知ったのが中国語のニュース記事でした。
記事の中で中国語で「基石轮」と出てきたのですが、知らなかったので調べてみると、「基石轮」は"「コーナーストーン投資家」を確保したこと"を指すとわかりました。
ただ、「コーナーストーン投資家」は企業が香港やシンガポールで上場する際のニュースでたまに聞くという程度で、恥ずかしながらあまりよく分かっていませんでした。また、似たような概念で「アンカー投資家」というのもあったなと思いましたが、これもよく分かっていませんでした。
今日は今までよく分かっていなかったことを記録します。


「コーナーストーン投資家」「アンカー投資家」は、企業が上場する際に出てくる概念です。
「コーナーストーン投資家」と「アンカー投資家」についてまとめる前に、上場について簡単にご説明します。


1. 上場とは?

上場とは、IPOやPOを指します。
IPOやPOの定義はauカブコム証券さんが上手にまとめているので引用すると、

IPOとは、

「Initial(最初の)Public(公開の)Offering(売り物)」の略で、未上場企業が、新規に株式を証券取引所に上場し、投資家に株式を取得させることを言います。
株式上場に際し、通常は新たに株式が公募されたり、上場前に株主が保有している株式が売り出されます。これら株式を証券会社を通じて投資家へ配分することをIPOといいます。
企業にとっては上場することにより、直接金融市場から広く資金調達することが可能となり、また上場することで知名度が上がり、社会的な信用を高めることができるといったメリットがあります。

出所:auカブコム証券

POとは、

既上場企業が新たに発行する株式(公募株式)や既に発行された株式(売出株式)を投資家に取得させることをいいます。
正確には、「PO」は「Public(公開の)Offering(売り物)」の略で、日本語では「公募」と呼ばれます。「公募」とは、「不特定かつ多数の投資家に対し、新たに発行される有価証券の取得の申込を勧誘すること」をいいます。
また、「売出」とは、「既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込の勧誘のうち、均一の条件で50人以上の者を相手方として行う」ことをいい、通常は「公募」と「売出し」を合わせて「PO」と呼ばれます。
「新規公開株(IPO)」は未上場企業が直接金融市場からの資金調達や知名度・信用力の向上を目的として証券取引所に新規上場するために一般投資家に株式を取得してもらう行為であるのに対して、「公募・売出(PO)」は既に上場していて証券取引所での株式取引が行われている企業が追加の資金調達や大株主の保有株売却などを目的として一般投資家に株式を取得してもらう行為であり、「新規公開株(IPO)」と「公募・売出(PO)」の違いを簡単にいえば、実施する企業が「未上場」か「既上場」かの違いといえます。

出所:auカブコム証券

ということです。


2. 上場時に株式を購入するまでのフロー

上場後、投資家は市場でその企業の株式を購入できるわけですが、
上場時に株式を購入するためにはいくつかのフローがあります。
そのフローをご紹介します。
なお、本noteは「コーナーストーン投資家」と「アンカー投資家」についてをまとめることを主な目的としているため、上場時の株式購入フローは大きく省略しています。

①目論見書の確認
企業が上場する際には、目論見書という資料を公開します。
目論見書には、自分たちがどのような想いで起業・事業を行ってきたか、どんなビジネスをどのようなビジネスモデルで行っているか、今までの事業実績はどうか、上場時に調達するお金は何に使う予定か、資本構成はどうなっているか、今後ビジネスをする上でどんなリスクがあるかなどが記載されています。
目論見書を読んで、投資家は投資するかしないかを検討します。

ちなみに、中国の上海・深圳証券取引所や香港証券取引所のサイトにアクセスしたことのある方はわかると思うのですが、中国語は分かっても、上場(IPO, PO)する企業の目論見書には正直アクセスしにくいです。
それら取引所で上場する企業の目論見書へのアクセス方法を別のnoteでまとめていますので、ご関心のある方はぜひご覧ください。

②ブックビルディング
目論見書や各種情報を通して、投資家は上場しようとする企業の値付けをします。
いわゆるバリュエーション(企業価値評価)というものですが、バリュエーションはいろいろな方法で行うことができます。
バリュエーション手法については、また今度詳しくご紹介しようと思いますが、上場した企業の時価総額は以下の通り計算されます。

時価総額 = 発行済み株式総数 × 株価

目論見書には、A.上場"前"の発行済み株式総数とB.上場時に"新規で発行"される株式総数が記載されています。
AとBの合計が上場後の発行済み株式総数になり、その株式総数に株価を乗算すれば時価総額が出るということなので、株価をいくらにするかで時価総額が変わります。
つまり、上場株式を購入する際に、「株価がいくらなら買う」というのは「この会社がいくらなら買う」というのと同じなのです。

ブックビルディングとは、上場する企業の株式を
・いくらの株価で
・どれくらいの株数を
購入するかを申告すること
を指します。
ブックビルディングは、株式の需要予測を目的としており、購入希望者から希望株数・株価を募り、適正な発行価格を決定するための制度です。

なお、ブックビルディング期間中には、「仮条件」という、株価はこれくらいです、という幅(例:1,000円〜1,500円)が提示されていますので、その金額を参考にブックビルディングに参加します。

ちなみに、上場時の株式を購入するには、その上場しようとする企業が選定した幹事証券会社の口座経由でないと基本的にはブックビルディングに参加することができません。

③抽選・購入
ブックビルディング期間が終了すると、売出価格が決定します。
ブックビルディングでの申告価格や、買付能力(売出価格×購入株数の資金有無)などにより、抽選対象が選別され、抽選対象に選ばれた場合に抽選へ申し込むことができます。
抽選に当選した場合、購入意思を示せば株式を購入することができます。なお、購入した場合は上場日までに自身の証券口座の残高として反映され、上場日を迎えると売買開始できますので、売却もできるようになります。


3. 上場する企業の株式は投資家へ公平かつ公正に配分

上場企業の株式については、投資家へ公平かつ公正に配分を行うという観点が重要です。
そのため、日本では「親引け」という証券会社が上場企業の株式を発行者(上場する企業)の指定する販売先(投資家)へ売付けることを原則として禁止していました。
ただ、日本では2012年10月に規制が緩和され、証券会社が公正な配分に反さないと判断した場合などに認められることになりました。


4. コーナーストーン投資家とアンカー投資家とは?

前置きが長くなりましたが、コーナーストーン投資家とアンカー投資家についてまとめていきたいと思います。
そもそもコーナーストーン投資家とアンカー投資家とは何か?
上場時の株式購入フローの中で、彼らはどのように登場するのか?をまとめていきます。

まず、コーナーストーン投資家の定義を見ていきます。
Oxford University Pressによると、

In the context of IPOs, the term ‘cornerstone investors’ is generally understood to refer to that class of investors who commit in advance to invest a fixed amount of money, or for a fixed number of shares, in an IPO. Their commitment is typically sought and given just prior to the management roadshow and book-building exercise, on the basis of a price range indicated by the investment banks. The allocation of shares to such cornerstone investors is guaranteed in the cornerstone agreement executed by each cornerstone investor—where the commitment is expressed as a fixed amount of money rather than a fixed number of shares, the actual number of shares to be received is calculated at the point when the final price is determined following book-building.

出所:Oxford University Press

とのことです。

Oxford University Pressによる、
コーナーストーン投資家の定義について、日本語でポイントをまとめます。

[定義]
・コーナーストーン投資家とは、企業の上場において一定の金額または一定の株数を投資することを事前にコミットする投資家を指す

[投資の事前コミット]

・上場しようとする企業の経営陣によるロードショー(上場前に機関投資家に向けて行う会社説明会)やブックビルディングが行われる前に、コーナーストーン投資家は事前に投資のコミットを求められる
・投資銀行が提示する株価のレンジを参照して、コーナーストーン投資家は事前に投資をコミットする
・コーナーストーン投資家のコミット内容は購入する株数ではなく、投資する金額ベースで表現される
・コーナーストーン投資家が実際に受け取る株数は、ブックビルディングを通して決められた最終価格をもとに算出される

つまり、コーナーストーン投資家とは、
簡単に言えば、上場する株式を
親引けで事前に購入する投資家のことを指します。
コーナーストーン投資家は、比較的長期の保有が期待される安定的な投資家であり、上場する企業はコーナーストーン投資家に上場する際に売り出す株式の一定量を優先的に配分するということです。

これらのことから、上述2.の上場時に株式を購入するまでのフローにおける、①目論見書の確認の前のフェーズでコーナーストーン投資家が出てくるということがわかりました。

また、国や証券取引所によりますが、コーナーストーン投資家が認められるには基本的には以下の条件を満たす必要があります。

・他の投資家との公平性を確保するため、コーナーストーン投資家が購入する株価は上場時の売出価格であること
・上場してから6ヶ月間のロックアップ期間(株式を売却できない期間)を設けること
・株式を購入する約束ができるということ以外に、コーナーストーン投資家であることの利益がないこと
・上場する企業やその関係者から独立していること
・コーナーストーン投資家の情報や事前の投資コミット内容を上場に関する文書(目論見書など)で公開すること


コーナーストーン投資家の概要を理解できたので、
次に、アンカー投資家の定義を見ていきます。
Oxford University Pressによると、

Cornerstone investors should also be distinguished from ‘anchor investors’. While likewise investing in large amounts, anchor investors place their orders during the book-building process, and their allocations are not guaranteed. Anchor investors are typically not disclosed in the prospectus and not subject to lock-ups. 

出所:Oxford University Press

とのことです。

Oxford University Pressによる、
アンカー投資家の定義について、日本語でポイント
をまとめます。

・アンカー投資家はコーナーストーン投資家同様、多額の投資をする投資家
・コーナーストーン投資家と異なり、アンカー投資家はブックビルディング期間中に申し込むため、株式の割当が保証されていない
・アンカー投資家は目論見書などの上場に関する文書で公開されない上、ロックアップ期間も設けられない

これで、コーナーストーン投資家とアンカー投資家の概要や違いを理解することができました。


5. コーナーストーン投資家への賛否

Oxford University Pressはコーナーストーン投資家のメリットとして、以下内容を述べています。

The benefits of having cornerstone participation in an IPO would seem apparent. Most commentators cite the signalling and halo effects of a cornerstone tranche—particularly vis-à-vis retail investors, who often lack the ability to analyse the prospectus or otherwise assess the investment story and any associated downside risks. The thesis is that having household names as cornerstone investors in an offering would significantly raise the profile of a transaction, demonstrate interest in the offering to the wider market and by lending credibility and stimulating demand, thereby increase the chances of favorable pricing and of the transaction successfully closing.

In a weak equity market, the reality is that the cornerstone tranche is not just a marketing gimmick to attract retail orders, but actually critical to whether the IPO succeeds at all. By guaranteeing that a proportion of the deal will be sold, the investment banks have less to sell, which clearly assists the success rate of an IPO (especially one which is sizeable) in challenging market conditions. This has led to cornerstone investors featuring with increasing regularity in Asian IPOs in recent years, and also engendered a significant increase in the size of the cornerstone tranche when it did feature.

Oxford University Pressの述べるメリットを日本語でまとめると、

・個人投資家は目論見書の分析、投資ストーリーや下振れリスクの評価に関する能力に欠けていることが多い
・一方、コーナーストーン投資家は、その上場の知名度を上げ、その投資への信頼性を与える
・また、コーナーストーン投資家は、市場を刺激し、個人投資家を魅了し、有利な価格設定や上場の成功への可能性を高める
・コーナーストーン投資家の存在によって、一定の株数の購入先が確保されるため、投資銀行が販売しないといけない株数も少なくなる

とのことです。

一方で、批判の声もあり、

また、新規株式公開(IPO)を実施する会社が「コーナーストーン投資家」と呼ばれる中核的投資家への依存度を高めていることへの批判もある。

中核的投資家は通常、IPOで大量の割り当てを保証される代わりに株式を6カ月間売却しない「ロックアップ」に同意している。これが香港におけるIPOの仕組みについて疑念を呼んでいる。市場関係者は、この市場慣行は投資家からの関心をひきつけるのではなく、単にIPOを成功させる手段となっており、IPO実施企業の評価をゆがめる恐れがあると指摘する。

出所:日本経済新聞

という声や、

厳しい市場環境に置かれた中国勢が香港で株式を売り出した際には、国有企業などに引き受けを頼り、最大80%を割り当ててきた。それは専門的な知識を持つ資産運用会社や一般投資家の影響力を低下させ、正常な上場プロセスを損なってしまう。例えば中国郵政貯蓄銀行(PSBC)1658.HKが2016年に実施した70億ドル超のIPOは簿価を上回る売り出し価格になったが、同業者株のバリュエーションはずっと低かった。

コーナーストーン投資家の仕組みは、むやみに企業を上場へと駆り立てる可能性もある。

中国市場は既に企業統治の問題に悩まされ、株式取引は数カ月停止される場合もある。それなのにコーナーストーン投資家に依存し過ぎて市場の歪みを一段と深刻化させてしまうのは間違っている。

出所:ロイター

という声があります。


現状、コーナーストーン投資家の事例は中国では少ないですが、香港ではよく見られます。
最近では、農夫山泉の上場において、オリックスさん含むコーナーストーン投資家が合計3.2億米ドル相当の株式を購入したというニュースや、

仮条件の上限に基づき計3億2000万米ドル(約339億円)分の株式を買い入れるいわゆるコーナーストーン投資家は、オリックスを含め5組。同社は2000万米ドル相当を購入する。

他にはフィデリティ・インターナショナルが1億米ドル、コーチュー・マネジメントが8000万米ドル、GIC(シンガポール政府投資公社)は7000万米ドル、中国の構造改革基金とCCT-CITIC農業基金が合わせて5000万米ドル。

出所:ブルームバーグ


今は上場が保留になっているアントフィナンシャルが香港上場する際にコーナーストーン投資家は確保しないというニュースがありました。

中国アリババグループ系の金融会社アント・グループは、新規株式公開(IPO)で重複上場する香港では175億ドル(約1兆8400億円)の調達を目指す。十分な需要があるとの自信があるため、コーナーストーン投資家を確保することはしないと、事情に詳しい関係者が明らかにした。

関係者によると、同社は投資家の関心を調査した結果、IPOの香港部分はコーナーストーン投資家なしで成功すると判断した。同社はむしろ、こうした大口投資家を上海での株式売り出しに引き付け価格の振れを抑えたい考えだと、非公開情報だとして関係者が匿名を条件に述べた。

出所:ブルームバーグ


以上、コーナーストーン投資家とアンカー投資家についてのメモでした。

今後も随時レポートしていきたいと思いますので、
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竹内 雄登(Yuto Takeuchi)
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