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[後半] 国慶節の"リベンジ旅行"で注目を浴びた『海南省』

こんにちは。
中国大好きな竹内 雄登です。

国慶節の"リベンジ旅行"の目的地として注目を浴びた「海南省」まとめの後半です。
前半ではこんな内容をまとめました。

[前半]
・海南省は中国最南部にある「中国のハワイ」

・海南省は2018年に自由貿易試験区に指定
・2035年までに高水準の自由貿易港を目指している

・2019年末時点の海南省の人口は945万人
・『東京23区 - 渋谷区 = 海南省』だけど、中国全体の0.7%

・2019年の海南省の名目GDPは5,309億元(約8兆円)
・『スリランカとミャンマーの間』だけど、中国全体の0.5%

・2019年の海南省の旅行業売上は1,058億元(約1.6兆円)
・省都と第二の都市で90.2%を占める

・2019年の海南省の飲食業売上は312億元(約0.5兆円)
・海南省のフードデリバリーユーザーは深夜注文が多い
・フードデリバリー1回の注文で6万円超の強者もいる

後半では、以下の疑問にお答えできるようにまとめてみました。
少しでも気になった方は、ぜひこの記事を読んでいただけると嬉しいです。
お時間がない方は後半のまとめだけでもご覧ください。

・観光業に頼っている海南省はコロナでどのような影響を受けているの?
・観光業がコロナに立ち向かうために
海南省はどんな政策を出しているの?
・国慶節で海南省に人民大移動が起こっていると聞いたけど本当?
・海南省では免税でショッピングできるの?

では、後半もよろしくお願いします。


1. コロナ後の海南省における観光業

観光業に頼っている海南省はコロナでどのような影響を受けたのでしょうか?
また、コロナ後、どのようになっているのでしょうか?

1-1. コロナ後の観光業と政策

まず新型コロナについて振り返ります。

世界最初に新型コロナウイルスの感染拡大が起きた湖北省・武漢市では、2020年1月23日に「都市封鎖」されました。

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画像出所:東洋経済オンライン

これを受け、中国・文化観光部は「全国旅行社暂停团队旅游」を発表し、旅行関連事業者は1月24日から国内団体旅行と“航空券+ホテル”のパッケージの提供を停止し、1月27日以降の海外旅行含む団体旅行と“航空券+ホテル”のパッケージの提供を停止しました。これにより、省跨ぎでの旅行や団体旅行に制限がかけられました。
武漢が都市封鎖された翌日に、全国の人の移動に制限をかけるスピード感とトップダウンの体制を見ていて、中国の凄さを感じた方も多いと思います。

中国の腹を括ったコロナ対策により、2020年4月8日、湖北省・武漢市の「都市封鎖」が解除されました。

武漢の都市封鎖が解除されるまでの間、海南省の主要産業の1つである観光業が厳しい状況に直面していたことを受け、海南省・観光文化局は2月20日に「海南省旅文厅部署旅游业疫后恢复重振计划」を発表しました。
これにより、海南省政府は、コロナによって経営が厳しい観光事業者を支援するため、財務的な支援を開始しました。具体的には、海南省・観光文化局が旅行関連事業者から預かっている品質保証デポジット(旅行関連事業者は事業カテゴリとその範囲によって、決められた金額をデポジットとして所轄の観光文化局へ預けなければならない)を一時的に80%返金することにしました。海南省政府によると、この発表から1週間以内に、省の旅行関連事業者総数の約53%にあたる合計206社が申請書を提出したそうです。その中で、海口市は105社に3,700万元以上を一時的に返金したそうです。

中国がコロナを克服したと言われ出した頃の2020年7月14日、中国・文化観光部は「文化和旅游部办公厅关于推进旅游企业扩大复工复业有关事项的通知」を発表しました。
これは、先出の「全国旅行社暂停团队旅游」の解除(一部除く)することを意味しており、これを受け、170日以上禁止されていた省跨ぎの旅行や団体旅行が再開できることになりました。ただし、コロナ前に完全に戻るのではなく、以下を遵守することが前提とのことです。

・各観光名所が受け入れられる観光客数は最大収容能力の50%を超えてはならない
・観光客が密集しないようにグループツアーのルートやスケジュールを組む
・団体旅行の人数を少数にするようにする
など

出所:中国・文化観光部「文化和旅游部办公厅关于推进旅游企业扩大复工复业有关事项的通知」

そして、7月16日には海南省も「海南省旅游和文化广电体育厅关于恢复旅行社、在线旅游企业经营跨省(区、市)团队旅游及“机票+酒店”业务的通知」を発表し、海南省でも省跨ぎの旅行や団体旅行が再開されることになりました。

これらの旅行再開の発表を受け、Ctripさんをはじめとする旅行代理店やホテル、航空会社のサイトへのアクセス数が大きく増加したようで、Sanya2020さんによると、

Ctripのデータでは、三亜、海口、国明、成都、中清、西安、鄭州、広州、深セン、上海などへの航空券の人気が急上昇しており、特に三亜は検索数が580%増で全国1位にランクインした
出所:Sanya2020

とのことです。

では、実際の人の移動はどうなのか見てみましょう。

観光客の多い三亜市に着目してみます。
新浪科技さんの記事(グラフも引用)によると、三亜市にある三亜鳳凰国際空港のフライトは、

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・2020年7月には三亜鳳凰国際空港のフライト回復率が95.23%
・乗降者数1,000万人クラスの国内空港の中で回復率第1位

出所:新浪科技「【深度】刷这些数据发现,海南旅游真的挤爆了」

となっており、V字回復を遂げているようで、コロナ前とほとんど同じ水準で人が出入りしているみたいです。


また、新浪科技さんの記事(グラフも引用)によると、三亜市の宿泊客数と旅行業売上は、

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[宿泊客数]
・2020年2月は前年比▲95.63%
・2020年7月は前年比▲5.43%

[旅行業売上]
・2020年2月は前年比▲98.52%減
・2020年7月は前年同期▲1%

出所:新浪科技「【深度】刷这些数据发现,海南旅游真的挤爆了」

となっており、こちらもV字回復を遂げているようで、観光業はコロナ前とほとんど同じ水準に戻ったみたいです。

1-2. 国慶節の観光業

各種メディアでは、コロナによりステイホームを強いられた反動で、中国の人々は"リベンジ旅行"をしており、国慶節はその本命であると報道されています。

では、実際はどうだったのでしょうか?

昨日10/9に海南省が発表した報告によると、

[期間]
国慶節休暇10/1-10/8の8日間

[旅行客数]
・合計453.8万人
・前年比9.3%増

[旅行業売上]
・合計66.2億元
・前年比26.6%増


出所:海南省旅游和文化广电体育厅

とのことでした。

旅行業売上の66.2億元は、日本円にすると約993億円(15円/元で換算)です。
これを単純に平均すると、約124億円/日稼いでいることになります。

私が現在所属しているユーザベースの2019年の売上が約125億円なので、
『国慶節の海南省の1日あたり平均旅行業売上 = ユーザベースの年間売上』
となります。
海南省がたった1日で達成する売上のために我々は1年間かけているなんて。。。
365倍速ですか。。。
中国さすがです。。。

また、2019年の旅行業売上は年間で1,058億元(詳細は前半をご覧ください)だったことを考えると、その半分近くを今年の国慶節で稼いだことになり、いかに経済が復活しているかを感じます。

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ちなみに、旅行客1人あたりの消費額も前年比で増加しているようで、海南省によると、

国内の宿泊客客による一人当たりの支出は6,060.68元で、2019年に比べて16.5%増加しました。なお、インバウンドの宿泊客は一人当たり7,675.54元で、前年比23.0%増加した。

出所:海南省旅游和文化广电体育厅

とのことです。

やはり、みなさんストレスが溜まっていたのでしょう。

2. 免税

今までの内容から、コロナで大変だったものの、海南省の観光業は現在ではコロナ前とほとんど同じ水準まで回復していることがわかりました。

では、海南省に訪れる主要な目的の1つである「免税」についてまとめていきます。

2-1. 免税の政策

前半で触れた通り、海南省は1988年に経済特区に指定され、2018年に自由貿易試験区に指定されています。また、2020年には自由貿易港の体制を構築するためのさらなる政策が打ち出されています。

それらの政策と関連して、海南省は2011年5月から免税政策を実験的に行っています。
当初は海南省の非居住者である旅行者に対して、以下内容を認めるものでした。

[対象者]
・18歳以上
・海南省を離れる航空券を購入済かつ同省を出発していない旅行者

[内容]
・年間2回まで
・1人あたり1回の渡航につき5,000元まで
・衣類、宝飾品、化粧品などの輸入品18種類

出所:新華網

海南省において、免税でショッピングができるのは、現状、海口美蘭空港免税店、海口日月広場免税店、瓊海博鰲免税店、三亜海棠湾免税店(三亜国際免税城)の4カ所のみです。

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ご存知の方も多いと思いますが、そもそも、中国では、いわゆる「贅沢品」への関税が高く、免税への需要が高いです。
実際、私の周りでもブランドバッグやiPhoneなどが欲しい時には香港やシンガポールまで買いに行くという友人は多いです。

少し古いですが、2016年の産経ニュースさんによると、

中国国内で輸入品にかかる関税の高さも問題だ。ぜいたく品となる海外ブランド品は少なくとも20%の関税がかかり、さらに消費税にあたる税金が中国内で17%付加される。単純計算で40%近い割高だ。

出所:産経ニュース

とのことです。

こうした背景をもとに、海南省に行けば免税での消費ができることは中国にいる人からすると魅力的のようで、新華網さんによると、

19年末時点の統計では延べ1,631万人の旅客が免税品を購入し、売上高は累計538億元に達している。

出所:新華網

とのことです。

コロナ影響を受けて、旅行客数が減少しているため、免税消費も大きく影響を受けていていましたが、2020年5月にはマーケティング施策が功を奏したようで、JETROさんによると、

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、今年第1四半期の海南離島免税販売額は前年同期比30.3%減と大幅に減少したが、5月のゴールデンウィーク(1~5日、注2)期間中の各免税店の販促イベントにより、5月の海南離島免税販売額は前年同期比2.5倍の19億7,700万元と回復した。

出所:JETRO「海南省、国内旅客向け離島免税額10万元に」

とのことです。

2011年から始まった海南省での免税のルールは、その後何度か改正されてきました。

そして、2020年6月29日、国家税務総局は「海南離島旅客免税購物政策に関する公告」を発表し、7月1日より以下内容での免税消費を認めることになりました。

[対象者]
・16歳以上
・海南省を離れる航空券・鉄道および船のチケットを購入済かつ同省を出発していない旅行者

[内容]
・年間10万元まで
・回数制限なし
・商品1点あたり8,000元の免税限度額規定を撤廃
・対象商品の品目は45品目
(化粧品、おむつ、健康食品、家庭用医療機器などのほかに、茶、天然蜂蜜、電子製品、酒類、携帯電話など7品目の商品を追加)

出所:「海南離島旅客免税購物政策に関する公告」

なお、スマホの需要が高いためか、亜州リサーチさんによると、スマホは1回あたり4台までの制限があるようです。

一部の免税品目には購入可能な量の制限を設け、スマホは1回当たり4台までとした。
ある免税店では米アップルのスマホ「iPhone 11 Pro Max(512GB版)」を1万210人民元(約15万5000円)で販売。アップル公式ストアでの販売価格(1万2699人民元)からほぼ2割引きとしている。


出所:亜州リサーチ


7月からの免税ルール改正の効果は大きいようで、新華網さんの記事によると、新ルール開始わずか27日で売上が22億元を超えたようです。

7月1日から同27日までに、同省の離島免税売上高が22億1900万元(1元=約15円)、購入者数が延べ28万1千人となり、前年同期比でそれぞれ234・19%増と42・71%増、前月比ではそれぞれ45・51%増、12・63%増となった

出所:新華網

また、人民網さんの記事によると、新ルール開始わずか49日で売上が50億元を超えたようです。

中国免税品(集団)有限責任公司(中免集団)傘下の三亜市内免税店有限公司市場部の趙晶ディレクター補佐の説明によると、「現在、1日あたりの来店者数は3万-4万人に達し、これまでで最も多かった春節(旧正月、今年は1月25日)連休期間の来店者よりも多い。当社はさまざまな措置を取ってサービスの質向上に努めている」という。

データをみると、7月1日から8月18日までで、海南省に4ヶ所ある離島免税ショッピング対応の免税店の売上高が50億元を突破し、前年同期の3.5倍に増加し、1日あたりの平均売上高は1億元を超えた。


出所:人民網


上記1. にて、観光業が回復していると書きましたが、海南省への旅行客の目的が「免税」であることが多いようで、CNSさんの記事によると、

海南省に4店ある免税店近くの宿泊が全体の20%近くを占める。そのうち海棠湾に面している三亜国際免税城と海口美蘭国際空港免税店の近くの宿泊が人気だ。

出所:CNS

とのことです。

2-2. 国慶節の免税売上

ここまでの内容で、コロナ後でも免税ルール緩和の影響もあり、海南省での免税売上も回復していることがわかりました。

それでは、人民大移動が起こった国慶節での免税売上はどうだったのでしょうか?

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画像出所:新華網


同花順財経さんの記事によると、

・国慶節休暇中の免税商品の1日あたり平均消費額は1億元を超えた

・海口市の税関によると、10/1-5の
 - 免税売上は5.3億元(前年比136.9%増)
 - 旅行客数は8.2万人(前年比34.8%増)
 - 購入件数は54万件(前年比86.2%増)


出所:同花順財経

とのことです。

免税売上の5.3億元は日本円にすると約80億円(15円/元で換算)です。
これを単純に平均すると、約16億円/日を稼いでいることになります。

免税での消費だけでこの金額ってすごいですね。

3. 後半まとめ

今回のnoteをざっくりまとめます。

[コロナでの移動の制約]
2020年1月下旬から7月中旬まで政策によって中国全体で人の移動に制限をかけていた
・2020年7月中旬には一部を除き、省跨ぎの旅行が解禁された

[コロナ後の観光業]
・2020年7月には三亜鳳凰国際空港のフライト回復率が95.23%に
・2020年7月には宿泊客数と旅行業売上も前年比▲5%ほどまで回復
・前年と同水準になるほどV字回復している

[国慶節の観光業]
10/1-10/8の8日間での旅行客数は合計453.8万人
10/1-10/8の8日間での旅行業売上は約993億円
・単純に平均すると、約124億円/日稼いでいる
・国慶節の海南省の1日あたり平均旅行業売上 = ユーザベースの年間売上
・2019年の旅行業売上の半分近くを今年の国慶節で稼いだ
・ストレス発散なのか、1人あたりの消費額も前年比20%ほど増加

[免税政策]
・海南省は2011年5月から免税政策を開始
・2019年末時点で、免税の売上高は累計538億元
・2020年7月1日より免税ルール緩和、スマホが免税対象商品に追加
・7月の新ルール開始わずか27日で売上が22億元を超えた

[国慶節の免税消費]
・10/1-5の5日間での免税売上は5.3億元(前年比136.9%増)
・免税売上の5.3億元 = 約80億円
・単純に平均すると、約16億円/日を稼いでいる


最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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