トラウマケアの基礎理論(14) 安定化段階でなにをしていくべきか?⑤ 【愛着テーマ編】(愛着障害・AC・EMDR)
こんにちは、
うるま心理相談室ココロンのとねがわです。
あっという間にパート5になってしまいました。
ゆっくりお付き合いいただけたらと思います。。
今日は愛着テーマについて。
今回までの安定化の過去記事①〜④についてマガジンでまとめました。
※今回の内容もあくまで私の考える「安定化」であり、
お読みの皆さんの背景まではわからないので、絶対視せず、ヒントの一つとしてご覧ください。
すでに治療中の方は、ご自身のセラピストとの治療計画を優先してください。
今回は
8、愛着テーマ を扱います。
ふりかえってみれば、
EMDRの処理がストップされる背景にはどんな要因があるのだろう?
というテーマでここまできています。
今回は、その中でも結構大事なテーマ。
愛着というテーマは誰にでもあり、
トラウマ治療をする上でも、避けては通れない箇所です。
1、愛着とはなにか
まず愛着とはなにか?について、ここでは簡潔に確認します。
(詳細は別記事で詳しく掘り下げる予定です)
愛着とは英語で「アタッチメント」と呼ばれ、
「自分にとって大切な人物との情緒的な絆」のことを指します。
精神分析学者/精神科医の、
ジョン・ボウルビィという人が、概念化しました。
「自分にとって大切な人物」とは、
主に自分を育ててくれる養育者・またはそれに代わる人、のことです。
人間の乳児は、他の動物と違って
とても未成熟な状態で生まれてくるため、
他者からのケアを必要とします。
そのとき、乳児は自分をケアしてくれる環境となる人物を、
「安全基地」とみなします。
乳児は、「安全基地」があることで、
安心して外の世界を知るための探索行動を行い、
成長に必要な経験を蓄えます。
外には危険もあります。
しかしもし外で不安になっても、安全基地に戻って、
養育者が抱っこしたり、穏やかな声かけをして
気持ちをなだめてくれることで、安心を取り戻します。
これを、人とのつながりによる「協働調整」といいます。
協働調整は、何度もくりかえすことで内在化され、
今度は自分で自分をなだめることができるようになります。
(=自己調整と呼びます)
ところが、安全基地が不安定で、
・あったりなかったり、
・あるいはなんらかのやむを得ぬ事情でうまく供給できないと、
協働調整・自己調整がうまくいきません。
そのとき生じるのが、
人とのつながりを調整する力の困難さです。
大人になってもその名残が残る場合、
・感情コントロールが不安定
・親密な対人関係をつくれない
・生き延びを図るための防衛戦略
として現れます。
こうした状態を改善していくために、カウンセリングが役に立ちますし、
EMDRなどトラウマケアを視野に入れたアプローチは有効です。
2、トラウマ治療において、愛着テーマが大切である理由
人によって、愛着の根付きの度合いは違います。
割と安定している人もいれば、
グラグラしている人もいます。
ずっと求め続けている人もいます。
程度の差はあれ、基本的に
EMDRでは愛着テーマから処理していきます。
それにはいくつか理由がありますが、
2つの視点から今日は書きます。
1、試金石記憶(養分を与える記憶)
2、状態変化と特性変化
です。
1、試金石記憶
EMDRの基本コンセプトとして、今の困りごとと関連した、
その「最も古い記憶から処理を行う」があります。
最も古い記憶…その多くはまさに「愛着の記憶」であり、
最初にとりかかるべきその記憶を、「試金石記憶」と呼びます。
なぜ古い記憶からやるのかというと、
最も古い記憶は、その後の人生の体験における、木の「根っこ」にあたるからです。
根っこが弱っていると、どんな作物でも育ちにくいと思います。
人間もそうで、
根っこの記憶がネガティブな養分を吸い込み過ぎていると、
のちのちの記憶にまで、ネガティブな養分が浸透していくからです。
EMDRの「標準プロトコル」という基本手続きでは、
少なくともそのように考えるため、
まず根っこから治していく=愛着テーマから立て直していく、
というのが基本的な筋です。
…ところが近年、EMDRを別なところで受けた、という人の中で聞くのは、
EMDRをやるときに、セラピストから
「治したい記憶を3つ選んで。」と言われて
その通り自分で3つ選んで処理を始めた、という方が何人かいらっしゃいました。
そういうやり方がローカルでなされているのか、
経緯は詳しくは分かりませんが、
本当にその通りだったとしたら、これは実はあんまり正規のやり方ではありません。
もちろん意味がないわけではないので
苦痛度は多少下がるかもしれませんが、
完全には苦痛度=0にはならないはずです。
それか、堂々巡りに陥ることが予想されます。
それは、今の困りごとと、愛着テーマの間の関連を無視して記憶を選んでも、
本質的にはあまり意味がないからです。
2のトピックで詳しく説明します。
2、「状態変化」と「特性変化」
「困っている記憶を扱うなら、別にいいじゃないか」
と思われるかもしれませんね。
でもそのとき知っておいてもらいたい視点があります。
人の変化には、2種類あります。
①「状態変化」と
②「特性変化」です。
…聞き慣れない言葉だと思いますので、ちょっと説明します。
①状態変化というのは、
一言でいえば、表層上の変化のことです。
不眠がある、不安があるといった、表に出ている状態像statement
なら、睡眠導入剤や抗不安薬を飲めば、簡単に治ります。
状態というのは、割と可変的で、
周囲の刺激や、環境の変化でさらっと移ろいゆくところがあります。
一方で、
②特性変化というのは、
要は性格や習慣などといった、人格の深い部分の変化のことをいいます。
特性traitというと、近年は発達障害のことかと思われやすいですが、
ここではその特性とは違う意味の単語であることに注意が必要です。
特性の変化には、通常かなり時間がかかります。
古くは精神分析療法においても、パーソナリティの変化には、
年単位で時間がかかると考えられています。
それは、特性の形成には「愛着」が関連しているからです。
愛着には、その後の人生体験のありようや意味づけを決定づける
「基礎設計図」のような機能があるのです。
さっきの木の絵のたとえでいえば、
状態変化は木の「枝葉」の部分で、
特性変化は木の「根っこ」の部分の変化、なのです。
(枝ばっかり切っても、どんどん生えてきますよね。それと一緒です)
先にも述べたように、
EMDRでは、愛着テーマから扱います。
それは、「根っこ」の基礎の部分から抜本的に手を入れていくことで、状態変化も含めた建物全体の建て替え工事をしているようなものです。
愛着テーマを先に片付けておくと、
不思議とその後に控えていたはずの「枝葉」の記憶テーマも
苦痛度が自然と下がります。
特性変化は、その上層の状態変化にまで、
ダイナミックな変化をもたらすのです。
EMDRは、その本当なら時間のかかる作業を、比較的短縮して
行うことのできる、「短期間カウンセリング手法」の一つ、といえます。
したがって、記憶処理は、古ければ古いほどいい。
これが基本原則。
複雑性PTSDがある場合、
この基礎工事にとても丁寧に時間を費やしていく必要があります。
根っこの体験に非常に困難な記憶が連なっているからです。
愛着の記憶に触れるだけでもキツかったり、
記憶そのものが一部抜けていることが多いです。
なので表層(意識のレベル)から安定化作業を図ったり、
ときに身体的(無意識のレベル)なところから安心の土台をつくったりします。
それはここまでの過去記事で書いた通りです。
なのでもし、記憶の処理をしても「いまいちスッキリしないなぁ」と感じているときは
「愛着テーマの積み残し」がある可能性も視野に入れてもいいかもしれませんね。
安定化とは「意識」を固める作業
ここまでシリーズを書いてわかるのは、
安定化とは最も表層の「意識」の部分を固めていく作業
だといえます。
(あるいは意識を柔軟にしたり、しなやかにする、ともいえる)
心理学では昔から
無意識へのアプローチばかりがもてはやされる傾向にありますが、
「意識」はむしろ大事で、
強大な無意識のテーマに押し流されないための、防波堤です。
焦らずしっかりやりたいところです。
そこは修練と勉強が必要な領域なので、
私たちとしてもやりがいのある仕事ですし、
みなさまもちゃんと勉強しているセラピストを選ばれることをお勧めします。
以上、今回は安定化の記事ではありますが、
半分くらいは記憶の処理に踏み込んだところの議論をご紹介しました。
愛着テーマで困っている方は非常にたくさんいらっしゃるため、
今後も何回か、記事をわけて掘り下げて考えていこうと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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