見出し画像

奪わないスペシャリスト集団

ここはとあるカラオケ屋さん
令和の時代に、会社員総出で歌いに来ている
新入社員歓迎の日
でもその様子はちょっと奇妙なようで

社員 :『社長!いつ聞いても、じーんと響きます』

社長 :『おぉ、そうかそうか。今回は、磨きに磨きをかけたからな』

新入社員:・・・下手くそだったじゃん。今日は、こんなのがずっと続くの?最悪だ。あと4時間もあんのかよー!

社員 :『じゃあ次は部長、お願いします。今回もあれですか?』

部長 :『もちろんよ、浮気はしません』

♪~♬~♬~♩

新入社員:・・・さっきよりもひどかった、”君どうだった?”って聞かないで、お願い。私、嘘つけない

社員 :『じゃあ次は、課長お願いします』

課長 :『ついにこの時が来てしまったか。いつもこの日が来ると思い出すんですよ、自分の大事なものをね』

♪~♬~♬~♩

新入社員:大事ならもっとうまく歌えばいいじゃないか。あれ?これは夢なのかな?みんなが下手に歌ってる、なんかおかしい

社長 :『思いが入っているんだな~』

社員 :『では次、係長どうぞ』

係長 :『社長たちのようにうまく歌えるかどうか・・・自信はありませんが』

新入社員:えっ?うまい?次は私が歌う番なのに、ちょっとこれじゃどうしていいのか分かんない

♪~♬~♬~♩

新入社員:あぁ、紛れもなく下手くそだった。もう私の出番か~

社員 :『じゃあ次はあなた、準備はいい?』

新入社員:『・・・歌う前に一つ聞いてもいいですか?』

社員 :『いいよ、どうぞ』

新入社員:『何で下手に歌うんですか?係長の歌を聴いても思いましたが、もっとうまく歌えるはずなのに、頑張って下手に歌っているような気がします』

社長 :『そうだよ、その通りだ。ここにいるみんなは、もれなく下手に歌っている。すごく奇妙に思えただろうね。でもね、これは社員教育で欠かせない、第一の門なんだ。そうだよね?課長』

課長 :『そうです、本当に。僕はね、新入社員だった頃、同じように歓迎会でカラオケに行ったんだよ。みんな下手に歌うし、変だなと思いながら自分の番が来てしまった。僕は関係なく、うまく歌おうとしたんだ。そしたら、全員が重ねて下手に歌ってくる。もう最後は動物園のようだったよ。訳が分からなくてね、困ってる僕に種明かしをしてくれたんだ。そうですよね、部長』

部長 :『うふふ♪他人のものを奪わないんですよって言ったかな。その人の歌はその人のものだから、うまく歌っていいのは本人だけ。周りが下手にしか歌わなければ、本人の歌しか聴きたくないでしょ?あの歌が聴きたいと思えば、本人の歌を聴く以外になくなる。もし本人以外にうまく歌う人が現れたら、本人の歌を聴きたくなる気持ちが薄れてしまうし、本人じゃなくてもいいやってなるの。自分の歌ならうまく歌ってもいい、だってそれは自分の作品だから。でも他人の歌をうまく歌うってことは、その人からその歌を奪うことと同じなのよ』

係長 :『私は、意味を聞いても最初は、意味が分からなかった。でもこの他人のものを奪わない精神がどれだけ大事か前よりも分かるようになってきた。例えば、そうだな~人の手柄を奪う人がいるでしょう?自分がやってないのに、褒められて、ありがとうございますってちゃっかり言うヤツ』

新入社員:『あ~いますね』

係長 :『彼らは、自分に都合がいいと判断したものは容赦なく奪っていく。逆に自分の都合の悪いことになると、私じゃない、○○さんがやりました、△△さんが言いましたって逃げるのよ。でもこの生き方で自分を成長させることは決してできない。じゃあ、どうすればいいのか。自分がやってないのに褒められたときは、○○さんがやりましたと言って、必ず手柄をもらうべき人に渡すこと。自分のものにしないこと。これが大事になってくる。奪う人と奪わない人とでは、他人の名前を出すタイミングすら違うのよ』

新入社員:『あぁ。そうですね』

係長 :『これは奪っている意識、自分が悪いなって意識が働いているパターンの話し。でも、今回のカラオケみたいに、奪っている意識がなく堂々とやっていることも人間にはあるの。この会社は、このレベルで、”奪わない”を実践していくところ。自分がやっていることが、他人から何か奪っていないか?形がある物だけじゃない、時間や気持ちもそうです』

新入社員:『そんな意味が、この歓迎会に隠されていたんですか~』

課長 :『僕たちも勉強中。ちょっと他の会社とは一風変わっているけれど、真剣に取り組めば新たな気づきが待っているでしょう』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?