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人間は自分が一番分からない生き物

ここは、とある民家
縁側で今日も祖父と孫が談笑していたところ

孫 :『ねえ、じいちゃん。嘘をつかれたことある?』

祖父:『しょっちゅうあるぞ。数えきれんくらいじゃ。自分でも分かっとらんのも、あるかもしれんな。なんだ、お前は誰かに嘘つかれとるんか?』

孫 :『・・・う~ん、たぶん。認めたくないけど・・・。あいつはずるいヤツなんだ、自分のために嘘つくんだ』

祖父:『そうか~。じゃあ、お前もずるくて誰かに嘘ついとるんじゃろな』

孫 :『えっ?僕はしないよ、してない!』

祖父:『昨日、宿題したのか母親に聞かれたとき、”やったよ”と言ったのは本当だったのか?ゲームの後にこっそり宿題してたの、じいちゃん見たぞ』

孫 :『うっ・・・』

祖父:『ジブンノタメニ、ウソヲツキマシタネ?』

孫 :『そ、そ、そうだけど、あいつの嘘とは違う』

祖父:『どこがどう違うんじゃ?』

孫 :『あいつの嘘はたぶん人を傷つける嘘で、僕のは・・・』

祖父:『嫌かもしれんが、よく聞け。人にされて嫌なことは、自分が人にしていることなんだぞ。わしだって、人生の後半に、少しずつ分かってきたことじゃ』

孫 :『えっ?そうなの?じーちゃん』

祖父:『もし、あいつと自分は違うと言うなら、どこが違うのか説明できなきゃダメだな。説明もできずに、あいつと同じにしないでくれと言ったって同じヤツにしかならん』

孫 :『???』

祖父:『さっき言っとったな、”あいつの嘘は傷つく嘘で・・・”と』

孫 :『うん、言った』

祖父:『じゃあ、お前の嘘は誰も傷つかんのか?』

孫 :『うん、そうだと思う。嫌みっぽくもないし』

祖父:『本当にそうかのう?母親は、お前の嘘を信じたんだぞ。嘘だと分かったらどうなるんだろうな?』

孫 :『う~ん、怒る!』

祖父:『確かにそうだな。でも傷ついたから、怒るんじゃ』

孫 :『・・・』

祖父:『もしかしたら今回のお前みたいに、母親はすべてお見通しで、お前の嘘を見つめていたかもしれんがな』

孫 :『えーーーーーーーーっ』

祖父:『”あいつ”が嘘をついたときにお前が思ったことは、お前が嘘をついたときに母親が思ったことと同じじゃろうと、わしは思う』

孫 :『だからなんか変だったんだ、母ちゃん”分かった”って言ってたけど本当は・・・うーっ』

祖父:『それにお前の取った行動は、信用詐欺だな。相手を信用させて、詐欺を働く。同じようなもんじゃぞ。板につくと、そう簡単に嘘をつかなくて良かった時代には戻れんぞ。そうなったら、自分の嘘で自分が一番傷つくぞ。今回はそうなる前に、人に教えてもろうたな』

孫 :『あぅ・・・』

祖父:『今回は”嘘”を題材にしたが、人によってはこんなのもあるぞ。人からされて嫌なことが、”すぐ甘えてくるヤツ”とか”質問を質問で返してくるヤツ”とか”自分の意見を持っていない人”とか。それぞれ、その人の一面じゃ』

孫 :『そうなんだ~でもじいちゃん、話し聞いてもまだピンと来ないところがある』

祖父:『あはは、分からんでも焦るんじゃないぞ。丁寧に見ていくと、そのうち分かるようになる・・・かもしれん(笑)』

孫 :『かも・・・か』

祖父:『人間は自分が一番分からない生き物なんだ。自分以外のものが、自分というものを教えてくれる。目の前の人間に怒る時なんかは、一番わかる瞬間かもな。お前だってそうだろう?いつも母親に痛いとこつつかれて、ムッとしとる。わしだって娘に言われてムッとする(笑)言い返せないのは、自分でも思っているから。平気で生活できているのは、普段は忘れているからじゃろな・・・』

孫 :『じいちゃんも?』

母親 兼 娘:『なんですか?二人とも』

祖父:『いやいや何でも無い、かわいい娘よ』

孫 :『くっくっく(笑)』

祖父:『(小声で)あぁ、そうだ。まだ、わしも自分を分かっていない。だからな、こうやってしょうもない嘘をつき、誰かからしょうもない嘘をつかれるんだ』

孫 :『じーちゃん、しょっちゅう嘘をつかれるって言ってたもんね』

祖父:『板につきすぎて困っとるよ』


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