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システム開発現場における派遣契約の実態~多重派遣~

システム開発現場では、実質的な多重派遣が蔓延しています。「実質的な」というのがミソです。契約形態上は多重派遣とならないようにすることが多いからです。

システム開発において発注側と受注側とで取り交わす契約には、主に3つの形態があります。

①請負契約
②準委任契約
③派遣契約

請負契約

民法第三編第二章第九節で規定された契約形態です。

簡単に言うと、請負契約で提供するのは成果物です。労働力は提供しません。

準委任契約

民法第三編第二章第十節第六百五十六条に規定された契約形態です。
準委任契約については、じつは1文がピランとあるだけです。

この節の規定は、法律行為ではない事務の委託について準用する。

委任契約に準じているから、「準」委任契約といいます。
その委任契約は、法律に関する業務を委託する際に結ばれる契約です。

準委任契約で提供するものは、専門知識や能力である場合と、成果物である場合とがあります。労働力は提供しません。

派遣契約

「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」で規定された契約形態です。

派遣契約で提供するのは労働力です。成果物でも、専門知識や能力でもありません。

請負契約と準委任契約と派遣契約の違いについて

このあたりのサイトが詳しいです。

SES契約って何なの?

SESという形態で契約するケースもあるようです。じつは、法律に出てくる契約形態にSESというものはありません。実際には、準委任契約の名前を変えたものである場合が多いようです。

システム開発業界の現状

冒頭の通り、システム開発現場では、実質的な多重派遣が蔓延しています。「実質的な」というは、契約形態上は多重派遣とならないようにすることが多いからです。

以下のケースは多重派遣となり、法律で禁止されています。

①発注会社~A社間が派遣契約、A社~B社間が派遣契約で、B社が雇用するaさんを発注会社に派遣する

しかし、以下のケースは法律では禁止されていません。

②発注会社~A社間が派遣契約、A社~B社間が準委任契約で、B社が雇用するaさんを発注会社に常駐させる
③発注会社~A社間が準委任契約、A社~B社間が派遣契約で、B社が雇用するaさんを発注会社に派遣する
④発注会社~A社間が準委任契約、A社~B社間が準委任契約で、B社が雇用するaさんを発注会社に常駐させる

図で表すとこうなります。(左から①、②、③、④です)

派遣と準委任_2重

②と④の場合は、aさんはB社の人間から指揮命令を受けることは出来ますが、A社や発注会社からの指揮命令を受けることは出来ません。

③の場合は、aさんはA社からの指揮命令を受けることは出来ますが、発注会社からの指揮命令を受けることは出来ません。

現実はどうでしょうか。

②、③、④いずれの場合も、発注会社がaさんに指揮命令を出しているケースがあります。これが、システム開発における多重派遣の実態です。勿論、全部が全部そうではなくて、指揮命令の範囲がしっかりしている現場もあります。

ちなみに、発注会社の下が3階層の場合は、こうなります。

派遣と準委任_3重

この、契約形態の組み合わせを利用(悪用?)しているのが、システム開発業界における多重派遣の実態です。私の経験では、発注会社から3階層以上になった場合、法令に遵守した指揮系統となっている現場を、見たことがありません。

なぜこのような事になるのでしょうか。

原因は複数考えられます。現場によって、これらが単独で原因になっている場合もあれば、複数が当てはまる場合もあるでしょう、

1つ目は、発注会社は発注先が更に再発注したかを、知ることが出来ません。最近はベネッセでの情報漏えい事故があったからか、予め契約で再発注を禁止にしている場合、あるいは再発注の回数を制限している場合もあるようです。しかし、そのような場合であっても、実態は不透明です。というのは、発注先の会社がその契約を実際に遵守するかは、発注先の会社の良心に委ねられているからです。発注先の会社が「再発注してません」と言い張ってしまえば、発注会社はそれ以上突っ込めないのです。

2つ目は、第1階層の会社が第2階層の会社へ発注した場合、更に何階層まで下っていくかを、第1階層の会社では管理できません。先程の3階層の図でいうと、A社はB社に再発注したあと、B社が更にC社に再々発注していないかをA社で管理する方法が無いのです。

3つ目は、第2階層以降の会社にとって、その契約が何階層まで下ってきたものなのかを把握することができません。
3階層の図でいうと、B社はA社からの契約が何階層目の契約なのかを、把握することが出来ません。同様に、C社はB社からの契約が何階層目の契約なのかを、把握することが出来ません。

4つ目は、発注会社が発注先の会社を限定しているケースがあります。様々な会社から人材をウェルカムすると、契約手続き上で大変な手間になります。発注先の会社を絞ることで、会社間での契約手続きの手間を少なくしたいと考える場合があります。
発注先の会社に人材がいる場合は、それで問題ありません。しかし、発注先の会社には人材がいない場合があります。その場合は、更に別の会社に再発注して、人材を集めようとします。なぜならば、自社から人材を送り込むことができれば、多少なりとも自社の利益になるからです。

5つ目は、そもそも人材提供会社が多すぎることです。小さな名の知れない人材提供会社は、たくさんあります。それらの会社にとっては、とにかくどこでもいいから案件が欲しいわけです。案件を確保しないと、会社が潰れてしまうからです。自社が何階層目であるかは気にしません。案件が取れればそれでよい。契約形態が派遣だろうと準委任だろうと、人を現場に送り込んでしまえば良いのです。ちなみに、このような会社の場合、契約形態が何であるかを被派遣者には伝えないまま、被派遣者を現場に送り込んだりします。そうすることで、被派遣者には指揮命令系統がどうなっているのかを曖昧にしたまま、現場で出る指示に従って動いてもらうのです。

6つ目は、被派遣者の多くは法律に疎いことです。法律を知らないこと自体は、何ら罪ではありません。しかし法律を知らないと、自分の身を守ることが出来ません。会社によっては、被派遣者が法律を知っていくことを好まない会社もあるかもしれません。


では、どうすれば現状を変えられるのでしょうか。

1つ目の方法は、自社で人材を集めて雇用契約を結ぶことです。雇用契約には無期雇用と有期雇用があります。ここでは一時的に人材がほしいわけですから、多分有期雇用になるでしょう。
この方法ですが、会社は人材の分だけ、社会保険料や雇用保険料を負担しなければなりません。派遣で人材を集めることのメリットの1つが、これらを自社では負担しなくて良いことです。そのメリットを消してまで、自社で人材を集めようとする会社は、多分現れないでしょう。

2つ目の方法は、日本における人材提供会社を集約してしまうことです。人材提供会社が数社に集約されていけば、殆どの場合はその会社内で人材を調達できます。仮に調達できなくて再発注した場合、再発注先の会社には、それが再発注モノであることが分かってしまいます。この方法ですが、中小の人材提供会社にとっては、たまったものではありません。もしこの方法が採られた場合、違憲だとして、国を訴える会が発足してもおかしくはありません。そして、訴えられた国が敗訴し、原告側に慰謝料が支払われる場合ですが、その慰謝料の元金は税金、つまり国民の血税ですからね。

3つ目は、マイナンバーを利用して、その人の所属会社を管理・確認する方法です。ただし壁は幾つもあります。まず、マイナンバーはそもそも個人の所属会社を管理する目的ではありません。仮にマイナンバーを管理できたとしても、その情報を第3者が確認することは、個人情報保護面で引っかかる可能性があります。


まとめると、現状を変える方法自体は複数あるが、どれも現実性に欠けたものだと言えます。

このことより導かれる結論は、以下となります。

システム開発現場で多重派遣が蔓延している現状は、変えることは出来ない


次回は、システム開発現場での派遣で面談あるいは職場見学が行われるのは何故なのか、を考察してみようと思います。

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