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【連載】家族会議『結婚式の主賓あいさつですべった話』

「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。その様子を、録音記録をもとに書き記しています。

前回の記事はこちら。

家族会議7日目#4|結婚式の主賓あいさつですべった話

――前回の記事で書いた、父が恩着せがましく「拾ってやった」という部下。その部下の結婚式では、スピーチもしたという。


俺(部下の)スピーチしたもん。
奥さんが大手銀行に勤めてる人で、部下がうちの会社で。スピーチでは、No.1の銀行とNo.1のわが社と。No.1とNo.1がくっつくからNo.1だとか。訳のわからないこと言った記憶があるわ。


演説得意だもんね。


得意じゃない。

わたし
得意でしょう?だって昨日部活の話。


得意じゃないよ。だけどそういうこと言ったよ。確かに。


――父は学生時代も、部活動勧誘の演説でかなりの人数を集めたらしい。得意ではないとしても、好きなのだと思う。人に注目されたり、人心を掌握したりすると、優越感を感じられるから。


わたし
そういうの好きだよね、お父さん。気を引くワードを入れ込んで、ちょっとかっこよくまとめるの。そういうアイディアがあるっていうかさ。
話してるときもおしゃれワードを入れてくるから、ちょっと意味がわからないときがあるぐらいな感じ。笑


何かドーンと、花火じゃないけど何かをあげるみたいな感じで。

わたし
なんかおしゃれにまとめるセンスはある。ただ、伝わらないときもある。


――父は聞こえのいい言葉とか、知的そうな言葉とか、そういう言葉を使いたがる。それが、伝えたい内容とは違う言葉だとしても、無理くり押し込んできて成立させる。

言葉の扱いが雑だから、父の本意を知りたい場合は質問が必要になるのである。



伝わらないのでね。一番赤っ恥かいたのがあれだよ。

わたし
あるんだ。やっちゃったなみたいな。


やっちゃったなっていうのがあって。結婚式だった。これも。俺教育やってる頃の部下が結婚して、招待されて、やっぱりスピーチしたんだ。ちょっとオチを入れて喋ったんだけど、どうもあの参加者はね、

わたし
参加者のせいだ!?爆笑


オチを理解してくれなかったね

わたし
参加者の奴らはオチを理解できなかったんだ。お父さんのセンスあるオチを。笑


あれ?ここ笑ってくれるとこなのに、笑ってくれないわと思ってさ、焦っちゃってさ。これ早く切り上げようと思って、あとのやつ端折ってスピーチした記憶あります。帰ってきたときには手が震えて酒も飲めなかった。笑

母&わたし
あはははは!爆笑


――久しぶりに家族会議で爆笑していた。父も自虐ネタを楽しそうに話している。笑いある雰囲気はいい。

だけど母もわたしも、内容にはドン引きするのである。

「ここでも他責ね」と。

あまりにも堂々と参列者のせいにするから思わず爆笑してしまった。

自分の失敗はすべて他人のせい。笑えないことのほうが多い。


わたし
すごいね。なんかオチ言う人って案外そうなんだね。言う割に緊張してるっていうかさ。すべっても「あ、やっちゃった」みたいにできる人が、オチのあるような話をしそうなイメージがあるけど、案外そうなのかもね。
計算が狂っちゃうと。


素晴らしい演説にしたかったわけだね。スピーチにしたかったわけだね。


素晴らしいというか、笑ってほしいから賑やかにしたかったんだ。

わたし
お父さん案外そういうのあるよね。なんか時々、楽しくしたい、させようみたいなさ。子供心っていうか何心なんだろう?なんかちょっと、わくわくしたのが出ちゃう。なんて言ったの?ちなみに。覚えてるの?


いやなんかちょっと忘れたな。


――そう。父は「相手を喜ばせたい」という純粋な気持ちを持っていたりする。

残念なのは、相手の立場に全く立てないところだ。

相手が全く望まないことを自分本位にやっては、相手から思った反応が返ってこないと怒り出す。本人としては下心などなく、純粋な気持ちが発端だと思っているから傷つくのだろう。

結婚式のスピーチでは、「みんなを笑わせたい」という純粋な気持ちの他に、「みんなに笑ってもらえれば自分が優越感に浸れる」という下心があったはず。

その下心があることに気づければ、少しは自分本位だったことにも気づけると思うのだけど…。



なんかあれ、スタートしてまもなくだから、みんな緊張してたのかな。

わたし
お父さんは新婦側の主賓挨拶?


うん。

わたし
じゃあ、なんかもうしょっぱな


しょっぱなのほう。

わたし
食事が始まる前?


うん。

わたし
結構そこでね、オチのある話入れるのってチャレンジャーだよね。笑


高度な、


低度なのに高度な話しようとした。笑


――わたしは長年ウェディングプランナーとして働いていた。だから多くの人のスピーチを聞いてきた。乾杯前の主賓あいさつでも、笑いをとれる人はとれる。そういう人は、人の気持ちを掌握しようというよりは、人の気持ちを大切にしている人だと思う。

新郎新婦、両家の両親、友人たち、それぞれへの気遣いがあるから、会場全体の笑いを誘う。

笑いをとらない誠実なスピーチでも、本当に相手のためを思っている、その感情が伝わってくる言葉だと、無関係の私まで「おぉ」と感嘆してしまう。

そう考えるとスピーチは、いかに自分本位な欲求を捨てるか、心からの気持ちを表現するかが重要なのかもしれない。


- 今日はここまで -


昔の結婚式のスピーチの定番は「3つの袋」の話だった。今の若い世代はほとんど知らないだろうけど。

「堪忍袋・給料袋・お袋」の3つを大切にすべきだという話だ。

ここに「お袋」が入っているんだなぁと改めて感じる。男性にとって「お袋」が大事な存在であることを表しているように思うし、その「お袋」を大事にせよと、新婦側に求められているような気もする。

「お袋」は互いの親を指しているとされているけど、この言葉が生まれたころはきっと、男性側の母親を指していただろう。父の「お袋」信仰は、こうした価値観からも影響を受けているんだろうなぁ。

そんな父に、母はもう堪忍袋の緒が切れそうである。

<次回に続く>


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