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なぜHUNTER×HUNTERは1番面白いのか② 【99%の漫画家が諦めた道】


前回記事の続編です

『HUNTER×HUNTER 暗黒大陸編』と
『舞台が壮大なだけの駄作』は、一体どこが違うのか?を考察していきます

① 暗黒大陸編までにストーリーの積み重ねがある


これが理由の半分かもしれません
読者には33巻かけてキャラクターや念の魅力をたっぷりと伝えられている
もしHUNTER×HUNTERがいきなり暗黒大陸編(群像劇)から始まって
ゴンキルアそっちのけでこんな↓風に念能力をベラベラと説明されたら

(HUNTER×HUNTER カラー版 36巻)

流石に打ち切りだったと思います
いくらゲームシステム(念)が面白くてもチュートリアルで延々と説明されるのは辛い
でも把握しないとゲームを深く楽しめない、というジレンマがあるのですが

HUNTER×HUNTERはチュートリアルという形ではなく
『ゴン主人公の念能力バトルアクションゲーム』をまずロングランヒットさせてから
そのシステムを流用して『暗黒大陸編(オープンワールドゲーム)』を打ち出すことにより
このジレンマを見事にクリアしているのです

なので情報量が多くなっても苦痛ではなくボリュームたっぷりのDLCとして楽しめる

似たような成功例として、フロムソフトウェアの『エルデンリング』が当てはまるでしょうか
あれもいわゆる『ソウルライクゲーム』という下地と伝統があって
同じプレイ感のままオープンワールドを楽しめたのが大きいと思います
アメコミ映画においては「マルチバース」や「クロスオーバー」の伝統ですね

グランドホテル形式の駄作やコケたオープンワールドに足りなかったのは主にこの視点です
『壮大な世界を作りたーい!』という意識が先行しすぎてメインシステムがおざなりになりがち
他の作家が物語やシステムを深く掘り下げている横で
延々とマインクラフトに没頭してたら内容に差がつくのは当然でしょう

② 99%の漫画家があえてやらなかった舞台設定

暗黒大陸編は壮大ですが、極めてシンプルな舞台構造をしています
魑魅魍魎が詰められた1つの壺のような構造をしています
次回には丸ごと沈んでてもおかしくありません、モレナ一家がすでに無差別テロを始めていますし

(HUNTER×HUNTER カラー版 36巻)

たった1人の暴走が全てに影響して、壺の中身はグチャグチャになってしまう
だからミザイはクラピカの動向を心配し、ヒンリギはヒソカを隔離しようとし、オウはフィンクス達をあえて仲間に迎えることで
船内のカオスを必死に『調整』しようとしているわけです

その『調整』を1つ間違えれば夢も野望も海の藻屑と消えます

(HUNTER×HUNTER カラー版 36巻)

全員が一蓮托生、全員が一触即発

グランドホテル形式でありながら
オープンワールドの広大さとデスゲームの閉塞感を併せ持っている
実に上手い これ以上の正解が見当たらないくらい完璧な舞台設定です

おそらく、漫画家ならば一度はこういう舞台を妄想するんだと思います
しかし才能があるがゆえに「現実的ではない」と99%のプロが妥協してきた

しょせん我々凡人が作ったコピペですしね

↑どうやらこれも2流の考え方だったようです

その「先人が思いついたけどあえてやらなかった」事を
冨樫義博は成功させてしまったのですから

③ 読めなくてもなんとなく面白い

正直に言うと、クロロvsヒソカ戦とか最初は「???」と思いながら読み進めてました
ツェリードニヒの能力に至っては未だに理解してない一般読者も多いのでは?
それでも問題なく面白いのは冨樫義博のストーリーテリング能力の高さに他なりません

(HUNTER×HUNTER 34巻)


ストーリーテリング能力とは何か?
それは要点を分かりやすく伝える能力です

(HUNTER×HUNTER カラー版 34巻 )

このシーンは巧みで、ボウリングの球という誰もが想像できる
リアルな『重み』を感じさせることで肉弾戦を生々しく演出しています
これだけトリッキーな頭脳戦をしていると頭でっかちになりすぎて
戦闘描写の比重が軽くなってしまうことを危惧したのでしょう

(HUNTER×HUNTER カラー版 34巻)

そして俯瞰で見れば、要するに
『クロロが爆弾ゾンビを操ってヒソカが孤軍奮闘している』というシンプルな構図

こういった狙いにより全部読めなくてもスゲェ事が起きてることは分かる
冨樫先生は勢いと雰囲気でゴリ押すバトルマンガの才能もピカイチなのです
技巧はあるけど決して小細工に堕してるわけではない

(HUNTER×HUNTER モノクロ版 37巻)

そして船内は複雑な状況ですが、実は読者には真相をちゃんと伝えてから
キャラクター達の推理や思い違いが描かれているだけなことが多いです
なのでそこまで読む側が迷子になることはありません

④ セリフの妙

冨樫義博と言ったら外せない要素ですね 

Q5:漫画を描く上で、映画に影響を受けている部分はありますか?

A5:一番参考にしたのは字幕ですね。
   限られた字数でいかに簡潔に効果的にその状況に合った言葉を
   紡ぐか、という課題は私にとって
   構図やデッサン以上に重要なものでした。

(ハンターハンター 0巻 冨樫先生の一問一答)
(HUNTER×HUNTER カラー版 36巻)


『異変解決のため王子の部屋の調査を求めたが、念の講習会で起きた暗殺事件をクラピカの仕業だと疑ってるウェルゲーは拒否し、その理由を語る』シーンなのですが 

『家人が自ら家に招く様に惑わすドラキュラ!』というワンフレーズで綺麗にまとめていますね

分かりやすさだけなら暗殺当時の回想も挟むのが最善ですが
ここはあくまで新キャラ・ウェルゲーを魅せるシーンですし
ページも嵩張ってテンポも悪くなるので、これが最適解なんだなと思わされます

(HUNTER×HUNTER カラー版 36巻)

“あれは飼えないヨ 野生の火竜”
“念は余りにも脅威故に「持つ者」が内外の立場を越えて厳守しているのが「均衡」(バランス)…!ジェンガみたくネ”

ここのセリフも好きですね〜、凡庸な言い方すると
『念使いはお互いが天敵だからドンパチにならないよう本能的に力を隠しているもんだ』
『侍が刀を抜いたまま往来を彷徨いてるようなもんだイカれてるぜ』とかでしょうか
うーん普通すぎてつまらない笑

こういう言い回し自体を楽しめる漫画は希少だと思います
ドラマチックな台詞は数あれど、システマティックな台詞を楽しむというのはね

⑤ まとめ


まだまだたくさんあると思いますが、まとめると

冨樫義博とは『すべての漫画家がやりたかった、でも諦めていたことを実現した漫画家』である

才能はあったけどプロ(商業)だから諦めていたこと
発想はあったけどアマ(同人)だから到達できなかったこと

この2つの壁を越えてしまった漫画家である、と言えます



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