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【 何でもない様な事が 】~コロッケ~



陽射しの存在が痛くて気になりはじめた
5月の下旬

9つの名の土地から
娘がやってくる…。


年に一度は愛知県に戻ってくる彼女…。

数日
こちらで過ごす為に、
彼女の
寝具を買い出しにいくこととなった。


我が家は来客用の布団は置いてない。

何度か購入してはすぐに
自分達専用にしてしまう。

猫達と暮らすせいか
どうしても新しい
寝具へと瞬く間に交換してしまう…。


なので
予備の寝具は保管していないのである。

それで

何処に買い出しにいこうかと
思った時

過去に

元パートナーとよく出掛けていたホームセンターに出掛けてみることにした。


どれぐらいぶりなのだろう…

25年前は

何もなかったこの周辺
新しい住宅街

今では次々と大型ショッピングモールが建ち並び、
目まぐるしく似たような物質の存在が
少しだけ形や材質や名前を変えて
華やかに店頭に並んでいる様に見えた…。

そんな中でわざわざ錆びたホームセンターに飛び込んだのは

過去に寝具をここで
購入した記憶を思い出したからだった。

ただそれだけの理由だったのだが、
本当
久しぶりに出掛けてみたところ
古くて錆びた感じを漂わせているにも関わらず駐車場は満車だった。

なのに何故か
店内に入ると人がほとんどいない…。

たぶん園芸や材木コーナーに人が集まっているのだろう。
雑な陳列の間をすり抜けて奥に向かった。

目的の寝具を見つけ
レジに向かうと

見るからに
ご近所のパートさんらしき主婦であろう女性が

「ライン登録したら10%割引になるからいかが?」

そう伝えてくれた。


この錆びたホームセンターに似つかわしくない
綺麗な女性であり

マスクはお洒落なレースをあしらったピンク色…

小料理屋のお着物の似合う様な
気さくで色っぽい女性だった…。

笑顔で見送られながらズルズルと
引きずる様な感じで
寝具を運びながら表に出ると

みたらしやたい焼き
たこ焼き、コロッケ等が並ぶ
懐かしの屋台が
相変わらずの風貌

コロナ禍にあっても元気に営業されていた。

実は重度な
くも膜下出血で生死をさまよった
元パートナーは
コロッケが大好きな人で

何処かに出かける度にコロッケを見かけるならば
必ずひとつ買っては

ホクホク食べる人だったのだ。

しかし私はその逆で
揚げ物が嫌いだったわけで

特に
唯一嫌いなものと聞かれると
子どもの頃ではコロッケだった。

なのに
彼はこどもの頃からコロッケが大好物だったらしい。

(だから倒れたんじゃないの…。)

並んだコロッケを横目で眺めながら

責任転換というか…
大病の原因を
何かのせいにしたかった私がいたようだ。


そう心で呟きつつ
断捨離中に見つけた病床での彼の手紙を急に思い出した…。

そう

その手紙の内容は
私たち家族へ向けた短い文章だった…。


看護士さんと共に頑張って書いたと
思われる手紙だった…。


その手紙を見つけた時
私は感情が揺れる前に
その場で手紙をしまった。


そっと
主に感謝して再び閉まった…。




ホームセンターの駐車場に向かう前に

通った懐かしの屋台…


小さな長女を片手に抱きながら

コロッケを選んでいる彼の姿が見えた…。

その場に懐かしの思い出の風景を
みてしまった私は

悲しいとか

苦しいとか

そんな感情はもうなかった…。


時が癒す事をこの齢まで生きて知っていたから
ただ、ただ
その瞬間を目まぐるしく生きて

ひたすら
待ち望んでいた…。



数日前の出来事

偶然
彼の運転する車とすれ違った。


助手席には
義理母がいたようだったが
その時は
小さくて見えなかったので
気が付かなかった。


私は咄嗟に

手を振った。

そして気がついた彼も手を振った…。

それで私は心配だった為に
彼の車を探していくと、
義理母と
買い物に出掛けてきていたようで
あるスーパーの駐車場で
停まっていたのだが…

車をゆっくり走らせている私に
彼が気がつき、

私の存在に気がつかない助手席の母親に気を遣いつつ

笑顔で笑いながら手を小さく上げた。

何年も前には
高次脳機能障害で
そんな気配りさえ
出来なかった彼の空気の読み方に
何だかおかしくて


誰にも理解されないであろう
頷きをし

私も母親に気遣いしている彼の笑顔を見て

躊躇いつつも


(じゃあ…。)

そうアイコンタクトをしてその場を立ち去った。




陽射しが痛くて気になりはじめた

5月の下旬にふと思った…



ある祈りをしてからは

風の流れが変わったんだと…。



ぼんやりコロッケを眺めていて
人のザワメキに

我に返った私…。


ほんの僅か

数分の事だったと思うのだが


いくつもの思い出の写真が流れたようだった…。


この古めいたホームセンターで
仕事道具を購入したり

休みの日には一緒に日用品を、買い出しにいったりしていた頃の
鮮明なスクリーン…。

初夏の風…




そして帰り際に
娘を片手に抱きながら

コロッケを買う彼の笑顔が好きだったこと…。


おかしなくらい

無邪気で

かき氷を食べる小さなこども達と

笑いあっていた…。


「 油っこいものばかり好きだから

だから倒れたんだよ…。」


そう

独り言を呟いて
ハンドルを握りしめた。


立ち去るように
忙しく車を走らせた…。




何気ない

日常の

ささやかな出来事に
遠い過去に流行った曲を思い出していた。




なんでもないような事が

幸せだったと思う…



なんでもないような事が…。




神様にただ、ただ

感謝して家路に向かった…。


悲しいとか

苦しいとか


そんな感情は

もうなかった…。


ただ、健康で

いつも喜んで生きていて欲しいと願った。



悲しいとか

苦しいとか


そんな感情はもう

なかった…


ただ
なんでもないような事が

幸せだったと


ただ
ただ

懐かしく思う感謝だけが
溢れた…。









































































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