緩やかに開かれた日記の面白さ

日記を「こっそり」つける

あなたになら、これまで誰にも打ち明けられなかったことを、なにもかもお話しできそうです。どうか私のために、大きな心の支えと慰めになってくださいね。
引用 「アンネ・フランク著 アンネの日記 増補新訂版」

わたしが初めて「アンネの日記」を読んだのは35歳の時です。初めの1行でグッと心を掴まれました。それはアンネが初めて未知なる領域へと飛び込んでいくときめきが伝わってくるようだったからです。(当時アンネは13歳。1行目からなんとうまい心の描写だ!とその見事さに驚きました。)

アンネは日記帳を'キティ'と名付けて、まるで小さな相棒にこっそり話すかのように書き続けました。そう、日記という響きには何か「こっそり」隠された個人の秘密があるような印象がつきまといます。
日記は他人に読まれる前提がないからこそ(※1) 、言葉遣いや他人への想いに配慮することなく全力で吐露できます。セーフティーゾーンが敷かれています。でもそこに'自分に読まれる'ことは含まれないのだろうかと、考えたことがあります。

日記は自分との交換日記?

わたしが日記を初めて書いた時はアンネと同じちょうど13歳くらいだった気がします。語尾を「です、ます」口調にして書くと、「誰に対して書いてるんや」とツッコんでみたくなったり、次は言い切りの形にしてみると「なんか気色悪いな」と思ったり、語尾に悩まされた記憶があります。それまで文章を書くということは、他人に対して何かを伝える役割であり、自分に対して何かを伝えるという役割として扱ったことがなかったのです。
アンネが日記帳にキティと名付けたのは言い得て妙だなあと思います。「だってその方が面白くなりそうですもん」と言って彼女は楽しく日記をつけ続けられる方法を編み出しました。キティという自分の分身に語りかけるスタイルが彼女にとって書きやすい文体だと無意識に判断したのではないかなと思います。

日記は自分の中の赤ちゃんのためのコミュニケーションツール

人は一般的に聞く・読む(=入力する)、話す・書く(=出力する)という言語の入出力を操りコミュニケーションを取ります。その中で日記とは、言語を'出力する'ための道具または行為の一種です。
その日にあった出来事を記録する、現状の思考を整理する、心の奥にある感情を吐露する、などなど、自分が最前線で'入力した'ことを'出力する'自分とのコミュニケーションです。
まるでまだ産毛ホワホワの生まれたての赤ちゃんのような自分の中の意識が初めて歩き出す一歩のように感じられます。その一歩を安心して踏み出せる、その秘訣が「こっそり」というセーフティーゾーンなのかもしれません。

日記は過去を未来にひっぱってくる

昔の日記を何気なく見返すと、「あんなことがあったなあ、懐かしいなあ」という気持ちと同時に、過去の出来事が頭の中で再び想起されます。けれどそれは現在の状況や思考で反復され、当時とは少し違った気持ちがします。まるでもう一人の自分が体験したことを聞いているような気分なのです。
一方で、部屋の整理をしているときに思い出の品や写真に偶然出会した時、その当時の世界へと没入することがあります。ひとしきり思いを馳せると「はっ しまった、片付けなきゃ」とまた現在の状況に目が覚めるような気持ちがします。つまりそれは現在から過去へと引き込まれるような感覚です。
日記は、思い出に引き込まれるというより、過去から現在へと記憶を引っ張ってくる力があると思います。(なぜそう思うのかはまた後日書きたいなと思います。)

日記を公開・共話として書く

日記を個人的にではなく、人と共有してできればいいなと思いました。少し「こっそり」を緩めて、「公開・共話日記」を始めたいと思っています。'自分だけ'のセーフティーゾーンからもう2歩歩いたゾーンに足を踏み入れるような感じでしょうか。
ブログのように1対多数に向けて書くのでもなく、SNSのようにつながっているコミュニケーションでもない、'あなた'と'わたし'のやり取りの、ゆるくつながった公開・共話日記です。
ここでいう「公開」は(希望者は)Webサイト上でやり取りすること、「共話」は日記の内容を意見交換するのではなく、お互いに内容を読むことで、相手の話を間接的にひきとり、ゆっくりと影響を受けながらサイト上の日記を紡いでいくということです。(例えば、誰かの日記を読んで「そういえばわたしもこんなことがあったなあ」と似た状況の内容を書いたり、「その時こんなふうに感じるのか、自分はどうだろう」と続きにもなる内容を書いたりすることです。)

現在 「 KOKO Diary」という公開・共話日記サイトを作成中です。そこでは匿名で日記を書くことができます。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

※1  アンネはA日記とB日記に分け、B日記の方は読まれる前提で日記を編集していました。


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