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グロース企業のKPI設計論:ユーザーの熱狂度を読み解く

事業の成功には、アートの側面が極めて重要です。例えば、ユーザーも自身で気づけていないようなニーズの特定など、その再現性は必ずしも高いとは言えません。一方で、失敗の多くは再現性が高いものではないでしょうか。定量的な測定・評価に基づいた意思決定ができているかといったサイエンスの側面によるところが強く、他社がつまづいた箇所は同じようにづまづく可能性が高いと思っています。

前回取り上げた価格戦略を例にとると、「ユーザーが感じている価値と価格の不一致」に気づけなかった事例はどの時代も存在し、彼らの失敗から学べる点はたくさんあります。

今回は、KPI設計の手法に焦点を当てながら、そのサイエンスの一部を紐解いていきたいと思います。

グロースにおける指標設計の位置づけ

指標設計の考え方は、下記のようなピラミッドに整理できます。持続的な成長を見据えたKGIを起点に、第1層⇒第2層⇒第3層とそれぞれの先行指標に落とし込んでいくイメージです。

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第1層では、まず会社として「事業成長を実現できているか?」を定量的に測ります。これはKGIと呼ばれ、最終目標の達成度合いを示すものになります。例えば、売上高 XX億円や売上成長率 YY%のようなものです。事業ステージに関わらずどの会社も計測されていると思いますので、今回は詳細を割愛します。

KGI:結果を評価する指標。「Key Goal Indicator」の頭文字を取ったもの。

続く第2層では、KGIに紐づける形で「プロダクトの価値がユーザーに届いているか?」を計測していきます。これは、事業成長とはプロダクトの価値をユーザーに届け、そのユーザーが感じる価値を収益につなげることで実現されるためです。North Star Metrics(以降、NSM)と呼ばれる考え方をベースに後ほど紹介していきます。

NSM:プロダクトのコアとなる価値がユーザーに届いているかを測る指標。「North Star Metrics」の頭文字を取ったもの。

最後に、第3層ではNSMに紐づける形でKPIを設計し、具体的な施策・行動に落とし込んでいきます。その際、会社のリソースが限られるので、追うべきKPIを優先順位をつけて定義していく必要があります。たまに、遅行指標やいわゆる"Vanity Metrics(虚栄の指標)"を追ってしまっているケースがあるので要注意です。

KPI:過程を評価する指標。「Key Performance Indicator」の頭文字を取ったもの。

第2層:プロダクトの価値がユーザーに届いているか?

KPIを設計するうえで、この層が最も抜け落ちやすい視点だと思います。売上=ユーザー数×ARPUといった具合に、単にKGIを要素分解していってもユーザーがプロダクトに熱狂しているかはわかり得ません。また、B2B2Cなどビジネスモデルが複雑な場合、どのステークホルダーの熱狂度に注力するかで大きく変わってきます。

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North Star Metricsの考え方

今回、ユーザーの熱狂度を評価する方法として、North Star Metricsを取り上げたいと思います。改めてNorth Star Metrics(以下、"NSM")を説明すると、プロダクトのコアとなる価値がユーザーに届いているかを測る指標で、その時点の事業評価に繋がるような追うべきKPIが何かを見極めることが目的になります。ポイントは、KGIの先行指標に位置づけて設計することで、ユーザーの熱狂度UP=事業の収益UPという構図を作ります。

このNSMは、各会社の事業内容によって大きく異なるものなので、他社の指標をそのまま適用することは難しいです。また、事業ステージや環境に応じて都度アップデートをしていく必要があります。

ここからは、そのNSMの見つけ方を紹介したいと思います。

ステップ1. 自社のプロダクトのタイプを特定する

世の中には多種多様なプロダクトが存在しますが、それぞれ戦っているゲームルールが異なります。大きくは3タイプに分類可能なので、まず自社のプロダクトがどのタイプかを見極めます。

①Attention型:より多くの「時間」をプロダクトに費やしてもらうことがカギになり、主にSNSやメディアサービスが該当します。

②Transaction型:商品購入などの「取引数・金額」をより増やしてもらうことが重要です。具体的にはECサービスなどです。

③Productivity型:より多くの「タスク数」を効率的に実現してもらうことがカギになります。多くのB2Bソフトウェアが当てはまります。

ちょっと脱線しますが、プロダクトの中にはどの分類に当てはまるかの判断が難しいものも存在します。例えば、同僚 あきさんと話していたのはマッチングアプリの事例です。「効率のいいマッチングこそが顧客満足につながる」と捉えればProductivity型かもしれませんが、収益性を考えると「ユーザーに離脱されずより多くの時間を割いてもらいたい」Attention型とも言えそうです。持続的な成長にはこのジレンマ解消がひとつポイントになるかもしれません。

ステップ2. 体験価値・戦略・収益を意識したNSMを仮置きする

続いて、プロダクトのタイプに合ったNSMを設計します。その際に意識すべきは、顧客視点で「顧客にとっての価値が定量化されているか?」、自社視点で「プロダクト戦略に整合しているか?」、最後に「売上などKGIの先行指標であるか?」です。仮置きしたうえで、適宜アップデートしていきます。先ほどのプロダクトタイプごとに具体例を見ていきましょう。

Attention型は、そのプロダクトを通じていかにユーザーの可処分時間を奪えたかをNSMとします。例えば、Netflixはいかにユーザーに映像を視聴してもらえるかが重要になるので、「月あたりの視聴時間がX時間以上の購読者の数」をNSMに置いています。詳しくは、元Netflix VP of ProductのGibson Biddle氏のブログをご覧ください。

Transaction型は、そのプロダクトを通じて行われた取引数・金額をNSMとします。例えば、Amazonであれば「プライム会員一人あたりの購入金額」、Walmartであれば「訪問あたりのあたりの購入金額」がNSMであるとされています。

Productivity型は、そのプロダクトを通じてユーザーに起こしてほしいコアアクションが実施された数や、実施に至ったユーザー数などをNSMとします。例えば、Salesforceであれば「顧客あたりの平均レコード作成数」になります。

第3層:具体的な施策・行動につなげられているか?

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KPIの考え方

まず、KPIの設計方法は様々ですが、ユーザー視点で4つの軸に捉えることが可能です。リソースが限られる中で色んなKPIを追いすぎるのも得策ではありませんが、フレームワークとしてぜひ参考にしてみてください。

広がり:どれほど幅広く価値を感じているか?
深さ:どれほど深く体験価値を感じているか?
頻度:どれほど頻繁に体験価値を感じているか?
効率:どれほど効率的に体験価値を感じているか?

その際に、施策を通じて直接的に変化させることができる指標かどうかは特にこだわるべきポイントです。また、その意味でも、視界不良な状態で事業のかじ取りをしていないか、定期的に見直すことが重要になります。

参考:KPI設計の具体例

参考までに、プロダクトタイプごとに指標設計をしてみました。
※筆者仮説であり当該企業の公式情報ではありません

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終わりに

今後企業のグロース上でカギになるのは「いかに目の前のユーザーに価値を感じてもらい、使い続けてもらうか」だと思います。彼らの熱狂度を何らかの指標を通じて定常的かつ定量的に計測し続ける重要性がより一層高まっています。

もしKPI相談、その他事業の壁打ちや資金調達をお考えの方がいましたら、ぜひお気軽にTwitterやメールまでご連絡ください!

Twitter: https://twitter.com/nish_kk
Email: koki@wilab.com

参考資料:
・Amplitude: Every Product Needs a North Star Metric: Here’s How to Find Yours
・Gokul Rangarajan: Collection of Some of the Best SaaS North Star Metrics
・Sarah Tavel: The Hierarchy of Engagement

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