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僕と彼の男二人暮らし~初めて友人へ紹介されました編~

「今から帰ります。一人、一緒に来るからよろしく」

テレビを見ながらソファに寝そべりグータラ過ごしていた僕は友人達との飲み会へ行っているパートナーからのラインを見た瞬間、声にならない声を鼻から漏らし、一瞬の静止を経てからさほど広くもないリビングを3周ほどしてから、トイレへと向かった。

「トイレ汚いのが一番嫌だよな」

時間的に部屋全体の掃除は無理だと悟った僕はリビングを3周している間に何を最優先すべきかと考えた結果、トイレ掃除という答えにいきついたのだ。

綺麗になった便器に満足する暇もなく、次は何をしようかと考えている内に二人が帰ってきた。
遊びにきてくれた友人は何度か遊んだことのある女性で、彼の学生時代からの友人である。
その時の仲間内で飲んでいたがお開きとなり、僕を交えて3人で飲みなおそうと家まで来てくれたのだ。

僕にとっても彼女の存在は「友人」になっていて普段は気を遣うことは無くなったのだが、パートナーと同棲生活を始めてから初めてのお客さんということでなぜだか凄く緊張したのを覚えている。
小学生の頃に担任の先生が家庭訪問にやってきた時のソワソワ感に近い感じ。

そんな僕の様子を二人とも感じ取って「頼むから落ち着いて(笑)」と茶化してくる。
そんな感じで2次会(僕にとっては1次会)が始まった。

僕が初めて彼女と会ったのは今から2年程前、まだパートナーと別々に住んでいた時だった。
その日、僕と彼は僕の誕生日祝いにとプレゼント探しに1日中街を歩き続け、無くさぬ様にとそれが入った紙袋を身に寄せながら夜は居酒屋で酒を飲み、ほどよいテンションで気持ちよさに浸っていた時だった。

「で、会ってみる?」

日中から何度かこの話題が出ていた。
この頃、彼もまだ彼女くらいにしか自分のことも男と付き合っていることも話していなかった筈だ。
そんな、当時の数少ない理解者と今夜なら時間が合いそうらしい。

「いやいやいや、緊張して何も話せんわ」なんて外が明るかった内は言っていたのだが、めっきり日も暮れアルコールの力にかまけた変なテンションもあいまって、気が付けば合流することになっていた。

一旦お会計を済ませて、合流する為のお店へと場所を移す。
席につき、彼女の到着を待った。
この頃には少し酔いも冷め、先ほどまでの威勢の良さはどこ吹く風、緊張はピークに達していて、内心「向こうからドタキャンの連絡こないかな……」なんて願っていたほどだった。

ぶっちゃけ、こんな日が人生で訪れるなんて思っていなかった。
同性愛カップルの恋愛のほとんどは、人知れず生まれ、人知れず死んでいくものだ。
二者間のみで完結し、二人が作り上げた歴史を知る人はいない。
そんな世界が当たり前だと思っていたので、「恋人」として第三者に紹介される時、どんな態度でいるのが正解なのか分からないのだ。

とは言え、もうどうしようもない。
「あと5分くらいで着きます」の連絡に、もうドタキャンは無いのだと悟り、腹を括った。
どちみち、流れに身を任せるしかないのだ。

——流れに身を任せた結果、めちゃくちゃ楽しい時間を過ごせた。
次の日は普通に仕事だというのに、終電が過ぎても飲み続け、店をハシゴし、カラオケまで行ってしまった。
大学生の時だって、次の日1限から授業がある時は早々に切り上げていたぞ。
緊急事態宣言も、まん防も解除されたタイミングだったから、ちゃっかりそれまでの反動が出てしまった。

夜中に解散し、各々タクシーで帰ったのだけど、翌日朝イチから職場に漕ぎ着けた自分を褒めてあげたい。(彼と彼女は半休をとったらしい)

この日を皮切りに、彼は多くの友人達に会わしてくれる様になったし、僕も友人達へ会わせる様になった。
もう今はアワアワすることなく落ち着いて「初めまして」と、挨拶だって出来る。(と信じたい)
こうして僕たちは「二人」という単位で世の中と繋がりを持つことが出来たのだ。
もしこの先、別れがやってきてしまったとしても「人知れず」終わっていくことなど無い。

普段オープンに生きている訳でもなければ、こちらの世界に友人がいない僕らにとって、この様な形で人間関係の輪が広がっていくのは奇跡的なことだと思う。

奇跡的というのは誇張しているが、それでもやっぱり一番近い言葉は「奇跡的」だと思うのだ。

だからこそ、初めて恋人として紹介された先の友人がこの子で本当に良かったなと、あの時と同じ様にべろべろに酔っぱらっている彼女を見ながら思う。
もしあの時、友人と会うことに苦手意識が芽生えてしまっていたら、また二人だけの世界へ閉じこもってしまっていたかもしれない。

僕が今生きているこの日常を形作るきっかけとなった、あの日。
人生初めての、誰かの恋人としての「初めまして」が出来たことにも、させてくれたことにも、それを受け入れてくれたことにも感謝しながら、人と人の繋がりの中に「僕たち」がいられることの喜びを噛みしめていたい。

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