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俺がゲイだってこと、恐らく父は気づいてる

バレている。
恐らく父は、息子がゲイだと気づいてる。

初めてその予感を抱いたのは、昨年実家に帰省した時のこと。
約半年ぶりの帰省ということもあってか、お客様待遇の豪勢な晩御飯を頂き、さて帰ろうかと家を出ようとした時に玄関先で父はこう言った。

「次は彼女連れてこいよー! 彼氏はあかんぞー!!」と。

……今までも、彼女のことや結婚のことは何かにつけて言われてきた。
社会人となり実家を出て、年に1.2回しか顔を見せないとなりゃ、それも仕方ないと思える。
恐らく、結婚適齢期を4年ほど過ぎるまでは、顔を合わせる度に親から発破をかけられるのは独身として生きる上での宿命なのだろう。

しかし、この日はいつもと違うことが二つあった。

一つは、隣で母親が仮面のようにはりついた笑顔をしていること。
当時、母親にだけにはカミングアウトをしたばかりだった。
僕はいつもの様に「へいへい」と父の言葉を受け流しながらも横目で母の表情から生気が抜けていくのをしっかりと感じた。
なんだこれ、気まずすぎる。

そしてもう一つは、父親が「彼氏」という言葉を発したことだ。
今までは、冗談でもそんなこと聞いたことが無い。

「これは、もしかして……?」
と、頭によぎったが、その疑念をより強くさせたのが今年の年賀状だ。

実家から届いたハガキにはこう書かれていた。

「今年は彼女を連れてきてほしーな♡ 父より」

……震えた。
普通に考えたら婚期を逃しそうな息子に対してのあるあるメッセージなのだが、なんだかこう、言葉にできないけれど「そう(ゲイ)じゃないよな?」的な圧を感じたのだ。

70そこそこのおっさんが、「♡」で、「本気じゃないですよ。冗談ですよ」と、オチャラケという逃げ道を用意しているのもむしろガチっぽさを感じる要因となった。

「これ、やばくない?(笑)」

すぐに同棲しているパートナーに見せると、彼の反応も「これは、そっちではありませんように。という期待と牽制をありありと感じるな(笑)」というものだった。

そして先日、とうとう決定的な出来事が起こった。
実家に帰省をして、母親がお風呂に行ったタイミングでの一コマである。
リビングにはそれなりに酔っ払ってる父と、シラフの僕、そして犬が一匹。
別に何かを話すわけでもなく携帯をいじっていたのだがおもむろに父親が尋ねてきた。

「今、彼女はいるんか?」

「いない」

「……彼氏は?」

「いない」

とっさに「いない」と答えてしまった。

当の父親は、「……うーん、お前は昔から友達が多いのに、何でかなぁ」とだけ言い、また静かな時間に戻った。


僕はさっきまでと同じく、何食わぬ表情で携帯を触っている。
と、見せかけてラインでパートナーにメッセージを送っていた。

「父親、これは確実に悟ってます」と。

翌日、自宅に戻り、ことの顛末を話しているとパートナーは言った。
「もうそれは、『父親として受け止める準備は出来てるぞ、いつでも打ち明けろ!』ってメッセージじゃん? (彼氏)いるって言えば良かったのに(笑)」と。

分かってる。
多分、そういうことなんだろうと分かってる。
早とちりで壮大な勘違いをしていることもありえるが、恐らく今回はそうじゃないと得体の知れない実感がある。

ただ、そんな漢気を見せてくれた(と思ってる)父には大変申し訳ないが、どうしても多大なる精神力と体力を使ってまで、父にカミングアウトしようとは思えないのだ。

その理由は、父の性格にある。
一般的に僕らの世代の「父」というと、寡黙で、頼りがいがあって、何かこう「舘ひろし」みたいな、ダンディな大黒柱を想像するかもしれない。

しかしウチの父は違う。
年賀状のくだりで薄々勘づいてる人もいると思うが、寡黙でダンディとは真逆なタイプである。

舘ひろしというよりかは猫ひろしの方がしっくり来るし、もっと言うとジミー大西とか、チャンス大城とか、なんかこう、マスコット的な? いい意味で、「父親感」がない父親なのだ。

だから、カミングアウトするために言葉を考えて、タイミングを伺って……と、真剣になればなるほど何故かおかしくなってきてしまう。

それに、父親に対しては何故か「自分がどうだったとしても、気にしなさそう」という、自信みたいなものがあるのだ。

それこそ、チャンス大城をイメージして欲しいのだが、もし息子がゲイだと知っても、最初こそ「お前、ゲイやったんか?!!」とバカでかい声で驚愕の声を漏らしてそうだが、5秒後くらいには「まぁ、変えられへんのやししゃーないな」と、落ち着いてそうな気がするのだ。

「だったら、言えばいいのに」と、思われるかもしれないが、どれだけ寛容な姿をイメージ出来たとしても、カミングアウトというのは非常に自分をすり減らすものなのである。

真剣に話そうとすれば、「この父に対して?」と、笑いがこみあげてくるし、言ったとしても別に何も変わらない予感がある。

だからこそ、わざわざ自分をすり減らしてまでカミングアウトする必要はないな、と思うのだ。

白状するとしたら、「お前、男と住んでるだろ!!!ゲイなんか?」くらい直球ストレートで詰め寄られた時になるだろう。
それまでは、白々しい演技を続けさせて頂こうと思っている。

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