バイオテックの投資目線①
まず、バイオテックとは何か?(今回のスコープ)
先日は、ヘルステックについて書かせていただきました。では、いよいよバイオテックについてです。バイオテックとは何かについて、某サイトをベースに調べてみますと、
バイオロジーとテクノロジーを組み合わせた造語で、細胞および生体分子のプロセスを利用し、人間の生活と地球環境の改善に役立つ技術と製品を開発するための技術
であるとのことでした。
バイオテックの領域は、人口肉ですとか、合成生物学ですとか、本当はとても幅広いのですが。そんな中、今回は、創薬に限定して話を進めていくことにします。
(日本では、何故、人口肉ベンチャーや合成生物学ベンチャーが出てこないのかについては理由がありますので。このあたりは別の回で)
結論先出し(恋人は製薬企業)
さて、この後に諸々記述を重ねていきますが。バイオテックの投資目線の中には、極めて重要な要素が1つあります。バイオベンチャーに関わる人は、まずは、この視点を強く意識しましょう。それは、
「製薬企業に好かれることがほぼ全て」
これです。ほんこれ。これを図式化すると次のスライドのようになります。このイメージを頭の中に強く叩き込みましょう!!
これは、何故か? 単純化して理由を1つだけ挙げますと、
「製薬企業と共同研究開発契約を締結しないと上場できない」からです。
以前にも登場していただいた、旧みずほ証券アナリストで、現在はそーせいのIR責任者である野村広之進先生のスライドを引用すると次のようになります。
この黄色でハイライトされた部分です。日本だけに課されている、見事な特殊な要件の1つとして、大企業(製薬企業)との共同研究開発が義務付けられているわけです。換言すれば、次のスライドのように、東証の基準によってバイオベンチャーの可能性は狭められているとも言えます(パイプライン型ベンチャーは難しく、プラットフォーム型で行かざるを得ない)。
この要件が課される限り、冒頭に記載したように、日本の創薬バイオベンチャーの成功(ここでは、成功の定義を、IPOと仮置きします)は、「製薬企業に好かれるかどうか」が極めて重要、というかほぼ全てになってきます。
(ただ、これは少し考えてみますととても当たり前のことでして。1つの薬ができるまで、化合物探索まで含めると20年近くかかることはザラであり、1つのベンチャーが初めから終わりまで創薬全ての機能(ex、CMCや各種治験)を持つことは不可能で。どこかで製薬企業の力を借りる必要があることは自明です。その力を借りる段階がかなり早いということですね)
提携の仕方にはいろいろあるものの、マイルストーンとロイヤリティーを組み合わせた共同研究開発が主となるでしょう。このあたり、契約の組み方もベンチャーとしての腕の見せ所ですね。僕が、弁護士の立場でレクチャーをする際の参考スライドをいくつか掲載すると次のようになります。
このあたり、弁護士の腕の見せ所と言えば見せ所なのですが。サイエンスと技術が魅力的でなければ弁護士の出番はありません。一方で、マイルストンをベースとした契約形態以外、製薬業界において新しいインセンティブモデルが出てきていないように思いますので。いち弁護士としては、新しい契約の形を作ってみたいなあとは常に思っていたり。
ペプチドリームという中分子医薬を手がける上場バイオベンチャーが、よく、上場前から製薬企業と提携し、マイルストーンペイメントを設定した契約を複数締結し、収益をあげながら上場まで実現していたと報道されます。
このビジネスモデルは、早期から赤字にならないというメリットもあるのですが、それ以上に、上述のように、「製薬企業と提携しなければ日本では上場できない」という理由によるメリットの方が大きかったのだろうと推測されます。
どうやったら、製薬企業に好いてもらえるん?
さて、ここまで大々的に書いたのですから。気になりますよね。どうやったら製薬企業にお付き合いしてもらえるのですか?と。
これは、技術トレンド、各製薬企業のポートフォリオ、研究部長の好み、様々な要素が複雑に絡んで決定されることになります。故に、日々、製薬企業関係者とディスカッションをする場を設けながら、製薬会社に受け入れてもらいやすい土壌を整えることが重要です(ここで、製薬会社の下請けにならないことが重要です)。
では、投資家として、どういうベンチャーが製薬企業に好いてもらえるのか、一般的投資目線は持っているのか?
ここでも結論から先に言いますと、バイオテックは本当に難しく、まだ一般的投資目線は存在しません。考慮すべき要素が複雑に絡み合い、まだ明確な投資判断フレームワークは存在しないというのが現状でしょう(以前、同僚ともディスカッションしたことがあるのですけれどもね)。
この状況を分かりやすく伝えるため、IT領域の投資基準との比較スライドを掲載させていただきます。
人によっては「バイオテックにフレームワークは存在しない」「フレームワークで考えようなんてやめたら?」と言い切る人もいます(し、実際、むしろフレームワークがないからこそのバイオテックなのかもと考え始めております)。
IT分野のように、PMFでしたら、チャーンでしたり、成功を推測させるKPIが存在していないのですね(個人的には、日々考察しているところですので。「こうじゃない?」というものがありましたら、是非ディスカッションさせてください)。
故に、個人的な投資目線の標語を書かせていただけますと、
「ヘルステックは加算法で、バイオテックは消去法で」
のような判断過程をたどることが多い気がしております。個人的所感としては、バイオテックに関し、知財、事業開発戦略、サイエンス、テクノロジー、治験状況、営業部隊、組織形態、などなどのチェック項目が無傷なだけで、相当優秀なバイオベンチャーだと思います(このチェック項目についてはまた次回以降)。
で、どれだけ複雑なの?(バイオテックの具体例)
さて、ここまできて、バイオテックが難しいのは分かったけど、イメージが分からんという方が多いと思います。そこで、イメージを持ってもらうために次のスライドを示させていただきます。
どうでしょう、これらの科学技術について、皆様どのように評価されますか? 思わず苦笑いされるほど、チンプンカンプンに映るのではないでしょうか。これくらい、サイエンスや技術の特性についての理解が求められる領域です。
雰囲気だけでも伝わればと思いますが、分野ごとに見るべきポイントはかなり変わってきておりまして、バイオの場合には、「トレンド」に乗っていることも重要な要素になります。
このあたり、キャピタリストによって重視する部分も様々で、誰か特定の
1人が常に答えを持っているわけではありません。僕自身、日々、FTI内外でのキャピタリストとのディスカッションを通して修行をしている毎日です。
分野ごとに見る視点が異なってくるという話をしましたが、例えば、低分子医薬の化合物なのか、抗体なのか、さらには、腸内細菌なのか。分野によって検討すべきチェック項目が全く異なってくるという意味です(分野ごとに重要検討項目が変わってくるという意味です)。
例えばですが、再生医療ベンチャーの場合、僕であれば、次の大きく4つの項目は、一般的な質問内容として必ず伺う項目になります。
僕の場合は、各分野で1枚ずつ、簡単なチェックリストを持っており。日々、そのチェックリストを更新するようにインプットを重ねています(このあたりは、キャピタリストそれぞれだと思います)。
加えて、どんなに選球眼を磨いたとしても最後の最後は神のみぞ知るところもあり(臨床試験の結果次第ということもあり)。
「明確な地雷がないか」について見抜きつつ、祈り続ける状態に持って行くため、最初にしっかり見極めることが肝要な気がしております。実際、とあるVCの分析によると、バイオテックベンチャーは、最初の目利きで結果が決まることが多いとか(チームやピボットで何とかすることが少なくない、ITベンチャーとの大きな違い)。
最後に(まとめ)
さて、いかがだったでしょうか?ITベンチャーとは異なり、バイオテック(創薬)の場合には、上場基準と相まって、製薬企業が果たす役割が極めて大きいことを理解していただけたかと思います。
ここまでの記載内容と次回以降の予告を簡潔にまとめますと、
1.創薬バイオテックに投資フレームワークは存在しないが、製薬企業に
好かれなければいけないことは間違いなく。製薬企業の好みを早くから意識する必要がある。
2.製薬企業に好かれるほどの知財・POC・サイエンスを準備するため、VCからの調達が必要だが、IPO実現性・VCからの評価可能性を踏まえると、資金調達のためにプラットフォーム型ベンチャーにせざるを得ないことが
ほとんど。
3.しかしながら、日本でバイオテックを手がけるのはかなり分が悪い
(未掲載:次回以降のメインテーマ)
それで、「バイオテックの投資目線は、何となく分かったけど、それで実際どうなん?エコシステムは上手く回っているん?」と聞かれてしまいますと。
その答えには詰まってしまうところでして。。。。。 ただ、このあたりは、日本の上場環境とも絡むところで、やや複雑ですので。次回以降に(僕の時間が許せば、作成したいしたいと思っている衝撃のデータ分析結果を掲載しつつ)、記述してみたいと思います!!
ここまでで、だいぶボリューミーになってしまいましたので、
また次回に!!!
今日もお疲れ様でしたー。
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