見出し画像

The Modelの不を解消するビジネス部門横断組織「BSO」とは

こんにちは、長洲 (@koki_nagasu) です。
Boston Consulting Group → リクルート という畑違いなキャリアから一転してSaaS スタートアップに飛び込んだのが2021年8月のことで、気づけば2年目に突入しておりました。
私がコミューン (https://commmune.jp/) に参画すると同時に立ち上げたビジネス部門横断組織「BSO」ですが、この1年間で俄に認知を得たのかご質問いただくことが増えてきたので、これを機に創設の背景と役割についてお伝えできればと思います。

The Modelの抱える"不"とは

私は、The Modelの最大のメリットを「全体方針さえ明確であれば、各部門はそこに反しない限りにおいて自部門のやるべきことにフォーカスできる」ことと考えています。
企業を船で例えると、各部門長は漕手監督者。船を最速で進めるべく、漕手 (メンバー) がパドリングしているか、できる状況にあるか、さらなる速度アップに何が必要かを考え打ち手を実施することにフォーカスできることが望ましいです。
The Model 型組織においては Marketing - Inside Sales - Field Sales - Customer Success というチームに分かれるため漕手監督者たる部門長も複数いることが多いですが、その部門長同士による合議により0から針路設計を行うことは得策ではないといえます。なぜなら各部門は異なる指標を追っているが故に当然進みやすい針路も異なるからです。前提や目線が異なり職位差のない者同士での議論でたどり着くのは最適解ではなく妥協になりがちであり、The Modelは構造的に「船頭多くして船山に上る」リスクを抱えているといえます。

船頭多くして船山に登る

プライシングを例に挙げると、Field Salesが新規獲得MRR、Customer SuccessがNRRを成果指標として追っている場合、「低価格のお試しプランを作るべきか?」という問いに対して

Field Sales:
"せっかく進めた商談が最後に安いプランに流れるリスクが高まるのでお試しプランは作らないでほしい"

Customer Success:
"ライトに始めてもらうと期待値コントロールがしやすくチャーンリスクが下がるし、価値を出して更新時に通常プランにしてくれればNRRが簡単に上がるのでお試しプランは作ってほしい"

というように正反対のスタンスを取りたくなる力学が働きます。これはThe Modelの構造上仕方のないことで、部門長の優秀さとは一切無関係です。もし経営者の方で「うちのマネージャーは優秀だから全社のことを考えて良い感じに調整してくれるだろう」と考えている方がいるのであれば考えを改めるべきです。それは意思決定を丸投げし現場に歪みを生みだしているだけかもしれません。

また、Marketing > Inside Sales > Field Sales > Customer Successがファネルとして繋がっている以上、ある部門が何らかのアクションやオペレーション変更を行えば少なからず他部門に影響を与えます。その連携がうまくいっていないと、何をするにも他部門の顔色を窺ったり喧嘩したりが発生し、徐々に現場からカイゼンの動きが失われていくことにもなりかねません。

BSOとは

BSOの存在意義

BSOとは「Business Strategy & Operation」の略称で、私が入社と同時に立ち上げたビジネス部門横断組織です。

2021年7月、十数社との面談の末に医療系スタートアップに内定受諾の連絡をしようとしていたところ、たまたま (ギリギリ知人だった) コミューン代表の高田から連絡をもらい話をする中でこういった組織の必要性について見解が合致し、その場で入社と部門名を決定しました。BtoB SaaSで一年以上働いた今だからこそ、当時まだ40名弱の組織だったコミューンにおいてBSOの必要性を感じていた高田の先見の明には驚きを隠せません。

BSO誕生秘話

BSOは前項にある「The Modelの不」を解消すること、言い換えればビジネス部門の全体最適を担保することをミッションとしています。数十人規模のフェーズであれば、多くの場合CEOやCOOといった全体を司る個人によって横断イシューの意思決定がなされるのですが、規模が大きくなってくるとその質を担保することが難しくなってきます。コミューンがBSOを導入したのは一般的なスタートアップで必要になるタイミングより早いですが、それは代表の高田がUS事業にコミットするためにJapanでの全体把握・意思決定の負荷を下げる必要があったためです。多くのスタートアップでは60-80名程度の規模になってから導入すれば遅くないのではないでしょうか。

また、全体最適を担保する役割を個人でなくチームで担うことは実効性の観点でも価値があります。部門横断イシューは意思決定をすること以上に実現・実行させることが難しく、EnablementやOperationの設計まで一気通貫で行う必要があります。そのためBSOではチームで役割を全うすることを前提とし、定義した複数の機能軸のなかのいずれかに強みがある方とご一緒させていただいています (後述) 。 

BSOの役割

① 航海士・羅針盤
選ぶべき針路は目的地に向かって一直線とは限りません。船体の状況、乗組員の数や質 (得手不得手) 、海況や天気見通しといった複合的な要素を鑑みて決定されるべきです。BSOは常日頃から社内外の広範な事情について把握した上で、ゴールに照らし合わせて取りうる選択肢の優先順位付けを行い、ビジネス全体での成果を最大化させるために最適な針路を指し示すことが求められます。
ちなみに、船長 (CEO) は次の目的地を考えたり、航海日誌を書いたり、自分以外全ての乗組員の最適配置を考えつつ必要な追加人員を集めたり、金策を巡らせたりと、針路を決めること以外にもやることが膨大にあります。

② 機関士
針路が決まっても、船がその通りに進めるとは限りません。順風満帆に進んでいくためには、常に各種機器の設計が最適化され、かつ正しく動作管理がなされている必要があります。ここでの機器とは、Salesforceのようなツールはもちろん、情報連携の仕組みやオンボーディングプログラム、評価制度といった組織運営に必要な仕組みも含まれます。

BSOのスタンス

主義思想は様々ですが、特にアーリー寄りのスタートアップにおいて最も重要なのは売上を出すことであり、顧客や数字と直接向き合うフロント部門に対しては最大限の敬意をもつべきであると考えます。日々のアクション一つ一つが事業成長に直結するプレッシャーに晒されながら高い成長"率"を維持向上し続けていくことは本当に大変なことです。
その一方で、日々高い目標を課せられるフロント部門は近視眼的になる傾向にあり、半年後、1年後を見据えた検討やアクションは優先度が劣後されがちです。私は、BSOこそが「1年後にも高成長を続けていること」を担保する組織であり、自らが中期的なRevenueを生み出していくのだという自覚を持って業務に臨むことが求められると考えています。
そのため、BSOは組織横断な視野を持つのはもちろんのこと、高い視座、長い時間軸で物事を考えていく必要があり、メンバーにはフロント部門をリスペクトしつつも決して目の前の不を解消する下請けサポート部門ではないということがチーム内外で共通認識となるよう能動的に動いていくことを強く求めています。

BSO (あるいは類似の横断組織) は大きく3つのフェーズを辿ると想定しており、現時点でコミューンのBSOはPhase3に片足を突っ込み始めたところです。

Phase1. 現場の下請け
Phase2. 現場を支え感謝される
Phase3. 現場をリードし緊張感を与える
 └ BSOの価値を確信してもらい、耳が痛いことでも聞いてもらえる状態
 └ "BSOとのMTGは緊張するけど良い意思決定に繋がるんだよな〜"

BSOの3フェーズ

ビジネス・サービス双方のメトリクスを可視化するとともに部門アクションに直結する示唆を抽出し、経営陣や部門長とディスカッションしています。少し前までは実質私個人としての活動でしたが、今ではメンバーが直接経営陣とやりとりし意思決定のレベルを引き上げることに寄与しています。

BSOの人材要件

BSOの職掌は広範ですが、現時点では便宜上4つの機能軸に分けて整理しています。

BSOの職掌イメージ。面談時に画面共有しながら説明していた

これらを一人で担えるスーパーマンは能力・工数の観点からほぼ存在しないことでしょう。私自身当然そのような傑物ではないため、BSOは設立当初よりチームで価値を充足することを念頭に置いて採用活動を進めてきました。

採用に際しては、T型人材であるかを最も重視しました。ここでのT型人材の定義は、特定領域へ強みがあり、かつ広範な領域で一定の成果を出しうる (出す気概がある) ことです。

BSO的組織とwin-winな関係を築けるT型人材イメージ。面談時に画面共有しながら説明していた

T型人材を重視した理由は、組織 (BSO) とメンバーがwin-winの関係を築けると考えたからです。

組織目線では、T型人材は特定領域においては既に一定以上の経験・能力を有しているため自走しプロジェクトを主導することを期待できます。
また、専門性を突き詰めたい職人型人材と異なり、強みのある領域を主軸に置きつつも他領域へ業務範囲を拡大していくことに抵抗がありません。主軸の違うT型人材でチームを組成することができれば、それぞれの機能軸に対して複数名が関わる構造になるので誰か一人の退職によりチームがスタックするリスクを極小化することができます。機能ごとに優秀な職人を充てがうチーム構成は平時においては強いですが、一人退職した途端に代替要員が確保できず破綻するリスクを内包しています。
スタートアップの部門経営において最も大切なことは「そのうちメンバーは卒業する」という事実に向き合い本気で備えておくことであるというのが私の持論です。

メンバー目線では、主軸の領域できちんと価値を出していればその貯金を使って他領域にチャレンジできることが最大のメリットです。主軸領域での貯金があるので、チャレンジ領域では早期の価値貢献を期待していません
また、チャレンジ先の選択肢が事前に明示されていることも大きなウリです。スタートアップは多様な機会を得やすい環境ではありますが、組織が未成熟かつ事業も発展途上で針路変更も多いため、必ずしも自身のwillと合致する機会を得られるとは限りません。組織最適のために意に沿わぬ役割を引き受けたご経験を持つ方も少なくないのではないでしょうか。
少なくともBSO型組織はもとから (事業・組織の進化を前提とした) 広範な職掌を有し、かつそれが明示されているので、ネガティブサプライズとなるような機会提供が行われるリスクが低いです。BSO発足後に参画いただいたメンバーに対しては面談時より短期・中期で担っていただく役割について合意しています。

BSO組織構成イメージ。半年後の想定をお伝えし認識ズレがないようにしています

組織がメンバーに対して提供できるものは「カネ」「地位」「機会」くらいしかないですが、カネも地位もまだまだ不足しがちなスタートアップにおいてはいかに充実した機会を双方合意のもとサプライズなしに提供できるかが非常に重要です。BSO型組織はその構造上メンバーのキャリア形成に資する多様な経験を積んでいただくことが可能なので、優秀な人材を獲得するフックになるかもしれません。

さいごに

BSOは加速度的に進化しているスタートアップ界隈でもまだまだ例の少ない組織なので、私自身組成に四苦八苦してきました。また、ある程度軌道に乗った今では「で、結局その後どういったキャリアに繋がるの?」という問いに答えていかなければなりません。そのあたりもいつかアップデートしていければと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?