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短文学集

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筋も思想も体系も、全部気にせず楽しむことを短文学と称して日々の感傷を綴る。
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2019年5月の記事一覧

出来合いの感傷

 鼻先を掠めた影を目で追う。眼鏡に手をかけた頃にはもう、ピントの合わない部屋の中へ滲んでいった。これで私の就寝時間は一時間は延びた。虫が苦手なわけではないが、自分の領域でぶんぶんやられると気になって何も手につかなくなってしまう。鼻の両側にかかる圧が均等になるよう片手で調整をしながら、部屋中をぐるりと見渡す。テレビや本棚の輪郭は定まったものの、真夜中の侵入者の姿は見当たらない。探し回るうちに自然と舌

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代替品

代替品

 長雨の下から出て傘を畳むと、頭上の山門が作る軒の下に水滴が落ちて黒いシミを作っていった。耳に染みついていたビニールの膜に雫が弾ける音がようやく遠のき、遠く山野を濡らす音が辺りに満ちている。傘を柱に立て掛けると腰掛け、鞄からライターと、久しく箱を開けてすらいなかった煙草を取り出した。
 ジーパン越しに湿気が伝わる。腕の産毛の先まで満遍なく包んだ湿気が、煙草まで達していないかが気がかかりだった。もた

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