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瑪瑙

日々の小さなときめきを愛して生きてゆくと決めた矢先、これはただの麻痺なんじゃないかと絶望してしまった。生きる=苦であるという図式は太古よりデフォルトとしてわたしの中にあって、それに薄く靄をかけることで視界の外に放り出そうとしている。これは痛みに麻酔を打ってただラリっているだけであって、根本の苦しみから逃れられてはいないんです。日々わたしが細々と愛しているすべてが、わたしの苦のために存在しているようで愕然としてしまった。わたしは本を、喫茶店を、古着を、酒や煙草を、廃れた商店街を、明け方の鴨川を、ひとりぼっちの夜更かしを、本当に愛しているのでしょうか。ぜんぶ「わたし」を殺さないようにわたしが必死に手を伸ばしたモルヒネに過ぎないのかもしれない。


なんてことを昨日の深夜に考えて途端に頭が蝕まれてしまって、一晩中鬱々としていた、かと思いきやその数分後には夢の中でした。朝起きて仕事に行ってなんやかんやで残業してまた明日仕事、こんなハイスピードで流れてゆく日々の中、絶望に浸れる余裕もないので今日も生きてます。考えすぎないように音楽を聞いたり本を読んだりだれかと話したりして、今をできるだけ早く過去にしてゆくほか生きる道がない。「未来なんて憶測もできないものより今を見るしかない」というようなことを言われて、根本的な回答にはなっていないし どこかずれているなあ、と違和感を覚えつつもそれが一番正しいんだよなと諦める。生に没頭しすぎて死を妄想している暇も余裕もありません。生きたくないけど死ぬ気力がないので生きています。


オニキスという真っ黒の宝石がありますがあれは魔除けらしい。たしかに全部吸い取ってくれそうな闇を感じます。考えすぎも考えなさすぎも健康に悪くてだめ、アホにも賢くもなりきれないわたしの気色悪いところだけ吸い取ってくんないかな。わたし毎日石に囲まれて生きております皆さまも適度に聡明で適度にぱっぱらぱーでいてくださいね。

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