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ひとりのハンドボール人として今できること。

デンマークから日本へ帰ってきてから約10カ月間、試行錯誤をしながらコーチングを学ぶことに努めてきた。このままフィードバックもなし、まとめもなしに来年を迎えてしまうことはきっと良いことではない。

ハンドボール人として、ハンドボール、関わっている選手たち、周りを取り巻く環境、これらに真摯に向かい合い、その過程で得られた経験をしっかりとこれからに活かすためにできることはないか考えた。

そこで、2020年がもうすぐ終わるこのタイミングで今年1年の振り返りをしていきたいと思う。これまで学群生で選手としてプレーしてきた4年間。年の瀬にチームの一員として、この冬の鍛錬期に何をするのか、次のシーズンに向けてどういった取り組みをするのかを明確にするために「振り返りシート」を書いていた。

今年も例外ではなく、チームのみんなはきちんと振り返って来年に向けて準備する。私も同じように、これまで取り組んできたことをまとめて、反省し、これからもっと良くなっていくためにどうしたらいいのか、考えを深めていきたい。

現在は筑波大学でのアシスタントコーチ 、そして筑波学園ハンドボールクラブ (小学生クラブ)でのコーチを担っている。それぞれのカテゴリーでより良い指導が出来るようにこれまでの取り組みを書き綴っていく。

コロナ禍からのチームスタート

コロナでの自粛期間に入り、チームとして全員がこれまで経験したことがないほど社会から隔絶された状態でチームがスタートした。

練習が再開されたのが6月の半ばだったと思う。急に身体を動かすことは身体的にかなりの負荷になるため、かなりのスロースタートだった。それ以上に家の外に出て他者と関わること自体が精神的に大きなストレスになっていた。

スポーツの語源は「憂いを取り去る」

コロナで「それどころじゃない」状態からやっとスポーツが解禁になった。練習で大切にしていたのは、仲間と身体を動かすことが出来る「幸せ」を噛み締めて、日常生活を充実してく段階に入っていくことだった。

例えば、2チームに分かれて3つのビブスをお互いに置きあって1列出来たら勝ちのマルバツゲームを組んでみた。マルバツまで20mほど走るように設計すれば短いダッシュを認知機能を同時に発揮出来る。20mの道のりをバックで走ったり、ドリブルで走ったり、ケンケン、4つんばいで進無ことで様々な動きをコーディネーションすることが出来た。

チームのトレーナーとも協力してラダー系や体幹系のトレーニングの時間を確保して、動き作りにフォーカスした時間を設けた。手伝ってもらってわかった、1人では絶対に手が回らない。チームでスタッフが充実してるのは凄く幸せなこと。

加えて短い運動時間を短い休みと共に繰り返す「間欠的運動」によって、選手の筋持久力を引き上げていく試みも同時進行で行った。

そうして身体が徐々に慣れてきて運動出来るようになってきた7月ごろ、9月から始まる秋リーグへの準備が始まった。具体的には個人戦術及びグループ戦術のメニューを増やしていき、徐々にゲームに向けての準備を始めて行った。

実際にメニューを組むときは2つのことを意識している。

1:『ゲームライクのメニューを心がける』

ハンドボールはいろんな要素が複雑に組み合わさっており、加えて相手の動作に対応しなければいけない。パスやシュートなどの技術要素を部分的に取り出して練習して、選手にはめ込んだとしても試合になると上手に機能しないことが多い。

自分自身もよく行った2列のパス練習。いくら前を狙ってパスしても、そこに目指すべきゴール、障害となる相手選手がいないと実践には程遠い。いざ試合になってパスミスをしたとき監督に「練習通りやれー」と言われても練習では試合に状況でパスをつないでいく練習はしていない。練習通り自分のタイミングでパスをしたら、相手DFにきれいにカットされるだろう。

2:『プレッシャーの掛け方を工夫する』

プレッシャーの掛け方には3つある。

2つ以上の課題をこなす
「複合的プレッシャー」
例えばシュート練習ではシュートを打った後に次にシュートを打つ人に対してブロックをする。

変わっていく状況に対応する
「可変的プレッシャー」
例えば1:1をした後に、シュートを打った選手が直ちにディフェンスに加わり、ポストとの2:1を行う、同じ原理で2:2まで行う。

決められた時間の中でプレーを遂行する
「時間的プレッシャー」
例えばセットオフェンスで15秒以内で攻撃を完了させる。前半最後の場面を想定した練習になる。数的優位の速攻局面でのパスの回数を制限することで、フリーの選手を早く作ることにフォーカスしたトレーニングを行える。

今年はこういった練習を心がけて、選手の身体そして頭が絶えず働いて、状況をいかに簡単にクリアできるかを志向するように組み立てた。

これからの課題

大きく分けて3つ挙げていく。

1:『失敗へのアプローチ』


この練習で何が出来るようになるか、メニューを作る段階で想定しているがどんな失敗が想定されるのか具体的な景色がいまいち掴みきれていない。

大学のチームは1年生から4年生まで様々なレベルの多くの選手が在籍する。個のレベルの違いによって起こる失敗にどういったアプローチをしていくべきなのか、具体的な発問はどうするのか。もっと想定してから練習に挑むべきだと思った。

フィードバックのない練習はつまらない。

やったらそこで終わり。させっぱなしになってしまう。そんな繋がりのない練習はは選手にとってもチームにとってもプラスにはならないのだろう。

2:『練習のストーリー性』

1回の練習の初めから終わりにかけて、どういったストーリーで展開していくのか。掴めそうで掴みきれなかった感覚。

ウォーミングアップやグループ練習でその1回の練習で身につけさせたいことの布石を打つ。取り組ませたいメニューばかり羅列するのではなく句、大きな柱となる課題を軸にして肉付けしていくようにメニューを考えていきたい。

一つ一つのメニューの時間を少なくして、選手たちが対応するかしないかギリギリのところで次のメニューに移るのがデンマークのスタイルだった。

しかし、それはチーム内のレベルがほとんど同じときにのみ機能する練習方法だと言うことがわかった。早すぎる練習時間は選手たちにとって対応が困難、特に1年生や技術的に未完な選手たち。

3:『個人へのフォーカス』

1つ目でも話したが、同じチーム内には様々な選手がいる。全体を満遍なく見るだけでは見えてこない個人への突っ込みどころが1人を注視していれば見えてくる。

問題はどのタイミングで誰を注視すべきか判断しなければいけない点である。

練習中に見るべきポイント以外を注視してしまうと、チームや個人の課題を見落としてしまう可能性がある。ただ全体をボヤッと見るだけでなく、ポイントとなる人やその人の動きを注視していきたい。

そのためには事前に選手の状態やクセを把握して、ポイントとなる選手に当たりをつけておかなければならない。

「本当に強い選手は自分で自分を奮い立たせることが出来る選手」

大会が軒並み中止になり、やっとのことで開催された秋リーグも順位決定戦が中止になった。

確かに、自分が選手だったら、試合の中で活躍している光景を想像して、それをモチベーションに変えられるのか自信を持って手をあげることは簡単なことではない。

学生リーグだけでなく、茨城県内の一般リーグでの試合も中止になった。1、2年生の選手は試合経験の中で自分の武器になり得るものを探していくはずだった。

しかし、時間は進む。来季には春リーグが開催されることを信じ、その頃にはメンバーに食い込まなければならないという強い想いを担保にして、今を生きなければならない。

そのためには一人の力ではどうしても難しい部分がある。トレーニング方法や個人の技術力、ポジションの特性に見合った特別なトレーニングが必要になってくる。

頼み込んだら迷惑だとか、メンバーに選ばれていないから、逆にメンバーに選ばれているから必要ないと言うことは絶対にない。

直向きに自分を奮い立たせ、努力を重ねてきた選手にやっとチャンスがある。それでも成功は約束されているわけではない。でもやらなければきっと後悔する。だからやる。

スポーツに関わる人は選手でもコーチでもきっと同じように考えることが出来るはず。大切なのは目先の結果ではなく、チームのために、チームの未来のために先行投資を惜しまない姿勢。

私自身、今季戦えるはずの試合がなくなってしまい、何を目標に練習を考えたらいいのかわからなくなったことがあった。これからもしかしたらそういった状況が繰り返されるかもしれない。

しかし、方向性はすでに決まっている。なりたい姿、在りたい姿があるとすれば、今そのために歩みを止めてしまうのはあまりにももったいない。

来たる試合の日に最高のパフォーマンスを発揮するために今できることを頑張る。

人はそんな想いに心を動かされるのだと思う。

今日はここまでにします。最後まで読んでくださった方々ありがとうございました。また、今年SNSを中心に関わりを持っていただいた方々に感謝したします。来年もよろしくお願いします。良いお年をお迎えください。

筑波大男子ハンドボール部 森永 浩壽

2022年の今、フルタイムで働きながら日本リーグ参入を目指すハンドボールチーム"富山ドリームス"の選手として活動しています。ここでのサポートは自身の競技力の向上(主に食費です...)と、富山県内の地域との交流に使わせていただきます。