「売られた喧嘩を買う大人(完)」
ぐったりしたBにAは声をかけ続けた。
しばらくしてBが突然叫びだした。
「ゴラァアアアアア!!!!!!」
そして再び興奮状態に陥ったかと思うと、急に落ち着いて動かなくなってしまった。これがもう、3回繰り返されている。
何が起こっているのか、まったくわからない。。
ふと男の方を見ると、周囲の観客たちとオークションを始めていた。
「今回は活きのいいやつを選んだので、8回分程度、用意できると思います。どこまでいくかは賭け次第。さて、300万からいきましょうか。これが終わるまでに入金した最高額の方に、今回分をお売りします。お手持ちのタブレットに購入金額を入力ください。さあ、どうぞ。」
そう説明した後、参加者は「まだいける!行けーーー。頼む!まだ叫べ!!」などとBに罵声を浴びせている。。
何が起きているかわからず、じっと男を見る俺の視線に気づいたそいつは、ニッコリと笑い、そしてゆっくりと近づき、こう言った。
「喧嘩する時ってね、、交感神経が活性化するんだよ。そのエネルギーは凄まじい。私は、それをそのまま取り出し、その時の感情の高まりと同じ効果を得られる形に取り出せる装置を開発した。最初は、野良犬を怒らせて実験した。犬から取り出したソレは、確かに効果は得られたが、持続性がなかった。どんな動物の怒りを使っても人間の怒りを超える効果はなかった。たぶん、動物の怒りは我々の怒りの感情と同等ではなかったのだろう。人間を最大に怒らせられるのは、人間なんだと思ったよ。
しかもね、最大限にエネルギーを抽出するためには、その瞬間である必要があったんだ。その瞬間が大事なんだよ。怒りのピークが少しでも遅れてしまうと、取り出せるエネルギーが半減してしまう。だから、タイミングが大事なんだ。君のお友達は最高だ。完ぺきだった。
そしてね、私の装置は”繰り返す”ことが出来るんだ。怒りの瞬間を繰り返し繰り返し何度も何度も・・・。何度耐えられるかは、個体次第なんだけど。
私は、この装置から取り出した感情を私だけのものにしてはならないと思った。日々欝々暮らしている同胞にもこの気持ちを与えてあげたいと思うようになったんだ。最初は、みんな半信半疑だった。
だが、装置から取り出した感情を体験するたびに、皆その体験に虜になっていった。経験したことのない気持ちの高ぶり、興奮状態に、人間らしさを感じるようになった。この話はどんどん広がり、皆、金を出してでも気持ちを得ようとするようになった。私も、感情の収集対象の選定には困っていたので、ビジネスとして成立した方が好都合だった。ありがとう。」
一方的な男の話を、俺は理解することができない。
「Bはどうなるんだ!殺す気か!!」
この言葉しか、出てこない。
「安心してくれ。B君は死なない。頭に刺さった管は特殊な素材でできていて、傷はほとんど残らない。ただ・・・」
男は少しだまり、こう続けた。
「取り出した感情は、許容範囲を超えると失ってしまうようだ。B君はたぶん、この先ずっと喧嘩なんてものはしなくなるだろうね。でもね、安心して。今オークションにいる彼らと同じように、他人の怒りの感情を買えば、今までと同じように、生きることができるから。僕にとっては好都合。だって、お客さんがまた増えてくれるんだから」
A「てめえ!!ふざけんじゃねえ!どこまで腐ってんだよ!!許さねえ!!クソ野郎!!!!!!」
プスッ・・・
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皆さん、決してイライラしても、喧嘩はいけませんよ。。
男が買いにやってきますから、、、
ー売られたけんかを買う大人(完)ー
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