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「御会式は、日本の原風景のひとつだと思うんですよ。」-本妙院住職 早水文秀と、池上のこと-

現在制作中の、東京都大田区池上という街にまつわるエピソードを
さまざまな人に聞いたZINE。
その内容の一部を、noteで公開します。



本妙院っていう、この寺の子として生まれたわけだから、生まれも育ちもずっとこの街。この寺、小学校が隣でしょ。もう、裏の塀を乗り越えたら校舎だからね。遅刻はしないけど、忘れものは多かったですよ。5分で取りに帰れるわけだから、油断しちゃうんだよね(笑)


昭和40年代生まれの僕が子どもだった時代って、高度経済成長期は過ぎたとはいえ、日本が急速に移り変わってる時代でしょ。東京のほかの街、このへんだと品川とかもどんどん発展していってたけど、ここはちょっと違う雰囲気がありましたね。あの頃本門寺に行くと、まだ防空壕が塞がれてなかったりしたからね。まだ戦争の名残が残ってたんですよね。


本門寺も、今よりずっと鬱蒼とした森でした。水があるところにはサワガニがいたりしてね。夜になると真っ暗になるからあぶないっていうので、「遅い時間にはこどもだけで行っちゃいけません!」って言われてましたね。まぁ、そう言われても行くんだけどね、子どもは。


子どもの頃は、本門寺のあたりで野球したりとか、虫捕まえたりとか、いつも外で遊んでましたね。大学に入ると、全国からいろんな連中がきてるじゃないですか。そうすると、東京の連中より地方の田舎で育った連中の方が話が合うんだよね。「虫捕まえてた」とか「蛇捕まえてた」とかって、東京で育ったの連中に言うと「東京にそんなのいたっけ?」ってなるんですよ(笑)



あぁ、御会式ね。御会式は、この街で10月11日から13日に、毎年やってるお祭りなんですけど、日本の原風景のひとつだと思うんですよ。日蓮聖人が亡くなったちょっと後からやってたみたいなんだけど、賑やかになったのは元禄時代かららしいです。だから、1700年代くらいからかな。元禄って、派手な文化があった時代なんでね。


この街の人間は、御会式が終わるとなんとなく「もう一年終わりだな」、みたいな感じがあるんです。もう、次は大晦日だなってね。子どもたちなんかも、御会式のときは学校が半日で終わるもんだから、近づくにつれてウキウキワクワクして、なんか落ち着かなくなるんですよね。


今は警察の指導もあって、祭りは夜11時くらいに終わるけど、昔は池上線も朝まで動いてたし、結構夜中まで賑やかでしたね。昭和50年代までは、間違いなく朝まで電車動いてましたね。朝まで街にいて、そのまま朝の法要に出て…みたいなね。何百年も前から、夜から朝までやってたんじゃないかと思うんだけどね。今は夜中までやってると、うるさいっていう苦情もあるみたいだから、仕方ないよね。



御会式の思い出かぁ。御会式って池上駅から寺の境内まで、「万灯練り行列」が太鼓の音とともに練り歩くんだけど、昔はおもちゃのでんでん太鼓を打ってる屋台がいっぱいあったんですよ。子どもたちは太鼓を叩いてる大人を見ると、自分も鳴らすものがほしくなったんだろうね。


それで、でんでん太鼓を鳴らしながらわーっと走ったりね。でんでん、ってあの音を聞くと、当時の風景を、ちょっと思い出すなぁ。多分みんなそれぞれ、この街に住む人は御会式に対する思い入れはあると思うんですけど。僕のなかではそういう印象が強いなって思いますね。


一昨年は台風で、去年は新型コロナの影響で御会式が中止になっちゃったけど、御会式がないとなんかリズムが掴めないんですよね。「なんとなく1年終わった感がないな」っていう感覚は、この街の人にはあると思いますよ。やっぱり、続けないと絶えちゃう文化もありますしね。子どもたちも御会式に向けて、纏(まとい)をふったりとか、行列の練習をしてたわけ。それが、いつまでも本番が来ないんじゃやりがいがないしね。なんとか、またできる日がはやく来てほしいですね。



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