“愛”なんて、つまるところ“砂漠”なんだぜ モーリアック『愛の砂漠』

フランソワ・モーリアックの『愛の砂漠』について。

モーリアックは、1885年生まれのフランスの作家で1952年にノーベル文学賞を受賞しています。作家の遠藤周作がモーリアックの代表作『テレーズ・デスケルウ』を愛読し、エッセイ等で紹介していたこともあり日本でもよく読まれている作家です。今回取り上げる『愛の砂漠』は3種類の日本語訳があるのですが、今回はその遠藤周作が翻訳したものを読みました。

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モーリアックは、カトリック作家としてシリアスなテーマを扱った作品が多いのですが、非常に繊細な心理描写がありつつも、若干のエンターテイメント性もあるバランスの取れた作家です。ただ、タイトルが難解そうな雰囲気を出しているものが多いです。(『蝮のからみ合い』、『知識の悪魔』、『炎の河』など。。。)

今作は、よくある三角関係の物語なのですが、町医者の男とその息子が親子で同じ女性に惚れてしまうという点がこの作品の特徴になっています。
その女性は、町の有力者の愛人になっている未亡人なのですが、息子は彼女の娼婦のような放埓さ故に彼女を愛する一方、父である町医者は、彼女を不運に見舞われた純粋な女性と考え、同情故に彼女を愛します。彼女の本質を無視したこれらの愛はどれも悲劇に終わり、いかに人間が孤独なのかを知らしめます。
モーリアックは、「“愛”なんて、つまるところ“砂漠”なんだよね。」という悲しいメッセージを読者に伝えたかったのかな。。。なんにせよ、ニーチェの《神は死んだ》以降、作家はこのテーマと向き合わざるを得ないのでしょう。

実はこの作品、僕の息子が初めて触れた小説なのです。息子が2、3か月の頃、寝かし付けの際に余りにも退屈なので、抱っこをしながら小説を読むことにしました。そして、折角なら朗読しようと思い、初めて完読したのが、この『愛の砂漠』なのです。
親子で同じ女性の恋心を掴もうと競い合うこの物語を、父として感情移入出来るようになったばかり!というタイミングで息子と読むことが出来てラッキーでした。息子が大きくなったら、自分でこの本を読むときが来るのかな。

息子が初めて触れた小説は『愛の砂漠』ですが、僕が初めて息子のために作曲した曲がコチラになります。息子がまだ小さい頃は夜に起きることも多く、とにかく寝付いて欲しいという気持ちが溢れています。

高橋宏治作曲・作詞《24 Songs for Voice and Piano (2017-2019)》より
〈 8. 誰も起こしてはならぬ "No one shall wake him up"〉


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