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人生が退屈で仕方がない! アルベルト・モラヴィア『倦怠 』

アルベルト・モラヴィアの『倦怠(La noia) 』について。

モラヴィアは、1907年生まれのイタリアを代表する作家です。脊髄カリエスという難病のため、正規教育を受けることが出来ませんでした。そのような状況の中で、17歳から書き始めた『無関心な人びと』を自費出版し、小説家としての活動を始めました。この作品は、あらゆる対象・行為に対して関心を持つことが出来ないイタリアのブルジョワ家庭の青年を描いた小説で、大成功を収めます。ヨーロッパ最初の実存主義小説と呼ばれることもあり、彼の代表作となっています。

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今回紹介する『倦怠』では、この“無関心”を更に突き詰め、“倦怠”と呼び変えられています。小説の始まりにこの“倦怠”の説明があるのですが、簡単に説明すると、「現実とのつながりを感じることが出来ない虚無感」とのこと。
この“倦怠”に悩む主人公が、素晴らしい肉体と性欲を持った少女と割り切った関係を持ちます。しかし、彼女の奔放さ故の裏切りに気が付いた時に嫉妬を感じ、自分は彼女を愛しているのではないか?と苦悩する。。。というのが大体のあらすじです。

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この小説では、“倦怠”から抜け出す唯一の手段として、“性”が提示されます。精神的なものではなく、肉体を通して現実と繋がろうとするこの試みは、主人公を更に絶望へと追いやります。
そんな中で、少女を所有すれば!と思い求婚するのですが断られます。彼女は割り切った行為を楽しみたい上に、別に彼氏がいます。そこで主人公は、嫉妬を感じるのですが、この嫉妬の感情が、現実との繋がりを感じさせてくれることになります。
“倦怠”から抜けださせてくれるこの感情に身を委ね、最終的には自殺に近い交通事故を起こします。この自分を傷付ける行為も、肉体的に現実を感じるために起こしたように思われます。

“現実との繋がり”は、“自分が存在する意味”とも言い換えられるように思います。ある人は芸術に、ある人は宗教に、ある人は恋愛に、その意味を求めるのでしょう。
僕も、現実との繋がりを感じるために作曲をしてるんだよねー。と言えればカッコいいのだけれど、そんな気もするし、そうじゃない気もします。シンプルで答えのないこのアイデアは、考え出すときりがないですね。

ところで、2019年に『倦怠』と『無関心な人びと』にインスパイアされた歌曲〈 2. 退屈な日々 〉を書いております。“倦怠”な雰囲気がある音楽になっていると思います。良ければお聴きください!

高橋宏治作曲・作詞《24 Songs for Voice and Piano (2017-2019)》より
〈 2. 退屈な日々 "The Empty Canvas"〉


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