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育成体系構築の重要さ

人事に関するコンサルティングを行うなかで、これまで様々な案件を手掛けてきました。当社においては評価制度や給与制度の改革などを含む人事制度の構築・改定が案件の数としては最も多かったのですが、多くの企業の人事施策を見る中で感じていることがあります。それは「育成体系の構築」に本気で取り組んでおられる企業が極めて少ないということです。

育成体系というと、実際のところほとんどの企業で「研修体系」のことと思っておられます。「貴社の育成体系を見せて下さい」とお願いすると、何もないか、あったとしても研修体系の資料を出して来られるのです。内定者研修や新人研修に始まり、中堅社員研修、管理職研修といった階層別研修がメインで、それに加えて技術研修や部門ごとの業務スキル研修、あとは選択式(カフェテリア形式)のいわゆるポータブルスキル研修や通信教育といったところでしょうか。最近だとそれらに加えてセクハラ・パワハラ防止のためのコンプライアンス研修も多くの企業で取り入れられるようになってきました。

こういった研修自体はもちろん必要ですし意義のあるものなのですが、私たちが言う「育成体系」とは研修体系のことではありません。ある部門ないし職種の社員を、どのような道筋で育てていくのか、どのような経験を積ませ、どのようなスキル・知識・ノウハウを蓄積させて育てていくのかという、いわば「体系的な職務経験の積ませ方」という方が近いのです。

もちろんOJTの具体的な中身や指導方法ということも含まれて来るのですが、最も重要なのはキャリアパスをどう設計するかです。なんとなく適当に仕事をさせ、一定期間が経過したというだけで昇格(等級をあげること)させたり昇進(ポジションにつかせること)させたりを繰り返しても、「自ら育つ人は育つ」つまり裏返すと「放置しては育たない人は、絶対に育てられない」組織にしかなりません。それでは限られた人材しか活用出来ない企業となってしまいます。それを避けるには、キャリアの道筋をどう設計し、どのような職務を経験させスキルアップさせていくのかをきちんと設計することが重要だと私たちは考えています。

なぜ(私たちの言う意味での)育成体系が日本企業においてあまり普及してこなかったのか、それは以前別の稿で述べた日本企業の特質に原因があると考えています。「特定の職務(専門分野)におけるエキスパート」として人材を育てるのではなく、「その企業のエキスパート」としてテレパシー経営の一翼を担う人材を育てるという発想からは、戦略的なキャリアを歩ませるという発想は出てきません。特定分野の専門性が高くなりすぎると社内で使いづらく、また転職市場における市場価値が高まってしまうので、むしろ都合が悪いという発想になるのです。

北米企業中心に発達したタレントマネジメントの考え方では、この職務経験の積ませ方が最大のポイントになります。どの職務において、どのような職務経験が必要なのか、どのようなスキル・知識・ノウハウ・マインドを身に着けている必要があるのかということが、各職務ごとに定義されていなければきちんとしたタレントマネジメントを行うことは出来ません。そして社員一人一人が、どのような職務を経験し、どのようなスキル・知識・ノウハウ・マインドを身に着けているのか、これらを人事情報データベースにしっかりと蓄積しておく必要があるのです。

こういった職務ごとの要件定義と社員個人ごとのデータが整備されていれば、社内で特定のポジションに空きが出た際、適任者が社内に居るのか居ないのか、社外から採用するとしたらどのようなスペック・タイプの人材を採用すべきなのかが非常にクリアに分かるのです。

実際20年前ですら、北米の優良企業を調査に回り社内の人事情報システムを見せてもらう機会があった際、これらのことがいとも簡単に実現出来ていることに驚愕しました。特定のポジションへの異動候補者一人一人に対し、「この人はかくかくしかじかの職務をあと半年経験すれば、このポジションに異動させることが出来る」「この人は現時点で必要要件は満たしているが、オーバースペックになってしまうのでもっと高いポジションが空くまで今のポジションに居てもらおう」といった会話を、データベースを見ながら経営陣が交わしているのです。

残念ながら今日においてさえ、こういったことが実現出来ている日本企業は非常に少ないと思います。「人材こそわが社の宝」などと標榜する企業は多いですが、人材を本気で活かして行くつもりがあるなら、個々の人材のスペックはもちろんのこと、どのようにして経験を積んでもらい、スキル・知識・マインドを高めていってもらうのが良いのか、道筋を設計しておくべきです。

当社では職務経験を軸とした育成体系の構築を長年手掛けて来ました。私の知る限り、こういった考えに基づいて育成体系の構築を手掛けているコンサルティング会社は他にはほぼ存在しないと思います。本当の意味で人材を活用していく方法を模索しておられる企業様は、ぜひ当社までお問い合わせください。

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