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小学生の娘に伝える「デザインで社会を良くする方法」

 娘から学校での出来事を聞くことがある。ここ最近は、愚痴が多いような気もするが、まあ、それも子育ての一環として楽しんでいる。

今朝は学校での挨拶について、何やら憤っているようである。詳しく聞いてみると、

  • みんな挨拶をしない

  • 挨拶運動の時だけは挨拶をする

  • みんなは普段から気持ちの良い挨拶をすべきだ

まとめるとこのような内容であった。

 気持ちよくみんなが挨拶をする。それは素晴らしいことであるとは思う。しかし、それを強制するのは良くない。挨拶をする・しないは、各人の考えによるものである。自分の理想とする世界のために他者に指示・強制するのは、たとえそれが素晴らしい世界を目指すものであっても、単なる我儘なのではないか ー とまあ、こんな話をした。

 とはいえ、ここで話が終わってしまってはいけないと思い、デザインで社会を良くするという考えもあることを伝えた。つまり、他の人に何かの行動を強要したりせずとも、みんなが自ら進んで、自分が望ましいと思う状態になるように協力してくれれば良いわけである。それを実現する方法として、デザインを用いる方法もある、という話をした。

 例として、タバコの吸い殻問題の解決法を伝えた。これは、タバコの吸い殻が路上に捨てられている、いわゆるポイ捨て問題をデザインで解決した話である。

昭和の時代は、ごく普通に数多くの吸い殻がそこら中に落ちており、端的に言って美しくない世界が広がっていた。吸い殻は雨に濡れると崩壊し、汚くなる。そんな状況が日常であった。

ある若者が、とある街を観察していると、至るところに吸い殻が散乱しているのではなく、いくつかの場所に集中して落ちている現象に気がついた。

これを注意深く観察してみると、愛煙家の人々は、どうやらその場所でタバコを吸い終わり、そのままポイ捨てしているようである。では何故、その場所で多くの人のタバコが終わるのであろうか?

タバコをポイ捨てする人々の多くはどこからやって来るのであろうか。やってくる方向を辿ってみると駅にたどり着いた。どうやら、ポイ捨てする人々は駅からやってくるようだ。

駅を観察してみると、駅から出てくる多くのサラリーマンは、駅を出るや否や、すぐにタバコを取り出し火を点けて吸い始め、そのまま歩き出す。昭和の時代では、ごく普通に見られた歩きタバコの日常風景である。

成人男性の平均的な歩行速度と、1本のタバコが楽しめる平均時間、それらの積は、タバコが終わるまでの平均移動距離となる。駅を中心として、その平均移動距離だけ離れた場所を観察してみると、予想通りタバコの吸殻が数多く落ちているのを発見した。

ならば、そこに灰皿を設置すれば良いのではないか?…と、このようにしてタバコのポイ捨て問題を改善したのである ー という話を娘に伝えた。

 デザインとは必ずしも色や形の話ではない。観察に基づく発想であり、問題解決を伴う事が多い。要素への分解と編集(再構成)がその真髄である。

 この方法は「タバコのポイ捨てはやめよう!」と声高に叫ぶわけでもなく、そのようなキャンペーンを展開するわけでもない。もちろん、ポイ捨てを監視するような監視社会を作るわけでもない(もちろん、そのための人員も配置する必要もない)。要所となる場所に灰皿を設置するだけであり、非常に洗練された方法で人々の行動変容を促した。これがデザインの力なのだ。

 「みんな挨拶をしようよ!」と声高に叫んでみたところで、あまり良い感じにはならないだろう。そして、おそらく虚しい結果となる。かといって、自分の気持を押し殺して、みんなが挨拶をしない世界をしぶしぶ受容しながら生きていくのも不健康である。であれば、デザインの力によって、みんなが心地よく、進んで挨拶をするような社会を作れないかどうかを考えてみたら良いんじゃないかな、と娘には伝えておいた。

 タバコの吸殻の話は、大変お世話になった O 先生から聞いた話であり、受け売りである。この話自体が考現学で有名な話なのか、それとも若かりし O 先生の研究もしくは実践であったのかは失念してしまった。O 先生がご定年になる前にもう少し詳しく教えてもらっておけばよかったと思う次第である。

 ちなみに、私のところにも何の因果か分からないが、とある自治体から相談があり、どうやら人口減少を何とかして欲しいという話のようである。この問題は難問であり、誰もまだ答えを出すことができていない。難問ゆえ、デザインの力でどこまでお役に立てるのか分からないが、これもなにかのご縁ということで楽しみである。

この件については近々打ち合わせをする状況であり、どこまで関わることになるのかは未知数である。でも、もしかすると父娘そろって、ソーシャルデザインについてそれぞれウンウンと考える時間が増えるのかもしれない。それもまた楽しみである。

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