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都バス06系統四ノ橋下車12


エイミーは携帯を手にしたまま腕を組むと、左の頬をちょっとだけふくらませて、もおぉ、という感じで首を振った。こんなポーズが似合う女の子は、アンジェリーナ・ジョリーだけだと思っていた。訂正しなくっちゃ。アンジェリーナ・ジョリーは、このポーズが世界で2番目によく似合う。本人を前にして照れずにいえるかどうかは、自信がないけどそれくらい似合ってた。かっこよかった。いけない、今集中すべきは目の前の手帳のことだ。


 ニックネームやイニシャルなんかで記録されていたらお手上げだったが、カルシウム男はそれほど繊細な奴じゃなかったみたい。番号はあっさりと見つかった。ご丁寧にリダイヤル記録もしっかりと残っていた。手間が省ける。早速、リダイヤルしようとしたボクの手をエイミーが止めた。

 「まずいよ。あの男の携帯からじゃ。州次さん怯えてるはずだもん。絶対でないって。」
「そっか。メールだね」自分の携帯を取り出し、奴の携帯に表示されたアドレスを確認しながらメールを打った。

 “ケイシです。久しぶり。さっき州次さんを代官山で見かけました。大丈夫、手帳はあいつから取り上げてボクが持ってます。連絡下さい”
 「これでいい?」
 「久しぶりは、のんびりしすぎじゃない。でもまぁのんびりした感じがケイシーらしくってかえっていいか」

 後は連絡を待つだけ。メールを送るととりあえずはすることがなくなった。俺たちは一風堂でラーメンを食べて帰ることにした。めちゃくちゃ疲れた。赤丸新味に替え玉3つ。ボクの食欲はこんなエキサイティングな日でも衰えない。驚いたことにエイミーも替え玉2つ。なんか頼もしいね。

 結局、翌日の午後になっても州次さんからの連絡はなかった。気にはなったが、エイミーに連絡を取り、いつものように19時からのカポエイラクラスに出かけることにした。その日のエイミーは、今まで以上に技に切れがあった。実戦は、武道家を成長させる!この感じだと抜かされちゃいそう。

 「エミー、すげえなぁ。ありゃ、前になんかやってるよね」インストラクターの境さんが俺たちの練習を見てびっくりしたようにつぶやいた。
 「キミもだけどさ」
 「エッ?ボク」
 「気づいてないみたいだから、教えとくけど。エミーの動きちゃんと見えてるでしょ。見えなきゃあんなに綺麗にさばけるはずないもの。多分、3ヶ月前のケイシーならあの動きについていくのがやっとだと思う」
 「そうなんですか?」信じられない!

 「君、最近エミーと稽古してるとき意外は上級者の人とばっかりやってたでしょ。」
 そういえば、そんな気もする。
 「伸びる時ってそんなもんなんだ。次々と上のレベルが見えてきて、自分の弱さや至らなさが気になる。それを補おうと努力したり、工夫したり。言ってみれば、自分の向上に気付かないほどどん欲になってるんだな。」
 へー、なんかボクってばすごいじゃん、もしかしたら。ここはひとつ、境さんのお言葉に応える意味でも韻をふんだリリックなセリフでも。と思ったタイミングでエイミーが話しかけてきた。

 「サッ、ケイシー。ストレッチタイムが終わったら帰ろうぜ」これさえなきゃ普通に綺麗な女の子なのに。でも普通に綺麗だと俺とはリズムも合わないか。

 別に予感があったわけじゃないけど、その日のお帰りコースはいつもと変えてみた。六本木の交差点を渡ったところから右へ折れ、六本木ヒルズの中を通って帰るところだけど、道が混みすぎていた。夏休みもそろそろ終わり。最後のチャンス?(いったい何の!)に観光地が混雑するのはトーゼンのことかもしれない。
 交差点からそのまま芋洗い坂を下って麻布十番方向に向かうことにした。お腹を空かせた俺たちのために萬力屋のラーメンもきっとスープをグラグラに煮立たせて待っていてくれるだろう。

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