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コーヒーとバゲットと7月に No.2

確かあのあたりに、早朝から店を開けている小さなパン屋があったはずだな。店名は・・・そう何かふざけたような名前だったな、ぼんやりとそんなことを考えながら、森川の足は駅前のロータリへと向かっていた。 早朝4時頃に開け、売り切れると閉めてしまうという贅沢な営業をしているそうだ「よいこベーカリー」だ。 「なっふざけた名前だと思わないか」 「えっなに?なんのこと」 突然、なにをいいだすんだこのオヤジは。キールは少しだけ後悔していた。 「ほらっここだ。それにしても“よいこベーカリー

    • 戯言秘抄 続いては

      どんな趣向だ。この異能ぶりが友人のいう「面白い」なのだろうか。改めて見てもそこに描かれているのは彼女そのものを写したものとしか思えない。使われているケント紙やポスターカラーの感じは、昨日今日描かれたものには見えない。 そもそも今日初めて会ったばかりの京円が彼女を知っている可能性があるだろうか。いやあるのだ。でなければここまでそっくりに描くことはできない。だとしたら、この男との出会いは偶然なんかではない。どうする?ここで悪い癖がでる。なんだか面白くなってきた。 「なぁ京円さ

      • 戯言秘抄

        「面白いからいっぺん呼んでみろよ」遊び仲間の殿島から紹介されたその男は芸人という触れ込みだった。ピンの出張芸人、そんなビジネスが成り立つのだろうか。それとも金持ちの道楽というやつか。「少なくとも退屈しのぎとしては十分だ」殿島はそうも付け加えた。 私の前に現れたその男は異物の匂いを発していた。何が、とはっきりといえないが。 「こちらさんですか。今宵あたしにお声を掛けてくださったのは。ほんにうれしいことで。よろしければ、この老骨のひとり語り。ゆっくりとお付き合いくださいマシな

        • スウィート オア ビター

          なにこれ! チョコレートは子供や女の子のためのものだと思ってたけど違うね。間違いだよ。オレはなんて狭量な世界の住民だったんだろう。育ちの悪さが残念だ。とまぁ頑固な牛を一気に宗旨変えさせるほど、そいつは美味かった。(牛の宗旨替えっていったいどこの表現なんだ) 「よかったらもっといかが。美味しいでしょこちら」 もっといかがだってさ。こんな話し方する人間と現実に顔を見合わせる機会が来るとは思ってもみなかった。世界は広い。チョコレートはうまい。 「これをね販売しようと思ってるんです

        コーヒーとバゲットと7月に No.2

          同期会の夜によくあるいくつかのマチガイ

          「40過ぎると同窓会らしいです」  悩みなど一切ない頭の悪さむき出しの大声が響いてる。ネットで見たか、誰かからの聞きかじりだろう。インプット→そのままアウトプットでオリジナリティはなし。もちろんブレイクスルーは望むべくもなし。それが井上だ。彼の声が大きくなるのは私たちと話しているときだけだ。気の弱いやつ。そう思われているが、じつはそれが彼の優しさや気遣いから来ていることを知っている人は少ない。 「デケェ声だすんじゃねぇよ、大体が行儀が悪いンさオメェは」  酒田だ。 「お前に

          同期会の夜によくあるいくつかのマチガイ

          一瞬の1988 born

          「ベー・エム・ベーっていつの話。ビー・エム・ダブリュー」 1988年秋のダメ出しは、いまじゃシャレにもならない。 1990年代直前、一瞬の喧騒と狂乱。なんだろう、そうバブルだね。あのころを境にベー・エム・ベーからビー・エム・ダブリューに呼び名が変わったみたい。六本木カローラっていう言い方もあったよね。 車の名前なんかどうでもよくって。何が言いたいかというと、その日ボクがフラれたという事実。 なぜそんなことをおぼえているのかって。 答えは簡単です。となりのトトロなんて映画を見る

          一瞬の1988 born

          死ぬなら恵比寿で日暮れ過ぎ 

          8年ぶりの街だった。地方都市での長すぎる時間はなんというか、バウンスをにぶらせる。例えばすばしっこい猫をバァ様の足元でいぎたなく眠る愛玩犬レベルに。オレを含めて例外はほとんどない。一言で言えばマチを流れるスピードと若年層のパーセンテージが違うのだ。 忙しそうに行き交う人々、笑い声。通り過ぎる人の姿がまるで透明なオリで仕切られた別世界のようにも思えてくる。そう8年の間に恵比寿はオレと無縁の時間が支配するマチになっていた。まぁいい、とりあえずドラゴにでもいけば昔なじみの何人かに会

          死ぬなら恵比寿で日暮れ過ぎ 

          Stray catの帰還 matamata

          「あの人が消えてからもう2年になる。探してほしいんだ」 「なぜオレに言う。このマチから10年も離れてるオレに」 「決まってるじゃないか。責任があるからさ」 「そうだ、お前の責任だ」 「付き合ってたよね。あの頃」 こいつら人の古傷をえぐりだす気か。 「たしかにそうだがもう10年以上前のことだ。それに振られたのはオレの方」 彼女のことを忘れたことはなかった。幾度か心の誘惑はあったが、電話もしていなければ、誰かから噂を聞き出そうとしたことだってない。 「知らないんだ。あれから、その

          Stray catの帰還 matamata

          期間限定の探偵と7月のアイスクリーム1

          「いやいやいや、だからさ。え〜となんていうかね。とにかく、まずは探偵になっちゃおうかなんて。そう、そう思ってるの」 どう説明したらいいんだろう。もどかしさにあせりと後ろめたさも加わって、滑舌はとてつもなくわかりにくくなっていた。もともと気が小さいものだからね。 「何言ってるのか全然わからない。仕事は?会社を辞めるなんて言わないでしょうね。そんな無責任なこと。32よ、それにあと3ヶ月で33。どうするの」 そうだよね普通はそう思うよね。矢継ぎ早のご下問にあせりのギアは上がりっぱな

          期間限定の探偵と7月のアイスクリーム1

          まっさら

          「まっさら」とは、何もない状態を指します。何かを新しく始める前にまずは「まっさら」の状態に戻すことが大切だと考えられています。例えば、新しいプロジェクトを始める前に、それまでのプロジェクトから自分を解放し、新しいアイデアを出すために「まっさら」の状態に戻すことが必要です。 以上、質問【まっさら】に対するchatgptの回答より この街には愛だとか、憎しみだとか、喜び、悲しみ、笑い、泣き。様々な感情が息づいている、ただなぜだろう。怒りだけがない。いや怒りそのものは人々の中に暗

          まっさら

          good morning momグッモーニン ママ2

          「お前は聞いたこと無いかねぇ、おじさんの話」 オレには2人のオジがいる。父の弟、つまり叔父と母の兄である伯父だ。どちらも変わり者だが、オレが好きなのは叔父の方だ。ややこしいだろ、この物言い。面倒だよね。 「兄さんはさ」 あっ伯父の方ね。 「九州の?」 「あたしの兄っていえばあの人しかいないだろ」 フェイクマザーがちょっと嫌そうな顔をした。まぁそうだろうな。母にとって伯父は少々扱いに困る存在だった。変わり者の多い母の一族の中でも ワン・アンド・オンリーの変わり者が今話題になって

          good morning momグッモーニン ママ2

          Stray catの帰還 sorekara

          石田…下の名前はなんて言ったかな。まぁどうでもいいや。愛嬌のある顔で凄んでるつもりのテディベア。どうしてこいつがここにいるんだろう。まったくおかしな同窓会に紛れ込んだものだ。 本当に狭い世界。そうこのマチがただひとつの遊び場だったあの頃。過去と未来の間で若さを浪費していた。浪費という点では今も変わらないが、当時は未来なんかに興味もなかった。今という時間が、そしてマチのすべてが俺たちにとっての最高の遊び場だった。他愛無い悪事を大事件さながらに笑い合う。そんな子どもじみた時間が楽

          Stray catの帰還 sorekara

          Stray catの帰還 hajimari

          まさかこのマチにかえってくることになるとはね。自嘲するしかないでしょう。こうなっちゃったんだから。それとも結果として必然?そうなるのかな。 「ふるさとは蠅まで人を刺しにけり」 小林一茶だったかな。時代が変わったせいだろうか、一茶とは違いマチは思いがけないほどやさしかった。オレがその思いに応え、それなりの自分を演じている限りは。 でも‥そう「このまま大人しくなんかできないから、オレなんだろ」 「そこだよ、無理だねそんな芸当は」 「正直なんだ」 「ともいう」 頭の中でバカと陽気な

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          ヒーローの苦い夏 シーン2

          今、話に出た見晴台については少々説明が必要だ。俺が住んでるマチには割と複雑な事情というか、ある種特殊な環境下にある。地下鉄駅のある北側は緩やかな上りで俗にマウントサイドと呼ばれる住宅街、東側も古くからの住宅街だがこちらはプチハイソタウンといった趣。そしてセンター部分、俗に坂下と呼ばれている庶民派エリアがおれのホームタウン。警察、銀行の支店、商店街が集まったマチのダウンタウン。シャッターを下ろした店舗も見かけるがなんとなんと若い世代が店を構えるケースも多く。自主的な再開発化が進

          ヒーローの苦い夏 シーン2

          ヒーローの苦い夏 シーン1

          「ねぇもしだよ、もし神様が目の前にあらわれてこう言ったらどうする?」 なんだろうね、この相手の都合を一切考えない性格は。なれちゃいるけど。 だから俺はこう答えた「冷蔵庫からトマトジュースを取ってくれ」 「それでね、猫にも神様がいると思ってください」 ほらね、こっちのセリフなんか聞いちゃいないよ。どこまでも自分のペースを守るやつ。いいよ付き合うよ。 「俺のトマトジュースは」 「でね、話はその神様から始まるの」 ほらやっぱり聞いちゃいない。しかたがないね。受け入れるというコミュニ

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          人生はとりあえずクビから 続き

          目が覚めた。人生で初めてというほどの酒量だったくせに、あきれるくらいの爽快な朝。それほど強くはないはずなのにね。昨日の酒はどこにいった、それとも体質が変わった。家系からすると親父はともかく、ジーサマは酒豪だったから不思議はないのかも・・・。とまったくのんきというかくだらないというか。ンっなんか下半身に違和感?オイオイそりゃまずいって。いくつだよ本当に。いい年してそれはないだろう。でもこれは限れもなくって。 ホントに濡れてるよ下着どころかベッドまで。って失禁!違うよ下だけじゃな

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