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現役Jリーガーに聞く、LGBTや多様性のこと

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 過去、私が代表を務めていたHemisphereTOKYOの前身であるはまでんホールディングス時代に、大学生サッカー選手へインタビューを行い、その内容を物語風にして著書へ収載する、という企画を行ったことがあります。(当該書籍絶版・頒布終息済)

それから、5年。

 多様性の推進が、TOKYO2020に向けて大きく叫ばれていますが、現役アスリートの方はどのようにお考えなのか。

 当時の内容と一部比較しながらの質疑を交えて、サッカー選手、しかも現役Jリーガーである浅川隼人さんへお話をお聞きする機会があり、それをまとめました。(以下、小は小島・現著者名は清水、浅は浅川隼人さん)

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【浅川さんのこと】

小:今日はお越しいただき、ありがとうございます。早速ですが、ロアッソ熊本への移籍、おめでとうございます。

浅:ありがとうございます。

小:こう、いくつか他にもチームがあったかと思いますが、ロアッソ熊本を選んだポイントは、何でしょうか?

浅:チーム自体のコンセプトが、僕自身の考えていることに近いのと、九州、ひいては西日本で次はトライしてみたいと思ったからです。あとは、何より「地域密着」っていうのが、僕の考えに近いのを感じたので、ロアッソ熊本に決めました。

小:浅川さんのお考えというのは、今回、私がエントリーさせていただいた、『レンタルJリーガー』のことでしょうか。これ、「またすごいことやってるなぁ」と思って。私は。普通なら考えられない。

浅:そうですよね。僕は、周りから「かなり異端だ」なんてよく言われます。でも、そこは変えようとは思いません。

まず、そもそも今回お声かけくださった『レンタルJリーガー』ですけど、僕という存在を表へ発信していきたいんです。

今って、例えばプロの人と距離感なしで色んな事ができるものってないんです。でも、僕はゼロ距離でありたい、何なら『近所のお兄さん』的な存在でいたいんです。だから、あくまでサッカー選手なんでサッカーメインの内容になってしまいますけどね。

小:なるほど。

浅:あとはですね、僕が表へ出ることによって、今所属しているチームの名前も出ますよね?だから、「Y.S.C.Cの浅川隼人」って感じに。

小:ブランディング、ですね?

浅:そうです。チームにとってもプラスだし、僕個人ももちろんプラスです。こういうところを考えて、『レンタルJリーガー』とか、他のクラウドファンディングを企画しています。


【サッカーに浸り過ぎていた】

浅川さんは、1995年に千葉県に生まれ、千葉アミカルSCに始まり、ジェフユナイテッド市原・千葉U-15に千葉県立八千代高校、桐蔭横浜大学、更に、サッカーJ3の横浜スポーツ&カルチャークラブ(Y.S.C.C)に入団し、今年からロアッソ熊本へ移籍するという、完全なサッカー一筋で歩かれてきている方だ。

そんな方から、お話の中でこんな内容も聞かれた。

浅:僕、ある時セブ島に行く機会があったんですけど、そこで「サッカーに浸り過ぎてた」って思ったんです。

小:え?浸りすぎ、ですか?

浅:ええ。セブ島って、真っ青な海と空に白い砂浜って、いかにもリゾートっていうのを想像されますよね?

小:えぇ。いかにもリゾートって感じの、あれですよね。

浅:はい。僕も、そんなイメージだったんですが、あの島には、ごみを拾って生活している子供さんも多くいるんです。

小:それは初めて知りました。

浅:ですよね。それで、さっきお話ししたクラウドファンディングで、セブ島で子供たちにサッカー教室を開こうと思ったんです。

小:どうでした?

浅:大成功でした。そこで、僕思ったことがあって。サッカーに浸り過ぎてたこともそうですけど、他の社会ともっと関わらないといけない、と。で、よく見ると、例えば年俸1,000万円の同じプレーヤーの方って、引退して一般企業行こうにも、ほんとそれだけなんです。

だから、サッカー以外の職も一緒にやっていくデュアルキャリアって考えも、持つようになりました。何なら、今ここで、自分の意志でスパイク脱いでもいいように、と。

セブ島と聞くと、皆さんも世界に名だたる一大リゾート地のイメージだろう。

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だが、現地警察の手も行き届かずに違法行為が横行し、数か所のゴミ山が存在する場所があるのは、確かなのだ。公設と私設とで成り立った経緯が異なる様だが、それにかわりはない。ゴミ山でゴミを集め、金銭に変える。その過程で、時として足や腕を失ったり、命をも失うことだってある。こんな、夢も持てない生活がリゾート地であるのだ。そこで感じた、得た浅川さんの経験などは、他の方も知っておくべきだと思う。


【大旗を振る】

浅:あとは、食事とトレーニングと強化を取り扱うオンラインサロンというのを2020年2月から開設する予定だったり、『ゼロ距離食堂』といって、チームの食堂をそのままファンや地域の方に開放するんです。僕らももちろん食事をそこでするし、若手選手の社会経験の場にもなるものをやりたいな、と思ってます。

小:それも、すごいですね。

浅:で、こういうことを積み重ねていけば、正直「0円でJリーガーってやっていけるんじゃね?」と思うんです。でも、ここでいう0円は、金銭の循環・人的資財があった上での0円の追求、ってことです。

アニメや漫画のONE PIECEの様に大旗を振っていく、しかもそれは、『価値・人生をかけた夢・希望』の大旗です。


【LGBTや多様性】

小:ずっとサッカー一筋で、今やJリーガーなわけですが、LGBTの当事者の方は、周りの選手や先輩、後輩でいましたか?

浅:クラブとか部活ではないですけど、小中時代の友人でトランスジェンダーの方が居ます。でも、その友人はもう、自分が望む性へ体も変わって生活しています。後から知った話ですけど本人は、結構言いづらかったようです。

そもそも、今の日本の学校教育って、イギリスの産業革命時代の物の様な感じですからね。YESマン養成ではないですけど、はみ出し者を排他する感じ。

それと、スポーツ界と学校の部活って、結構根深いつながりがあって、「出る杭は打たれる」ではないですけど、固まる個性の集団にしてしまっているんです。これは、僕が教育実習(浅川さんは教員免許をお持ち)でも経験したんですけど、結構笑いが絶えない授業にしてみたんです。そしたら、指導してくださった担当の先生から「あれじゃ、絶対に受け入れられないよ」と言われてしまって。なんか、そんな部分でも言えると思いますし、僕は単純に勝ちたいというのは、指導者や親御さんのエゴであることが多いと思うんです。そんな部分からでも垣間見れるかなと思います。

小:なでしこジャパンの下山田選手の様にカミングアウトした人もいますが、元来のJリーグでそういった人が出てこないのは、なぜだと思いますか。現役Jリーガーから見て思うことや感じること、推測なども含めて、これだ、というのがあれば。

浅:サッカーで考えると、なでしこの場合は女性同士ですよね。普通のJリーグで考えると、例えばフィギュアスケートの様な華々しさってないじゃないですか。なので、サッカーというスポーツのカラーや特性も考えると、出てこないというか、そもそもいないと思います。すみません、もしかしたら違うかもしれません。

でも…そうですね、僕はそう思います。今まで、そういう人にそこの中で出会ったことがないからかもしれないですけど。

小:2020年からは、小学校3年生や4年生でも、LGBTやSOGIに関することが教科書に収載される、つまり、教育が始まるとされています。

浅:え?そうなんですか?

小:はい。でも、これも「やっとか」という感じを私個人的にはあるんですけどね。

それで、まぁこれは特に、保健体育を中心にして、高校の家庭科や中学の道徳でも取り扱うことになるか、既に取り扱いが始まっている様ですが、浅川さんなら、どう伝えていきたいですか?

ちなみに、過去インタビューした大学生プレーヤーは「ありのままの自分なんだよ」と伝えていきたいとありました。

浅:そうなんですね。その通りだと思います。LGBTだけではないと思いますが、個性が生きる様に、個性が生きられる環境づくりが第一かと思います。例えばですけど、コンプレックスがあるとか、こういう人だと認められる社会へ進むことが大事かな、と思いますね。

要は、自分目線と周りの環境です。

小:最後になりましたが、Jリーグをはじめ、今後の国内スポーツ界におけるLGBTの考え方や今後の関わり方を、現役選手からひとことあれば、ぜひお願いします。

浅:僕は、こういうの何も抵抗なく言える文化が必要だと考えてます。

でも、文化とはいっても一時的なものじゃなくて、しっかりと。例えば、イニエスタが来日したら、それって火になりますよね。でも、文化じゃない。だから、教育では文化にはならないと思うんです。

LGBTもそうですが、多様性という括りが一番僕はいいかなと思います。

あとは、さっきの部活とかの話ではないですが、そもそも先生方がそれ同士の個性や特徴を教えられるようになっていけば、多様性を伝えられる先生がもっと増えればいいと思います。ひとり一人が理解しあえる環境が整えば、いじめも減ると思いますしね。

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なるほど、という意見が多かった。

現役Jリーガーに聞いた、LGBTや多様性のこと。

過去の大学生プレーヤーとのインタビューでは、時間の都合などもあったと思うが、それでも、ここまでの内容を聞くことはできなかった。

しかし、そこと共通して言えるのは、個性や個々の尊重という旨のものが何度も聞かれたほか、浅川さんからは「それが当たり前の環境を作っていくこと」と「ブームではなく当たり前である文化をつくる」というのが挙げられた。確かに、LGBTを中心とした多様性が国内で取り上げられ始めたのは、2015年の渋谷区でのあの条例施行からだ。この国の世論に、条例施行という大きな石を投げつけたことでようやく広まり始めたのは事実で、まだ、文化や当たり前の環境には程遠い。これからは、TOKYO2020をトリガーにしてはもう遅いのだが、皆がまずは、今以上に一丸となって声を出すことが環境・文化づくりへの第一歩なのではないだろうか。

そして、特に私がずっと考えていた「なぜ、なでしこで下山田選手の様なケースがあるのにJリーグではないのか?」という部分にも踏み込むことができた。

確かに、男子サッカーの場合だと華々しさはないのだが、それでも出てこないこともないと思う。やはり、これも浅川さんが仰せの「部活動とスポーツ界の根深いつながり」が起因しているのか。もし、そうならば…。

それは、また、何か機会があるときに。

また、本題以外にもサッカー選手生活の事もいくつか聞くことができた。

その中で、「僕がずっとサッカーやってきている中で、『J3のチーム・初年の年俸はなし』という条件を見て、だったらいーや、って言って諦める仲間も、いっぱい見ました。」という発言も、逃すことができなかった。

私は正直いって、サッカー界やスポーツ界には疎い。何なら、高校時代に体育の授業でボールをゴール目がけて蹴っても、あさっての方角に進むことがほぼで、それこそ、サッカー部に所属している同じ授業(小島の出身高校は単位制普通科で学級の概念がほぼない)の仲間からは、手を叩いて大爆笑されるぐらいで、業界の情勢についての知恵はおろか、運動神経もない。

しかし、年俸や契約金といった金銭の問題では、例えばJリーグの場合だと下に行けば行くほど下がってしまい、生活が厳しい状況になってしまうという話を何度も聞いたことがある。

だが、「でも、僕はサッカーが好きだからやっているんです。」という旨の言葉を聞いて、何とも難しい部分であることも察した。

これは、業界全体の構造改革を、私は切に願う。

今回はランチ形式でのインタビューだったが、お互い、テーブルに置かれているハヤシライスが冷めてしまうのを忘れるぐらい、浅川さんは熱く語ってくださった。年に何人もお話をお聞きする機会があるが、正直申して、ここまでの熱量の方を今まで見たことがなかった。

年の瀬迫る中(2019/12/27取材)ご多忙だったところお越しいただいたこともあわせて、感謝申し上げたい。

そしてまた、TOKYO2020が、さらにその先の未来が多様なものを温かく包み込み、生かし・生かされるものになり、更に文化・環境構築のスタートになることを願いつつ、この記事を終える。


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浅川隼人(あさがわ・はやと)

1995年(平成7年)5月10日生まれ、24歳・千葉県出身。ポジションはFW。

千葉アミカルSCに始まり、ジェフユナイテッド千葉U-15と千葉県立八千代高校、桐蔭横浜大学、Y.S.C.C横浜、2020年からロアッソ熊本へ移籍するなど、正にサッカー一筋である。

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