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過去を振り返るポエムを書いて、なぜ働くのかを皆に発表する(#21)

この記事の初出は、Software Design 2023年12月号です。


ポエムを書く目的

チームのメンバーがお互いのことを理解し合うことは、皆で楽しく開発するために大切な要素です。
前回では、お互いの理解を深めるための施策として、ドラッカー風エクササイズを紹介しました。
今回は過去を振り返るポエムを書いて働くモチベーションについてチームの皆に発表するという方法を紹介します。

この方法は、fukabori.fm で有名な岩瀬義昌さんの『実践「最⾼のアジャイルチーム」』という講演(2018年開催のTech-on MeetUp#03の講演)で紹介されているものです(こちら)。
なぜ今この会社のこのポジションで働いているのか?ということを小学生時代からの過去を掘り起こして、各自が書いて発表します。
どういう経緯で専攻科目を選んだのか、どんな紆余曲折を経て今の役割に就いたのかなどを感情や理由を含めて書くことで、その人の価値観や人生観が分かります
これをチームの皆で行うことは深いレベルでの自己開示になります。
そのため、チームで議論する際にお互いの価値観を理解した上で議論ができるようになり、心理的安全性が高まりやすくなります。

実施方法

ポエムを書いて深いレベルの自己開示を行うには、自分の過去や人生観を見せても良いと思えるチームになっている必要があります。
そのために、これを行う前に、お互いの理解を深めるためのプラクティスをいくつか実施するなどで、自己開示に慣れておくと良いと思います。
例えば、前回紹介したドラッカー風エクササイズもお勧めです。

筆者のチームの場合は、失敗してもいいからとにかく新しいものを試す事が重要という価値観を皆で共有し、思い付きのものや効果見込みが低そうなものであっても、とにかく皆で新しいプラクティスをどんどん試していました
様々なプラクティスを試して自己開示に慣れていたため、ポエムを書くのもすんなり取り組めました。
新しいものを試す風土作りに関しては、以下の本連載の第6回「新しいものを試行する風土を作る」で紹介していますので、詳しくはそちらを参照ください。

以降は、筆者のチームで実施したポエムを書いて発表するやり方を説明します。

いきなり全員がポエムを書いて、全員が発表するとなると、かなり時間がかかることが予想されます。
そのため、まず1人目がポエムを書いて発表し、それで良い効果があれば、2人目以降も順番にポエムを書いて発表を続ける方法を採りました。
このやり方ならば、もし効果がなくても、すぐにやめれば済むからです。

ポエムが完成したら、朝会の後に15分程度の時間をとって、事前に書いてきたポエムを画面共有して見せながら発表します。
ポエムを一通り聞いた後は、皆に感想を話してもらいます。
ポエムが大作になったり、皆の感想が盛り上がり過ぎたりすると延長することもあります。

発表が終われば、次にポエムを書く人を決めます。
なお、本人がやりたいと思ってポエムを書かなければ良い効果が得られないため、やりたい人だけがポエムを書きます

ポエムの例

どのようなポエムを書くのか、具体例がないとイメージが湧かないと思いますので、ポエムの例を紹介します(筆者が考えた架空の人物のポエムです)。

# ○○○(発表者)のポエム

本書は、働くモチベーションを時系列ごとに感情や理由を含めて書くことで、
価値観や人生観を自己開示するための文書である。

## 小学生時代

小学校5年生の頃に書いた「将来の夢」という作文がある。
その作文には「自分には何のとりえもない」など、自分を卑下したことが多く書かれており、
マイナス思考が強かった。
夢はなく「平凡なサラリーマンになっていると思います」と書いてあった。

## 中学時代

将来の事はまったく考えていない。
ただ、好きな女子と同じ高校に行きたかったので勉強を頑張った。
そしてその子と同じ高校に合格した。

## 高校時代

この時も将来の事はまったく考えていない。
自分の家にはあまりお金がないと思っていたので、
通える距離の国立大学で一番偏差値が低い学科を探して受験した。

## 大学時代

就職活動を始めるまで、やはり将来の事はまったく考えていない。
特にやりたい事はなく、就職活動では業種も職種も様々なものに応募した。
この時点では、プログラミングをあまりやったことがなかったので、IT系以外にも、
製造業や機械系の職種などにも応募した。
内定をもらえたのはIT系の会社だけだった。

## 就職後

自分が開発しているプロダクトが好きで、年々裁量も広がっていき、
仕事にやりがいを持って楽しく働けていた。
この頃に結婚して娘もできた。

しかし、ある時、何のために働くのかを考える出来事があった。
人生の中で仕事が最も大変で忙しい時期があった。
1歳の娘ともあまり遊べていなかった。
そんなある日、娘が雑に折られた折り紙で一人で遊んでいるのを見かけた。
よく見るとそれは
数ヶ月前に自分が心の余裕がない中で、雑に折ったペンギンの折り紙だった。
そんなものを娘がずっと大事にして、一人でそれで遊んでいるのを見て、
自分は何をしているんだと思って泣いた。

その時、自分にとって大切な事は何なのか、働く理由を考え直した。
プロジェクトを成功させる事よりも、
家族との時間を大切にして家族と幸せになる事の方が何万倍も大切だと思った。

上司と相談し、業務負荷が少ない部署へ異動させてもらった。

## 部署異動後

長期にわたり家族との幸せを維持するためには、
安定して働けるように自分の市場価値を高めておく事が必要だと思った。
そのために、技術記事投稿や社外発表などの発信活動を始めた。

発信活動を続けた結果、エンジニアとして成長できた。
発信活動を通じて社外に多くのエンジニア仲間もでき、
自分の発信した内容が役に立ったと言ってもらえることがとても嬉しく感じた。

## まとめ

これらの変遷を経て現在の私の働くモチベーションは以下である。

家族との幸せを維持するために成長したい。
成長するために発信活動を続けた結果、
それが自分にとって楽しく成長できる最善の方法だと気付いた。
だから、仕事の中で積極的にチャレンジし、そこで学んだ知見を発信し続けたい。

以上

上記の例のように、筆者のチームで発表されたポエムはどれも、後半になるにつれて文章が熱を帯びてきて、そのときの感情がよく伝わってくる文章でした。
今回の例は、学生時代に将来のことを考えていない話でしたが、メンバーによっては、学生時代から今の仕事の業界に興味を持って専攻科目を選択したことなどが書かれていました。
書く時のポイントは、その時の感情として「悔しかった」「楽しかった」などをできるだけ多く書くことです。
そうすると、書く人にとっては自分の感情の変遷を整理できますし、聞く人も共感しやすくなります。

実施結果

前提として、こういうプラクティスは、参加したメンバーが本気で楽しめないと効果が低くなる傾向があります。
ただ、その点については問題ありません。
このポエムは、その人の人生を凝縮した物語のようなもので、聞く側はとても面白いです。
そして、発表する側もポエムを書いているうちに、自分の人生や価値観をわかってもらいたい気持ちになってきて熱がこもります。だから発表する方も楽しいです。

よって筆者のチームで実施した結果、お互いの知られざる歴史や価値観を理解できて、その人に対する興味や共感が増しました。
深いレベルの自己開示になるため、心理的安全性も向上しました。

とてもお勧めのプラクティスなので、ぜひ試してみてください。

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