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④「シン・開業医心得」 第1章の1より 臨床試験論文にでてくる統計の読み方
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「シン・開業医心得」 目次
プロローグ
第1章 シン・開業医心得
1 世間で時々聞く「医者に殺されないように」という文句に殺されないように
2 開業医での経験
第2章 開業してようやくわかる医療制度の問題点
1 たまに話題になるが、よく知られていないことがらについて
2 医療、介護制度の盲点
エピローグ 提言
第1章の1より
臨床試験論文にでてくる統計の読み方
多くの「医療の常識を疑う」趣旨の文章で引き合いに出されるのは、外国語の医学論文だ。
だが、実際のところ、医学論文の要旨を英文で読むだけでは、何も語れない。サマリーには「~ということが示唆された」「~という可能性がある」という言葉はあるが、それは、最終結論ではなく、文字通り、「可能性」であり「示唆」にすぎないことがほとんどなのだ。
結論からいれば、論文の中の表やグラフデータの「注」までをチエックしないといけないのだ。
例えば、さきほど「実のところ、少し調べれば、(高血圧と違い)高コレステロールが健康を損なう、という証拠は、まだないことがすぐにわかる」と簡単に書いたが、自分だけでは調べきれない。自分が調べた範囲では「証拠はまだない」が、自分の知らないところで証拠が出ているかもしれない。
だが、このように記述した根拠は、開業医になって、いろいろな講演などから「高コレステロールを改善すると、心筋梗塞や脳梗塞は減少します」というデータを何度もみせられたが、調べなおすと、未だに、証拠不十分なものばかりで、結局まだ一度も「証拠」に出会っていないからだ。
そのため、
「細かい話だが、一度、脳梗塞や心筋梗塞を発症した人に『再発予防』のために、コレステロールを下げる薬は有効、という報告はある。
だが健康の人が、コレステロールを下げる薬をのむことが健康を保つのに役立つという証拠は(血圧を下げる薬の効果とは違い)まだないのである」
というまわりくどい言い方になる。
統計の専門家ではないぼくが、臨床試験の論文にでてくる結果を読むときに気を付けていることをいくつか、ここで紹介する。
専門家でないことが、むしろ一般向けにはいいこともあると信じて。
そして、意外に、以下のことについてまとまった書かれた記事が多くないと思うので、書き留めておく意義はあろう。
まず、その臨床試験が「前向き試験」でない「後ろ向き試験」であれば、その結果の信頼度をぐっとおとす(信頼性は「ない」と言い切るようなつもりぐらいでいい)。
その論文が「メタ解析」であるとき、ぼくは「メタ解析」について詳しくないので、一歩ひく(おそらく、それが扱っている個々の臨床試験の質、と関係すると思うが)。
その臨床試験が試験デザインの時に「主要評価項目」としたものの結果のみ信頼する。
「副次項目」「サブ解析」の結果はすべて、単なる参考にすぎない(単なる、次の検証試験デザインのためのヒントにすぎない)。なぜなら、それぞれの臨床試験は、「主要評価項目」のみ統計的に検出できるように、人数設定等デザインされているからだ。「副次項目」「サブ解析」の結果はそのまま信じてはいけない。
その意味で、臨床試験へのエントリー人数は問題ではない。
正しくデザインがおこなわれているなら、臨床試験の参加人数の多少は問題とならないからだ。
ただ、その薬剤試験のスポンサーがその薬剤の開発者や販売者である場合は、その試験は信頼できない(COI:conflict of interest)。
またぼくは、個人的に、その臨床試験参加者の中の日本人がどのくらいの割合か?ということを結構気にする。日本人と欧米人では、同じ人間でも薬の反応が多少違う、と思うからだ。
また(今では改善されたかもしれないが)中国人が多くエントリーしている試験の結果も斜めにみる。なぜなら、一般に、あからさまな情報統制をしている国の「風土」が公平な試験結果をだせるだろうか?と疑念をいだいているからだ。
統計に関する数字については、意味や原理がよくわからないが、以下の使い方だけは知るようにしている。
例
「60歳以上に低用量アスピリンを投与して心血管関連死等の複合アウトカムをみたとき。
アスピリン群2.77%、非投与群2.96%、ハザード比0.94、95%信頼区間0.77-1.15、P=0.54」とあったとき。
① ハザード比
ハザード比が0.94 ということは、アスピリン投与群では心血管関連死などの複合アウトカムを「6%減少させる」ということになる。
*もしもこのハザード比が0.7だったら「30%減少させる」、1よりも大きい数字で1.7であった場合は「70%増加させる」となる。
(注)リスク比とオッズ比は「イベントの有無」だけを情報として扱っているのに対して、ハザード比はイベントの有無と「期間(時間)」を考慮しているという点が違う。
しかし上記の違いがあることだけを理解しておけば、結果の見方などは両者に違いはない、という。
つまり、比が1であれば群間に差がないですし、1から遠ければ群間差がある、という結果の見方は、ハザード比でもリスク比でもオッズ比でも同じ、ということ。
そして、結論から言えば、採用した回帰分析方法で、「~比」と言う言葉がきまってくる。
ハザード比:Cox比例ハザードモデル
リスク比:ポアソン回帰(負の二項回帰)
オッズ比:ロジスティック回帰</p></div>
厳密にいえば、各解析によって、得られる結果の推定値は変わるので、研究の目的に応じてどの解析を実施するのか、決めなければならないが、われわれは、結論のみをしれば十分!
② NNT
ハザード比は、あくまでも相対的な発生率なのでイベントの発生数が少ないとハザード比が大きくなってしまう(数字で見たときのインパクトが大きくなってしまう)という落とし穴がある。
*極端な話し、仮にある治療群(1000人)での死亡が2人(0.2%)でプラセボ群(1000人)では1人(0.1%)だった場合ハザード比は2(2倍増加させる)ということになる。死亡した人数は多くないのにハザード比でみると治療群での死亡率が非常に高いように感じてしまう。
そこで絶対リスクも見ていくということが必要になってくる。絶対リスクは上記の数字では「アスピリン群2.77%」「非投与群2.96%」となっており、この数字を使ってNNTというものを計算する。
NNTとはアウトカムが発生する患者を1人減らすために何人の患者の治療を必要とするかを表すもので、数値は絶対リスク差の逆数となる。
ここでの場合、
絶対リスク差は非投与群2.96%-アスピリン投与群2.77%=0.19%
この逆数なので1/0.0019=526.3
になり、つまり526人を治療して1人のアウトカム発生を防げるということになる。
*このNNTの意味がわかると、次に「NNTの値に一般的な目安はあるの?」ということが気になってくる。
たとえば、「アスピリン投与で526人を治療して1人のアウトカム発生を防げる」薬に本当に意義があるのか?
しかし、NNTは治療する疾患領域や、エンドポイントに左右されるので「これ以下である必要がある」といった目安はないという。
ただ、参考例は多数あるらしい。
脳卒中予防のための5年間の高血圧薬:NNT=67
心臓病の再発予防のための5年間のコレステロール薬:NNT=39
高齢者の骨折予防のビタミンD:NNT=36
③ 95%信頼区間
上記ではハザード比0.94という数字が出ているが、これはあくまで対象になった患者さんの中での数字になる。
臨床試験等をする際に世の中の全ての患者さんを対象に試験をすることは不可能なのでサンプリングして試験をされるわけだが、これを世の中の患者さん全てに当てはめたときに誤差がある可能性があるので、その誤差を計算したものが95%信頼区間である。
・信頼区間が1をまたぐと(例えば、95%信頼区間0.8-1.2とか)有意差なし。
・信頼区間が1よりも小さいと(95%信頼区間0.7-0.9とか)リスク減少。
・信頼区間が1よりも大きいと(95%信頼区間1.1-1.3とか)リスク上昇。
ここでは95%信頼区間0.77-1.15ということで1をまたいでいるので有意差はなしとなる。
④ P値
誤差や偶然によってたまたま得られたデータの差が出る確率を検定したもの。
通常、P<0.05(たまたまその結果が得られる可能性が5%以下)であれば結果は有意であるということにされるようです。
上記では、P=0.54なので結果は有意ではないということになる。
⑤結論「ある薬剤は、病気のリスクを~%さげた」という統計結果は、それ自体だけでは、怪しいことがほとんどなので、だまされないように、あるいは人をだまさないように、その取扱いには注意がいる。
(参考サイト)
https://screamtheyellow.hatenablog.com/entry/2014/11/20/230527
https://best-biostatistics.com/surviv/hazard-ratio.html
https://best-biostatistics.com/summary/nnt.html
①へのリンク: ①「シン・開業医心得」 プロローグ|kojikoji (note.com)
⑤ヘのリンク:
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