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光遺伝子の進化をたどる

光遺伝子という分野で画期的なデバイス開発の成功が発表されました。

要は、
超極薄で曲げることもできる脳照射用LEDフィルムを開発した、
という話です。

元々は文科省採択の研究プロジェクトで、この「光遺伝子(オプトジェネティクス)」への研究は国家的に注目されている分野です。

光遺伝子技術とは、脳に特定の波長の光を当てると活性化するタンパク質を作って、その神経細胞を制御する仕組みです。

それまでの神経科学では、電気刺激や薬理で活性化させるのが主なやり方でした。ただ、それだと近傍細胞にも影響を与えたり時間的な推移が読み取りにくく、観測精度に限界がありました。

光遺伝学はこういった欠点を補い、マイクロ秒レベルでの神経活動の状態を観測可能にします。

出所:脳科学辞典「光遺伝学」

今回は、この歴史と今後の展望について触れてみます。

今聞くと「へぇ~」ですが、よくこんな発想を思いついたなぁと個人的には思います。

アイデアは、どうもDNA螺旋階段を発見した「フランシス・クリック」が提唱していたという話はありますが、あくまで構想レベルです。
それが具体化したきっかけは、1970年代に光に反応する微生物が発見されたことです。その解析の結果、光を活性化するタンパク質が同定されました。(詳細は下記図参照)

出所:脳科学辞典「光遺伝学」

そして2005年に初めて人工的な実験を成功させたのは、カール・ダイセロス教授で、元々は精神医学を専門にしていた異色の経歴です。

精神病の発症原因を根本的に解明したかったのが研究動機で、20年以上前から判明していた上記タンパク質が、自身の研究に応用できるのでは?と考え、ついに哺乳類の神経細胞に発現させることに成功しました。
この研究を元にして、他の科学者にも光遺伝子技術の応用へと広がりました。

同教授は、史上最年少で京都賞も受賞され日本でも報道されています。

さらに2007年に、生きて動いている動物の行動を、光で操作することにも成功しました。この実験は相当評判になりました。

研究手法を端折りましたが、当時同じく勃興していた「遺伝子技術」も組み合わせた複合的な手法です。

光反応するタンパク質を埋め込む方法は、ワクチンのような媒体を使ったり遺伝子技術で直接的にそう育てるやり方です。
今では、「光遺伝学」で検索するとこれを応用した様々な研究成果が発表されています。

ただ、該当神経細胞に光を当てるデバイスは、当初は有線で直接的に電極を当てるというやり方でした。
光遺伝子技術で一番引用される画像は下記です。光ファイバーで結合されたダイオードを使っており、どうしても実験施設や部位などの制約が出てしまいます。

出所:https://blogs.lt.vt.edu/stems/2014/05/01/optogenetics/

以降はLED化やワイヤレスなど光学的進歩が積み重なって、ついに冒頭記事にあるデバイスの開発に到達します。

もしコストパフォーマンスが高まれば、より実験のしやすさや高まって研究の底上げに貢献できると思います。

今回の歴史的な経緯で印象的なのは、長年分かっていた事実を元に、異分野の専門家が参入して一気に開花した過程です。

元々の考案者のフランシス・クリックも、元々は物理学者で生物学に転向し、たったの6年で世界的な発見を実現しました。

産業の世界でもイノベーションという言葉が普及してますが、科学の世界でもまさにそれが問われているのかもしれません。

※タイトル画像:https://blogs.lt.vt.edu/stems/2014/05/01/optogenetics/

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