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abc予想と数学の常識への挑戦

4/10のNHKスペシャルに「数学者は宇宙をつなげるか」というとても面白い番組が放映されました。「abc予想」証明をめぐるドキュメンタリーです。

お世辞にもabc予想を理解した、とは言えないので・・・自分なりに整理して、感じたことを連ねてみようと思います。

まず、数学はあらゆる学問で最も厳しく美しい、と感じています。例えるなら、頂とルートの見えない孤高の山々を登る風景を想像します。

そして、ごくたまに山頂への「ルート」を発見する出来事も起こります。

有名な1つの例として「フェルマーの最終定理」があります。

17世紀のアマチュア数学者フェルマーがたてた予想で、

3 以上の自然数 n について、「xのn乗 + yのn乗 = zのn乗」 となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない

という、極めて単純「に見える」予想です。

そしてこの予想が、なんと350年(!)も天才数学者たちの挑戦をはねのけてきました。
途中で懸賞もだされており、決して放置されたわけではありません。

その解法に繋がる道は、現代数学の歴史とも言えるかもしれません。

思い切って重要な点だけに絞ると、近代になって考案された「モジュラー形式」(超ざっくりいうと特定の対称性を持った集合体)によって一時期その頂が見えたと思われました・・・が結局そのルートだけでは登頂できませんでした。
そして別の山としてそびえていた「楕円曲線」とモジュラー形式を繋ぐ峰が別の数学者によって発見されることで、ついに登頂へのルートが見出されたというわけです。

余談ながら、最終的に解いたのはカナダの数学者アンドリュー・ワイルズですが、上記の峰を見つけたのは日本の数学者(谷山豊志村五郎)です。

フェルマーの最終定理に関する歴史については、下記をお勧めします。


そんな残酷なほど美しい数学の世界で、次にそびえる人類未踏の山が「abc予想」でした。

abc予想自身をきちんと説明するだけで少々発散してしまうので、今回はNHKが巧みな表現で例えていたので活用します。

例えば、
2×3×5=30
と表現できますが、左辺を親に例えると右辺の子供はその因子を受け継ぎます。または右から左に因数分解することが出来ます。
ところがこれを足し算に置き換えると、右から左へ逆算することは出来ません。
つまり、「掛け算は簡単だがたし算はむずかしい」のです。

フェルマーの最終定理も「たし算だから」超難問になったわけです。

abc予想は、1985年にジョゼフ・オステルレとデイヴィッド・マッサーにより提起された数論(数を扱う数学分野)の分野です。
上記の表現を借りると、
親から子供がある程度予測できる
というものです。

例えだけ聞くと信じられないことですが、まさに今回の理論はその比喩に負けない迫力を備えています。
上記で例示したフェルマーの最終定理も、abc予想が証明されたらなんと数行(!)で導けるそうです。

そんな魔法のようなabc予想を解く理論が2012年に望月新一博士が提出した
宇宙際タイヒミューラー理論
と呼ばれるものです。
要は、掛け算と足し算の関係を解きほぐすために新しい数学的世界(宇宙)を構築したものです。

今回のNHK特集によると、元々博士論文でやりたかったのを指導教官が学生には厳しいと別のテーマを与えたそうです。
ただ、その博士論文の最後に、今後の挑戦テーマとして「abc予想」を挙げており、常に望月さんの想いは繋がっていたようです。
ちなみにこの時点ですでに望月さんは将来を期待された新鋭の学者として数学の世界では知られていました。

その望月さんがabc予想に取り組んで提出された論文は、当然ながら数学者の注目を集めました。

根幹のアイデアは、
掛け算と足し算を分離した新しい数学体系(宇宙)を構築しそれを繋げる
という斬新なものです。
ただ、それを導入した結果として「同じとしていたものを時には違うとみなす」など、あまりにも従来の数学、そして論理の常識を覆すものでした。

実際に査読自体も何年もかかり、2020年に査読が完了(専門誌掲載が確定)しました。これがabc予想を証明した証となります。

ただし、それ以降も専門家の間では論争が続いているようです。
今回の放映を見る限りですが、数学的な正しさではなく、そもそも数学における常識(同じものは同じ)をどうとらえるかという「認識の違い」が論点にあるようです。

もはや理論の内容以前に、どういう騒動が起こっているのかを理解するだけでも精いっぱいですが、まちがいなく新しい世界が待ち構えている気がします。

最後に、深くは分からないまでも、とても直感的に「宇宙際タイヒミューラー理論」を一般向けに解説してくれる書籍を紹介します。

理解はできないまでも、天才たちが導いた孤高の山々を鑑賞して、その挑戦に微力ながらエールを送りたいと思います。

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