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ヒッグス粒子発見の日を偲ぶ

10年前の「2012年7月4日」は何の日?

月日だけを見ると「アメリカの独立記念日」を思い描く方が多いと思いますが、ちょうど10年前と聞くとどうでしょうか?

答えは、「ヒッグス粒子発見を発表した日」です。当時の写真を引用。

出所:CERN(https://home.cern/science/physics/higgs-boson/what)


今回は、10周年を記念して発見の歴史と今後の話をしてみたいと思います。


まず、ヒッグス粒子の意義ですが、一言で言うと「素粒子の標準模型で最後の仮説が検証されました
それによって下記のような体系図が完成されたことになります。

出所:Wiki「素粒子の標準模型」

物理学的に言えば、(光子以外の)粒子に質量が付与されるメカニズムを解明したことになります。

以前に「素粒子の標準模型」については下記の投稿でも書いたので、ややその基本情報は省略します。

そもそもヒッグス機構のアイデアは南部陽一郎氏の「対称性の自発的破れ」によるものです。

それを元に、名前の由来となったピーター・ヒッグス氏が、1964年に初めて論文で提唱したのが質量を付与する場で力を運ぶ「ヒッグス粒子」です。

対称性の自発的破れを説明するときによく使われる図を引用しておきます。
理論的には下図の状態にとどまりますが、現実世界では必ずどこかに落ちるというイメージです。

出所:CERN HP(https://home.cern/science/physics/higgs-boson/what)

2012年に発見される以前に、ヒッグス粒子は「神の粒子」と呼ばれたこともありました。

はじめに聞いたときには、この呼び名は大げさすぎてしっくりきませんでした。
というのも、あくまでこのヒッグス粒子による対象は「弱い力」だけで、「強い力」と比較して数%程度です。謎が最後まで解けなかったのが弱いほうだったというわけです。

こちらのエピソードによると、名付け親にあたるレオン・レーダーマン氏(2018年に死去)が、なかなかこの粒子が検出できないので「ゴッドダム(くそったれ)粒子」といったという説があります。
こちらならしっくりくると同時に、もし事実だとしたら、相当これを聞いたメディアが都合よく加工してますね^^;

レーダーマン氏の気持ちは分かります。確かにヒッグス氏が理論的に提唱して50年近くも検出されませんでした。

ヒッグス粒子の検出が難しかった理由は大体以下の3つです。

  • 陽子など核子(陽子)重量の130倍もあり、抽出するには高いエネルギーが必要だった

  • 他の粒子との相互作用が小さいため、稀にしか発生しない

  • 発生しても寿命が短い(大体10のマイナス21乗!)

つまり、科学実験の性能が上がってついにCERNという欧州での加速度施設で上記を満たす実験を行うことが出来たというわけです。

当時の日本語解説記事(Nature)と観測データを引用しておきます。


出所:上記サイト

その発見したCERNでは、今度はヒッグス粒子のふるまいを観測を続けて、最新の発表によると、クォークとの相互作用や変容の観測を進みつつあるようです。

ちょっと水を差しますが、昨年から「素粒子の標準模型」に沿わない観測結果が報道されています。

ようは、
素粒子の1つミューオンが、理論が導く値よりも早く回転(歳差運動)していることが分かった、
という話です。

まだ統計的に有意かどうかは完全には判断できませんが、もしかしると模型の設計図が変わる可能性もあります。

ただ、自然科学はこうやって進歩してきたので、人によっては嬉しい発見とみる方もいるかもしれません。

何より、素粒子の標準模型は、あくまで4つの力のうち「重力を無視した」近似的なものです。(スケールが全く違うので問題ないです。むしろなぜこんなに重力だけが際立って小さいのかが謎)
しかるがゆえに、「理論」とか「方程式」という呼び名を付けてません。

いつかは万物を記述する「神の理論」「神の方程式」が証明されるといいなと1ファンとしては願っています。

まずは本日においては、ヒッグス氏をはじめとして素粒子の標準模型に貢献した多くの関係者に心からの祝福を送ります。

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