核融合発電の実用へ向けた一進一退
次世代エネルギーとして期待されている「核融合発電」。
そのなかで世界最大級の「ITER(国際熱核融合実験炉)」へ貢献する実験炉が、国内で今秋に稼働できる見込みです。
今回は、核融合エネルギーの仕組みと課題について触れたいと思います。
核融合は、名前のとおり、複数の原子核を反応させて1つに融合するときに発生するエネルギーを活用しよう、というアイデアです。
逆のようで似ているのが「核分裂」です。これも核反応させて分裂する際に放出されるエネルギーを活用する、という意味では似ています。
ちなみに、歴史的には残念なことですが、アメリカが1950年代に開発した水素爆弾はこの核融合反応の原理を使い、しかもその発火手段が直前に開発されていた原子爆弾(核分裂反応)です。
この核融合反応ですが、ざっくり分けて、「超高温」「常温」タイプがあり、比較的主流なのは前者です。ITERもそれに属します。
「超高温」のお手本は宇宙にあり、自身で光を発する恒星のエネルギー放出メカニズムがまさにこのタイプです。
例えば、恒星の1つである太陽の内部では、水素原子同士が融合してヘリウムになり、それを太陽エネルギーとして我々も恩恵を受けているわけです。
ただ、太陽の場合だと1千万度以上の超高温でないと反応せず、ITERの採用しているのも、同じように超高温状態を発生させる必要があります。(「人工太陽」と呼ばれることも)
恒星による反応との違いは、使われる水素の種類で、ITERの場合は重水素(ジュウテリウム)と三重水素(トリチウム)を使うので、頭文字からD-T核融合反応と呼びます。
技術的に難しいのは、その反応を維持させるために超高温にしてプラズマとよばれる状態にしておかないといけないことです。
そのプラズマの制御でAIが貢献した記事は以前にもご紹介しました。
もう1つの別の課題が、その原料にあたる三重水素の調達で、地球大気から抽出できるのですが、すでに採取できる大気濃度がピークを越えていて今後減少すると見込まれています。
今後実用の話が近づくと、話題になってくると思います。1つだけ関連記事を引用しておきます。
今回のニュース含めて国際的に最も注目されたプロジェクトであるITERですが、計画は当初よりだいぶ遅れており、現時点では冒頭記事にある下表のとおりです。
いずれにせよ、今回の実験炉稼働は次につながる重要なタスキです。
そしてもう1つが「常温」タイプです。
いくつか国際的に研究が進んでいますが、国内では「クリーンプラネット」の取り組みをよく報道で見かけます。
原理をざっくり説明すると、ナノ(10億分の1)スケールの金属粒子に水素を吸着させて熱刺激を与えることで過剰熱を発生させる仕組みです。
こちらは1000度未満で理論的には実現できると1980年代に提唱されていましたがなかなか実証できず(過剰熱が確認できず)、2010年以降から実証が見えてきました。
鍵はナノスケールでの素材技術(ナノマテリアル)にあたり、日本も相対的には得意な分野です。
ただ、陽子間に働く電気的な反発力を低温状態でいかに克服して核融合反応につながっているのかという理論的な研究も道半ばのようです。(このあたりは基礎研究ではもう動きがあるかもしれません)
こちらの手法だと、温度管理と原材料調達の面では有利です。ただしこちらは超高温タイプよりさらに時間を要する可能性があるとも言われており、現時点でどちらが良いかは何とも言えません。
どちらが実用になるにしても、それがもたらすエネルギーのポテンシャルは高く、しかも「クリーン」です。
ただ同時に、どうしても「核エネルギー」と聞くだけで不安になる人もいるかもしれません。
まずはその仕組みを最低限理解したうえで、メリット・デメリットの両輪で判断していきたいと思います。
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