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株式会社Wrongを創業しました。

Microsoftを退職してから半年ほど起業準備に打ち込んでいました。
会社登記が完了したので、創業に際して考えたことを書き残します。
ポエム調の日記です。


手元のチップ

いつでも、焦っていた。

起業家になりたいという意思が消えたことは一度もない。
しかし、自分は自分の理想の起業家になれるか、まだ間に合うかと常に不安だった。

そんな私の、DeNAに新卒入社した当初のプランはこうだ。

  • 働きながら、サイドプロジェクトを進める。

  • 働きながら、将来の仲間と出会う。

  • 働くことで、技術力を磨く。

未来予測の外れ方については「想定外のことは沢山起こったし、想定したことは全然起こらなかった」という表現が正しいだろうか。
あれから5年、結果は次のようになる。


  • 働きながら、サイドプロジェクトを進める。

事業化できるほどの成果は出なかった。

チームを集めてプロダクトを開発したことも、個人でアプリをリリースしたこともあった。
悔しさとやるせなさで、涙を流しながらコードを書いたこともある。コードを書けば何かが変わると思っていた。

  • 働きながら、将来の仲間と出会う。

結果的に同僚が創業メンバーにはならなかった。

常に良い同僚に囲まれた良い環境にいたことは間違いない。
ただ、2年目から子会社に転籍する意思決定をしたことで、同期や後輩とのつながりは想定よりも薄くなってしまった。
会社員のキャリアは意外と不確定要素が多い。

  • 働くことで、技術力を磨く。

基礎力・応用力ともにエンジニアとしては成長した。

タクシーアプリGOのモバイル・バックエンドの開発経験は貴重だった。個々の能力が高いチームの中での開発経験は、エンジニアの応用力を育てる。
転職したMicrosoftでは、英語での仕事・Windowsをほぼ使ったことがないのにWindows OSの開発・AIプロジェクトの過渡期を体験、と荒野で生き残る根性とエンジニアの基礎力を養うことができた。


「本当にやりたかったこと」と「今やっていること」が徐々にずれていくことは往々にしてある。

その状況の中でベストだと思う選択肢を取り続けた結果、気付かないうちに自分の夢に繋がる道からは大きく逸れていくことがあるのだ。

今、起業家としての成功からはほど遠い位置にいる。
そして、エンジニアとしての成長という点ではもう十分な位置にいる。

直感的に感じ取っていた。
もうこれ以上、サイドプロジェクトではダメだ。
一度、自分がすっきり諦められるくらい本気で挑戦しよう。
それで失敗したなら、いっそ田舎で素数を数えながら暮らそう。
今は、自分の人生を緩やかに肯定してくれる目の前の道が恐ろしい。

過去の自分に呪われる夜はこれ以上耐えられなかった。
運命が私を呼んでいたというより、待ちくたびれていた運命をこれ以上がっかりさせたくなかった。
手元のチップは生きているだけで減っていく。私たちは人生に参加料を支払っている。
オールインするのは今しかない。

2023年、夏。会社を辞めて起業する決断をした。

ひとりぼっちの3ヶ月

起業すると決断したタイミングで、私はチームでアプリ開発をしていた。
まず思い浮かんだのは「このアプリを進化させて事業化する」というものだった。
無事にリリースした勢いで、私は1人シリコンバレーに飛んだ。

当時作っていたのはコンシューマー向けのコミュニケーションアプリだったので、その聖地シリコンバレーで生活を実感したかったということもある。
スタンフォード大学などで芝生に寝転がっている大学生にリリースしたてのアプリを使ってもらい、ライフスタイルをヒアリングしたり、アプリのフィードバックをもらったりした。
また、起業家シェアハウスに泊まったりアメリカの投資家の方と会話したりという体験も得られ有意義に過ごせた。

3週間後に帰国。
アプリは初動から数値が悪く、何かを変えなければいけないのは一目瞭然だった。
得たユーザーヒアリング結果を元に、いくつかの改善案を考えていた。
それと同時に、チームは解散した。

チームがうまくいかなかった原因は色々と考えられる。
その全ては自分のリーダーシップと物事の進め方に問題があると思えた。

当時、私は友人をこのようにチームに誘っていた。
「こういうアプリがあれば面白いと思うから、一緒にやらない?」
ありがたいことに、プロダクトに共感してくれた友人が一緒に開発をしてくれた。

しかし、私は彼らに覚悟を要求していなかった。
「片手間で、やれる範囲で手伝ってくれたら嬉しい」と本気で思っていた。
私自身が、覚悟を要求する覚悟を持っていなかったのだ。

誕生に失敗したチームを、どう再生させると良いというのか。
ボロボロの土台の上に、偉大なプロダクトは生まれない。

何より一番の問題は、私自身に哲学がなかったことだ。

自分がなぜこのアプリを作るのか。
自分がなぜ会社を作るのか。
自分は何を成し遂げたいのか。

哲学なき組織が何を成し遂げられるというのだろう。

哲学者たりえなかった当時の私はこれらの問いに気付くこともなく、「開発を続ければいずれうまくいく」と考え、改良版として新しいアプリを1人でリリースまで持っていった。

そしてこのアプリを片手に、仲間を集めたり、意見を聞いて回ったりすることにした。

この時、私は「ワクワクするものを作りたい」という解像度でしかプロダクト開発に向き合えていなかった。

サンフランシスコから一時帰国している起業家の友人とご飯に行った際「なぜこれを作るのかっていう問いは重要だよ」と言われ、帰宅後に半信半疑でメモを取り始めたとき。
それが振り返った今に思う自分の転機であり、私が労働者から創業者に、開発者から哲学者に変わり始めた瞬間である。

会社の生まれ方

会社の創業というと「どういう事業をするのか」ばかりを考えてしまうが、「どういう会社で何を成し遂げたいのか」について考えることこそが非常に重要だと思い始めていた。

そこで、私は自分の起業のモチベーション、会社で成し遂げたいことを以下のように言語化した。

  • 人々のライフスタイルを変えたい

  • 正しいビジネスというより間違った発明がしたい

  • DAU 1億人を目指したい(DAU : デイリーアクティブユーザー、1日あたりのユーザー数)

一行でまとめると「DAUで1億人のライフスタイルを変える間違った発明をする」ということだ。

私はビジネスマンというよりは発明家気質である。
「ある市場の特定の課題を解決して売り上げを立てる」という、なんとなく正しそうなことをうまく実現する能力は高くないだろう。
それよりも「感動する新しいユーザー体験」や「ライフスタイルの変容」に強い関心がある。
Airbnb, Snapchat, Pokémon GO, BeReal のような、新しい価値を提供したい。

「一般化されるまでは否定されうる間違った発明」を生み出したい。

これが私が会社を創る理由、成し遂げたい夢である。

この夢を掲げて、クリエイター向けのイベントで登壇した時のことだ。私はあるデザイナーに出会った。
見せてもらった制作物のクオリティが高く、デザインの世界観も私の世界観と合っていた。
話し込む中で、出会ったばかりにも関わらず「この人が共同創業者かもしれない」と感じた。
週末にランチの約束を取り付け、帰路に着く。

今回は、自分が創ろうとしている会社の哲学をしっかりと考え抜いた。
そして、覚悟を要求する覚悟を決めた。


週末。一通り話終わったあと、切り出す。

「DAU 1億人を超える、発明がしたいんです」

「面白そう」という表情を見た気がしたのが救いだった。

「会社って普通は利益が最終目標で、そのためにユーザーがいるっていう構造だと思うんです」

「でも私が目指しているのは、ライフスタイルを変えること。DAUで1億人を超えるプロダクトを創ること。」

「売り上げはもちろん重要ですが、それはこの会社の目標じゃなくて、DAU 1億人という目標を達成するためのエンジンなんです。」

いかにスタートアップが楽しいか、夢があるか可能性があるか。それを説明した。
情熱を込めて話しすぎて、話終わるや否や強い頭痛がしたのには驚いた。

どうして資金調達もしていない、会社も創業していない、空想の会社に可能性があると思えるだろうか。
しかし私はこの時、この2人なら可能性は無限大だと本当に信じられたのだ。
1人の時は「可能性はある」ぐらいにしか思えていなかったのに、会社という哲学の箱とそれに向き合う2人になった途端に、空を覆っていた見えない蓋が取り払われたかのような開放感を無限大の可能性と認識できたのだ。

「仲間になってくれ」

お願いにも命令にも聞こえるこの言葉で創業メンバーに誘った。
放課後スタートアップとして約1ヶ月関わったあと、彼女は仲間になる決断をした。

この時、創業期に最も重要なのは仲間集めだと確信した。
3人4人と仲間が増えたら可能性はどうなるんだろう。
ワクワクすると同時に、人数が増える中で方針にブレが生じる不安もあったので、私たちの採用哲学を明文化した。

  • Be crazy - 熱狂者たる

常識に縛られない。プロフェッショナルになれる。自分の力を信じる。

  • Break and Build - 破壊し、創造する

ゼロから考え、ゼロから生み出す。そのためには破壊が必要。原点回帰。

  • Believe in our team - 仲間と共闘する

謙虚たる。仲間の力を信じる。馴れ合いではなく、共に戦う。


このような会社の哲学を一つ一つ考えていき、そして当然事業のことも考えていき、会社設立の手続きを進めていった。

事業は変われど、哲学は変わらない。
だから、会社の定義を哲学に説明させるのには納得感がある。

Wrongに込めた想い

会社を創るということは、会社というプロダクトを創るということだ。
そして会社というプロダクトには、それを一言で表す名前が必要だ。

  • 会社の哲学を反映すること

  • シンプルでかっこいい単語であること

  • 人生に意味を与えるような深さがあること

という軸で考えた。

すぐに思いつくものではなかったが、考え始めて数日後に Wrong Inc. だと閃いた。
「間違った発明」という言葉を思いつく数時間前である。

まず Wrong Inc. という字面がかっこいい。言葉の響きもかっこいい。
そして会社名で検索しても他社が出てこない。

何より、「Wrong」という概念が私の人生とこれからの会社に合っていると思った。


間違いとは固まった正しさの外であり、間違いとは「変わっている・マイノリティ」を超えた孤独である。

私たちは正しさに挑戦する間違いであり、孤独を肯定する哲学である。

自分が信じていることでも、最初は否定されるかもしれないし間違っているんじゃないかと不安になるかもしれない。
しかし私は、その間違いを新しい発明に繋げる会社を創り上げたいと思った。


これから先、また何度も何度も失敗をするだろう。

ただし、今はこれまでとは真逆の状況だ。
目の前に道はなく、隣には仲間がいる。

だから恐れは感じない。
これが自分の人生だと胸を張って言える。

2024年3月26日、創業。

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