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個別国の課題を地域レベルで呑み込む拡大EUとアジアはどう付き合うか?

中国で5年に一度の党大会が開催され、次の5年間の人事が決定しました。
習総書記の続投は想定されていましたが、その他の幹部は未知数でした。蓋を開けると、改革派と評された方々は揃って引退となり、今後の経済政策については未知数の方々が昇格したというのが現時点での評価のようです。

中国においては党政不分とされ、党と政府は一体です。政治力と経済政策の関連性は極めて高いといえますが、今回の人事からは、内輪もめのリスクは格段に下がったとみることもできまそうです。つまり、意思決定の一貫性が担保されやすいと言えるでしょう。

春に新政府が立ち上がりますが、次期首相が確実視される李強氏の下で、まずはゼロコロナ政策が緩和されるのか、次いで中国経済の内需のドライバーである不動産市況への梃入れが行われるか否かなどで、一貫性の視座で、世界の注目が続くことになりそうです。

また、中国においては伝統的に外交担当者の発言権がそこまで強くないとされてきましたが、名実ともに外交トップとなる王毅氏は、習近平氏の外遊にほぼ随行しているとされており、その外交姿勢についても従来以上に注目されることになりそうです。

本件は、また、専門家の意見を読み解く機会を設けたいと思いますので、今回も、前回に続いて話は欧州に飛びます。

経済的には、特にドイツのエネルギー不足がインフレを招き、金融引き締めで景気減速感が強く、政治への不満から、イタリアのように右派が躍進するケースも散見されるなど、傍から見ると欧州は混沌としているようにもみえます。

ただし、欧州連合(EU)という地域の視座でみると様相はやや異なります。離脱した英国を除いて、実に27カ国もがEUに加盟しています。その内、19カ国がユーロを導入していますが、導入していない国でもユーロが主要な貿易決済通貨となっていますので、実体としては、市場に加えて通貨も統合されているといえるでしょう。国家を超えた欧州議会がありルールもまた共通です。各国の財政は統合されてはいないものの、各国が拠出金を出して再配分していますので、ある程度財政調整も行われているとみることができます。

EUに一旦加盟すれば、域内ではヒト、モノ、カネの移動は原則自由です。そのため、一旦難民などが流入してしまうと歯止めがきかず、一部の国で右派が躍進したのは事実で、加盟の際には厳しい財政規律を課されますが、実際には加盟を待ち望む国は後を絶ちません。右派の躍進が伝えられる国々においても、EU離脱の声は聞こえてきません。

EUから離脱した英国、トラス前首相が、財源確保が見込めない大減税を打ち出すや通貨、株、債権のトリプル安に見舞われました。もしも、EUから離脱する国が出れば、よりシビアな状況に見舞われるでしょうが、離脱しない限り、そのリスクは限定的であることをよくわかっているのでしょう。

このEUの拡大こそが、欧州の強みといえそうです。国別では混沌としても、全体では粘り腰をみせているのです。簡単にまとめるとブロック経済で、米国に比肩する経済規模と4.8億人の域内人口が、欧州の足腰を支えているといえます。ロシアのガス供給停止は大問題ながら、EUとして制裁を課せば、ロシアもうかつなことができないことは自明です。

EUが、世界で唯一超国家を標榜していることは確かであり、財政統合がなされていないという大きな課題はあるも、ここまでできるのかというレベルで、多くの国が統合している姿は圧巻です。

他方で、EUは排他主義のリスクも抱えることにはなります。このことは、遠からずロシアのウクライナ侵攻にも関係しているのかもしれません。ウクライナは、EU加盟を模索してきたからです。加盟実現の可能性は、ロシアの侵攻前においては即効性という点では高くなかったようですが、ロシアからすれば、ウクライナを取られるという危機感もあったのでしょう。

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/c65ceac071a85d9c.html

拡大は、どこかで壁にはぶつかります。その大きな壁の一つが、宗教問題が絡んでEU加盟交渉が停滞しているトルコであり、ロシアとEUに挟まれたウクライナも含む国々なのでしょう。

そのEUが、直面しているのが、トルコとはなんとか帳尻を合わせるも、ロシアとの帳尻が合わない問題なのかもしれません。

アジア諸国にとって、EUは旧宗主国としての歴史的なつながりが深い国が多く、一旦EUのどこかに輸出できれば、4.8億人にアクセスできる魅力は大きいです。

他方で、EUのルールには徹底して準拠する必要が出てきます。排ガス規制、鉛規制、これから一層強まるグリーン規制、その流れで、これからもEVなどでEUルールに引っ張られる展開は進んでいきそうです。

EUは、域内ルールを策定する能力を持っていること自体が強みになっていますし、従わなければ制裁を課すことも可能です。さらに、共通の価値観として人権問題などでもイニシアティブを取る流れは続きそうです。

拡大EUの足並みは、全体としては乱れてはないようにみえますが、揺らぎがでているのも事実です。欧州発のアジアへの影響は、小職にはかなり荷が重い作業ではありますが、時折、振り返ることにしたいと思います。





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