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今取り組んでいるビジネスはスタートアップとして成立するのか?お手本に習ってピッチを考えてみた(後編)

前編の続きで、これで完結です。前編を読んでいない人はぜひ前編を見てください。

さて、アメリカで密かに知的財産というニッチな市場でスタートアップを成功させて業界を変革(Disrupt)させようと計画している私とその仲間たちですが、興奮しすぎで暴走しないように、先人のアドバイスから、今取り組んでいるビジネスはスタートアップとして成り立つのか?を検証していきたいと思います。

前回はツイッターで田所雅之さん(@TadokoroMasa)が上げていたスタートアップのショートピッチ(3分〜5分)で何を伝えるべきかの最初の4つのポイントをカバーしたので、今回は、残りの6つの点(5から10まで)について考えていきたいと思います。

5.Traction/ insight: 現在のトラクションは?どんなインサイトを得たか?売上は上がっているか?プロダクトローンチ/顧客開発を通じて、どのようなインサイト/学びを得たのか?

トラクション: 現在、機能を限定したアルファ版を招待制で運営しています。アルファ版はビジネスモデルのバリデーションとコンテンツやサービスの実験が主な目的なので、その目的を理解してもらっている日米の知財プロフェッショナルにユーザーとして参加してもらっています。現在のユーザー数は25人ほどです。

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インサイト: 最初のコンテンツにはQ&Aを選びました。最初はある程度の質問と回答があり、自然に機能していましたが、その後に質問が枯渇し、質問しても必ず答えが得られるシステムではないので、現在のQ&Aの仕組みだけでは魅力的なコンテンツとして成立しないという課題が見えてきました。最初のコンテンツにはQ&Aを選びました。最初はある程度の質問と回答があり、自然に機能していましたが、その後に質問が枯渇し、質問しても必ず答えが得られるシステムではないので、現在のQ&Aの仕組みだけでは魅力的なコンテンツとして成立しないという課題が見えてきました。

一般的な記事だと情報が一方的なので、よりインタラクティブなQ&Aをメインのコンテンツにしようと思っていましたが、質問する側はそんなに頻繁に質問するようなこともなく、また、回答する側も弁護士という仕事柄からか質問を選んで慎重に回答するので、回答される質問とされない質問にばらつきが出てきました。想定内ではありますが、やはりQ&Aを続けるにはブログ記事などで話題の提案をしないといけないのかなとも思っています。

売り上げ: 今回の事業のビジネスモデルは、コンテンツとユーザー数がある程度充実しないと、売上が上がりません。長期的には、今までにない画期的なプロフェッショナル向けのターゲット広告で収入を上げていきますが、それにはかなりの先行投資が必要なので、別に情報やコンテンツの差別化を行い、プレミアムアカウントを用意することで、比較的早い段階での収益化も行います。

大きな学び: 今回のアルファ版のローンチおよび運営で得られた一番大きな学びは、stickinessの大切さ、つまり、どうやってユーザーに頻繁にサイトに戻ってきてもらえるかという点を軸にサイトを充実させていかないといけないということです。積極的に協力してくれるユーザーを集めたアルファ版ですが、実際にユーザーのサイト離れが出てきています。明らかにローンチから比較するとサイト内でのユーザーのアクティビティーが低下してきています。今の時点でユーザーの離脱が起こっているとなれば、これをスケール化しても結果は同じです。つまり、今後ビジネスとして成り立たせるには、stickiness を生み出す仕組みを作ることがこのビジネスモデルにおいて重要だということです。

6. Why us/ team: 実績、専門分野、起業の経験、なぜ自分たちがやるのか?なぜ、他の誰でもなく、自分たちが、この事業をやる必然性があるのか?

実績、専門分野、経験: 今回のビジネスは、私達にしかできないと自負しています。今回のビジネスを成功させるには、知的財産という特殊な分野での業務経験、オンラインリテラシー、日米の知財業界の仕組みの理解が必要です。私は日系大手企業のアメリカ子会社で14年以上知財業務を行ってきています。そのため、豊富な業務経験はもちろん、知財業界の仕組みや日米における大きな違い(格差)を十分理解しています。また、数年前からアメリカ知財情報の配信をおこなっていて、SNSを含めたネットリテラシーにも長けています。

他の人が出来ない理由: 私のようなバックブランド(少なくとも知財関連業務の経験において)をもった人は、アメリカや日本に数十人ほどいると思いますが、特許事務所勤務の人がほとんどです。そうなってくると、事務所の利益に直結しないようなことがらは簡単にはできません。今回のビジネスモデルが成功すれば、知財業界全体を活性化させることはできますが、特定の事務所の利益にすぐに直結するものではありません。そのため、私と似たような経歴の持ち主であっても、事務所勤務である限り、この事業をおこなうことは難しいのが現状です。

必然性: 今回はいいチームメートにも恵まれました。パテントエージェントとして活躍しているCo-founderに加え、アメリカで会社を立ち上げた経験のあるCFO、様々なIT関連業務に携わりMBAも取得したCTO、リーガルテックに詳しく人材から投資まで幅広く助言してくれるアドバイザー、そして、特許翻訳を長年行ってきたChef Linguistic Officer (CLO)などこの事業を成功させるために不可欠なスキルをもった人材が集まってくれました。

自分たちのような実績、専門分野、経験を兼ね備えたチームはいません。そして今、この事業を通して、知財業界に革新をもたらさなければ、日本の知財業界は中国などの他の魅力的な市場の影響で、縮小していきます。知財業界を盛り上げていくのは、特許庁や国などの組織ではなく、現状をリアルに感じている私達自身だと思っています。そして、今回は知財業界に革新をもたらす事業ができる人材も整いました。この状態で、自分たちが行動を起こさないのは罪だと思っています。そのため、他の誰でもなく、自分たちが、この事業をやる必然性があるのです。

7. Defensibility: どうやって競合優位性を構築するのか?自分たちしか知らない秘密は何か?持続的な競合優位性を構築するための強みは何か?

優位性の構築: 競合優位性は「規模」で構築していきます。この事業では知財プロフェッショナルのコミュニティを形成するので、事業の規模が拡大することで、ネットワークエフェクトが得られ、他のプラットフォームに移動することが難しくなります。また、同じ理由で、競合が似たようなプラットフォームを作ったとしても、規模が大きな利点なので、すでに規模で先行している私たちが圧倒的に有利になります。

自分たちしか知らない秘密: 私たちは法律とテクノロジーの両方の専門知識を携えていることです。法律に強い人はテクノロジーに疎い傾向があります。逆に、テクノロジーに強いひとは法律に疎い傾向があります。そのため、法律とテクノロジーの両方において十分理解しているスタートアップは少なく、どうテクノロジーを法律の分野(今回は知的財産の分野)に適用していったらいいのかを理解しているプレイヤーは少数です。

しかし、私はアメリカで特許弁護士として5年以上の経験があり、テクノロジーにも明るいため、どうテクノロジーを法律の分野に適用していくべきかをよく理解しています。また、IT関連業務の経験豊富なCTOもいるので、私のもっているイメージの具現化も彼女と協力することで現実可能です。このような法律とテクノロジーに対する深い理解と融合するための具体的な提案をできる組織体制が私達のもっている絶対的な有利条件です。

持続的な競合優位性: 優位性を継続するために、この絶対的な有利条件を用いて、誰よりも早く、知財プロフェッショナルのコミュニティを作れるプラットフォームを形成し、成長し続けます。チーム内に、法律のエキスパートとテクノロジーのエキスパートの両方がいることで、成長に伴う時々のニーズにリアルタイムで対応してくことができます。素早く対応できる、企画をすぐに形にできる体制がすでに整っていることが、持続的な競合優位性を構築する上で大きな強みになってきます。


8.Business model/Key KPI: どういったビジネスモデルか?ビジネスモデルはスケーラブルか?どういうビジネスモデルを採択するのか?ビジネスモデルを成立させるためのKey KPI(先行指標)は何か?

コンセプト: ビジネスモデルは、オンライン上での専門知識の共有をベースにした知的財産関連の業務に携わる日米のプロフェッショナルのコミュニティを作るというものです。

知的財産という国際的な業務でありながら、アメリカの業務に関する日本語のコンテンツが少ないことに着目し、信頼できるソースから配信される情報コンテントを提供し、その情報目当てにサイトを訪れるユーザーと情報提供者であるアメリカの知財プロフェッショナルを「つなげる」ことがコア業務の1つです。日本のユーザーはアメリカ知財業務に関する様々な情報を日本語で得ることができ、アメリカの知財プロフェッショナルは日本に行かなくても日本の見込み顧客と接点をもつことができます。

スケール化: このビジネスモデルはオンラインで完結するサービスで、ユーザー登録から、コンテンツの閲覧、日米のユーザーのインタラクションまですべて自動化が可能です。つまり、この事業はスケーラブルな仕組みの元に成り立っています。

収益モデル: 収益化という点では、ユーザーの機能を拡張したプレミアムプラン(いわゆる無料ユーザーと有料ユーザーが混在するFreemiumモデル)と理想的なクライアント像にあったユーザーにピンポイントで広告が打てるターゲットアド事業(広告事業)の2つをメインに事業を展開していきます。その他にも、圧倒的なコンテンツボリュームとユーザー数を元に、スポンサードコンテンツマーケティングやブランディング広告なども検討しています。

KPI: ビジネスモデルを成立させるためのKey KPI(先行指標)は、ユーザー数とリテンションレートです。つまり、どれだけのユーザー(新規ユーザー数の推移も含む)がいて、その中で、どれくらいの割合のユーザーが積極的にサイトを使ってくれているか、どれくらいの頻度でサイトに訪れてくれているのかなどのメトリックスが重要な指標になってきます。このユーザー数とリテンションレートが健康的な数字であれば、収益化は後からついてくると考えています。

9.Competition/ current alternative: 競合や代替案は?現在の競合や代替案を冷静に評価し、「顧客の目線」らかなぜ自分たちが優れているのかを言えるか?

競合: 私達の事業のようにコンテンツとコミュニティの両方を兼ね備えた競合は今の所ありません。また、日本語のサイトという点においてもさらなる差別化を図っており、プラットフォームビジネスという「数」勝負の面に加え、「翻訳」という面からも新規の競合参入は難しい事業になっています。

代替案: 代替案を強いて挙げるなら、カンファレンスだと思います。カンファレンスでは、セミナーで知財という専門的なコンテンツを提供していて、出席者によるコミュニティもある程度あります。しかし、アメリカ知財系となると、ある程度の規模のカンファレンスは年に1回、数日程度しか開催されないところがほとんどで、カンファレンスに力を入れている団体でも外国から人を集められる規模のものは年に数回です。また、日本から参加する場合、アメリカへの渡航費用、参加費、参加に伴う業務調整や対応が求められます。また、参加したからといって、すぐにコミュニティに入れるというわけでもなく、「仲間」になるには定期的に通わないといけません。

つまり、代替案として存在しているカンファレンスは、コミュニティーの形成という点では、非常に非効率で会場という限られた場での「点」のつながりしかもてず、継続して「つながる」仕組みが備わっていません。

また、有益な情報の取得という意味でも、カンファレンスは限られています。セミナーの場合、パネルディスカッションなど書かれたものが存在しないフリートークなどが有益な場合が多いのですが、情報を得るには、参加者に専門的な英語を完全に理解するスキルが求められます。また、セミナー以外で情報を得ようとする場合、コミュニケーション能力とコネが必要です。

優れている点: 私達の事業が提供するようなコンテンツとコミュニティを提供している競合は存在しておらず、既存の代替案であるカンファレンスは、コンテンツの消費という面でも、コミュニティの形成という面でも圧倒的に劣っていることがわかります。私たちの事業を通して、日本の知財関係者は、業務に役立つ情報を日本語で適用することができ、同時に、普段は会えないアメリカの同業者ともコミュニケーションを取ることができます。私達の顧客である日本の知財関係者の目線で見ても、アメリカ知財を学ぶ面でも、アメリカ知財の関係者とのコネクションを作るという面でも、私達の事業が提供するサービスの方が圧倒的に優れていることがわかります。


10.Business Road map: スケールするためのビジネスロードマップは?最初のセグメント/ビジネスモデルから、どのようにスケールさせて行くか、その仮説の解像度はあるか?

スケール化: ビジネスロードマップは、必要最低限の機能を備えたMinimum Viable Product (MVP)であるベータ版のローンチを一日も早く行うことから始まります。これは、既存のWeb開発ツールを使用して、コストを抑えつつ、かつ、スピーディーに行っていく予定です。その後、招待制のユーザーの条件を緩和していき、コントロールされた環境でスケーリングをしていきます。

ベータ版で培ったノウハウを元に、さらなるサービスの充実とユーザーエクスペリエンスを向上させ、招待なしでも登録できる一般リリースまでもっていくところまでが大きなマイルストーンになります。

市場の拡大: また、最初のセグメントは知的財産ですが、分野も拡大し、それぞれの専門性を維持しつつ、シナジー効果が得られる分野に積極的に参入し、ユーザーベースのさらなる拡大を狙っていきます。

初期のビジネスセグメントでのプラットフォーム形成ができれば、その既存プラットフォームを汎用化し、他の分野や言語にも対応できます。分野では、法律に限らず、様々な専門分野の業種での既存プラットフォームの応用が可能です。また、翻訳のインフラを整えれば、中国や韓国などでも展開が可能で、ヨーロッパは既存の翻訳インフラで拡大が可能です。

知的財産という比較的ニッチな分野で専門情報コンテンツの共有とコミュニティの形成ができれば、上記のような技術面だけではなく、サービスのローンチから運営、コミュニティを形成する方法など様々なノウハウが得られます。そのノウハウをフルに活用して汎用性の高い自前のプラットフォームを用いれば、特定の業種のプロフェッショナルが集う専門性の高い全く新しい次世代のソーシャルネットワークサービスを世界規模で展開することができます。

まとめ

後編: いままでの取り組みを振り返って、特に競業や代替案との比較や自分たちの強みを改めて認識することができました。また、いいところだけでなく、実際のローンチや運営を通しての「学び」では、今後の大きな課題が浮き彫りになったのも事実です。

前編と合わせて: 今回の試みは今取り組んでいる事業を見つめ直すいい機会になりました。しかし、これからが正念場だと思っています。ここで整理した内容を踏まえて、どうこれから行動するかがすべてです。

これからもスタートアップを立ち上げていく中での「学び」や「現実」をリアルタイムで共有していけたらと思います。

次回は、いま取り組んでいるMVPについて話せたらと思います。


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