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今取り組んでいるビジネスはスタートアップとして成立するのか?お手本に習ってピッチを考えてみた(前編)

今、6人のチームメンバーとアメリカで知財系のスタートアップを立ち上げているところです。ノリで始めた企画が大きくなって、メンバーが揃い、そろそろ起業することになりそうです。

でも、普通に起業してもつまらないので、実際にスタートアップに取り組んでいる最中にリアルタイムで情報発信することにしました。スタートアップはよく成功してから武勇伝が語られることがありますが、実際に何もないところで、何も保証されていないときに創業者が頭の中で考えていることや感じることは全く違うものだと思います。

せっかく起業するのでそのプロセスを今後もNote経由で情報配信して、知識や経験、失敗談や成功例なども含め、きれいごとだけでは終わらない、泥臭いリアルなスタートアップ奮闘記を定期的にシェア―できたらと思っています。

先人の助言は実際に役に立つのか?

さて、記念となる第1回目のコンテンツは、スタートアップやビジネスに関するアドバイスはいざスタートアップを自分で立ち上げたときに役に立つのか?を検証していきたいと思います。

スタートアップに関する情報は結構たくさんあり、ビジネス本やYoutubeなどの動画、ブログ、ツイッターなどで有識者やスタートアップ経験者がいろいろと語っていたり助言をしています。結構いいことを言っているようですが、実際に自分のビジネスに当てはめた場合、役に立つ内容なのでしょうか?

今回はツイッターで田所雅之さん(@TadokoroMasa)が上げていたスタートアップのショートピッチ(3分〜5分)で何を伝えるべきかの最初の4つのポイントを自分のビジネスに当てはめて検証したいと思います。

1.Tag line: ひとことで言って自社のサービスは何か?「誰の」「どんな困りごとを」「どのように解決する」を端的にいうことができるか?

回答:知財プロフェッショナルのアメリカの高額な知財コストという困りごとを情報の民主化とコミュニティの形成で解決します。

「誰の」: 企業の知的財産部門で海外出願・ライセンス・権利行使を担当している、または、アメリカへの出願・ライセンス・権利行使をサービスとして提供している特許事務所勤務の知財プロフェッショナルのみなさん。

「どんな困りごとを」: 日本に比べて「数倍」かかる特許出願コストをはじめとするアメリカ知財権利化の際の高額な費用や訴訟などの知財侵害リスクに備えるための現地弁護士費用が高いという困りごと。

「どのように解決する」:アメリカの弁護士やパテントエージェント個人がアメリカ知財に関する情報を提供できる環境を通して情報の民主化を行い、直接日本の知財プロフェッショナルと対話できる場を提供することで今までになかった知財プロフェッショナルのコミュニティを作り、市場を効率化し、その結果として、アメリカにおける知財コストを下げる。

2.Issues/Solution: どういった問題を解決しようとしているのか?聞いている人をハッとさせるような問題提起ができるか?「確かに言われて見たら、非常に面倒くさい、非効率だ」と思うような問題に取り組んでいるか?

回答:事業のグローバル化に伴い、知的財産も国際的な視点で構築していく必要があります。しかし、日本に比べ、アメリカの知財関連業務のコストは非常に高額です。そこには翻訳コストもありますが、代理人(弁護士)費用がとても大きいです。

日本では知財関連の業務は弁理士が主に携わりますが、知財の価値を高く評価するアメリカでは、知財業務全般で法律の影響が強く、知財に特化した特別なライセンスを持った弁護士が主に業務を行います。そのため代理人(弁護士)費用が日本に比べ数倍になるケースも珍しくありません。

コストカットをするために日本の企業は主に2つの対策をとっています。1つはアメリカ知財業務の内製化で、もう一つはより費用対効果がいい事務所との提携です。

業務の内製化は、今まで外部(米国特許事務所)に依頼していた業務の実務的なものを自社で行う取り組みです。社内でできる限りの実務を行うことで、提携している事務所での作業を減らし、それをコスト削減につなげるという試みです。しかし、業務の内製化には社内の担当者にかなりの負担がかかります。アメリカ知財の専門的な情報は日本語でまとまったものや定期的に更新されているものは少なく、実際の業務を行うには、アメリカ知財の業務経験があり、英語の専門的な文献を理解するレベルの人材が求められます。そのような人材は稀で、どの会社でも真似できるようなものではありません。

2つ目の対策として行われれいる新しい事務所との提携ですが、提携している事務所を変えるには「費用」だけでなく事務所や担当弁護士など総合的に判断しないといけないので多くの「情報」が必要になってきます。しかし、現地の事務所や所属弁護士の情報などはそもそもインターネット経由で得られる情報が限られているため、日本の組織が率先してより費用対効果のいい事務所を見つけるということは出来ず、実際には提携している事務所が大きなミスをしてから別の事務所に変えるなどの受身的な反応しか出来ていない現状があります。

日本企業や事務所の中には、費用対効果が期待できる事務所がないと判断したのか、自ら人材を派遣したり現地で人を集め、自前の現地事務所を作るところも出てきました。でも、そのようなことができる企業や事務所はごくわずかで、やれたとしても大きな資金とリスクが伴います。

まとめると、グローバル化に伴い知財も海外で積極的に活動しないといけないにも関わらず、既存のアメリカの知財コストが高いので思ったような活動ができない。その原因が現地の知財関連情報のコスト。効率よく現地の情報が得られないため、対応できる人材を派遣・雇うという動きもあるが、それには多くのコストがかかり、非効率で非常に面倒くさい。

3.Market Size / First Market Segment: どれくらいの潜在的なマーケットがあるのか?今後どれくらいのサイズになりそうか?最初はどの市場セグメントから行くのか?テクノロジーインフラが変わったり、人口動態の変化、人の指向性の変化によるメガトレンドを鑑みて、どれくらいの潜在市場があるか推定できるか?最初のマーケットセグメントを狙っているのか、その理由を述べることができるか?

回答:日本の知財に関する情報は内閣府知的財産戦略推進事務局が2018年11月にまとめた知的財産戦略に関する基礎資料が良い資料だと思います。

この資料によると2017年12月31日現在の弁理士登録者数は全国で11,217名。日本では弁理士以外でも(特に企業の知財部では)多くの人が知的財産に関わっているので、ユーザーの市場規模は3万人から5万人といったところでしょうか?その中から、アメリカ知財の情報が必要な人が今回のビジネスのメインのターゲットユーザーです。

主な業務とされる日本企業によるアメリカでの特許出願ですが、アメリカ特許庁のデータでは2017年度は89,364件と海外からの特許出願件数では日本からが最も多く、この傾向は従前より続いているとのことです。

知的財産戦略に関する基礎資料に戻り日本国出願人のグローバル出願率の推移を見てみると、伸び率はゆっくりですが、全業種においてグローバル出願率が上がってきているので、今後も多くの特許が日本からアメリカに出願されることが予測されます。

マーケットの規模として日本の知財業界は限定的ですが、私のバックグラウンドが知的財産ということもあって、最初に狙うマーケットセグメントとしてはちょうどいいサイズだと考えています。

ちなみに、今回のビジネスモデルは汎用性のあるものなので、知財業界で成功できれば、他の法律関連業界、会計や税務など他の士業関連業界でもビジネスを展開できると考えています。また、アメリカと日本だけでなく、中国やヨーロッパなどの別の国や地域での展開も可能です。

まとめると、最初に狙うマーケットセグメントにおけるユーザーの規模はだいたい3万人から5万人程度。主な業務であろう日本からアメリカへの特許出願は日本が外国勢で最多であり、今度も少なくともこの傾向が維持されていくので、それなりのビジネスが見込めると考えている。また、汎用性の高いビジネスモデルなので、他業種での展開も可能。

4.Why now:なぜ、今なのか?スタートアップの成功要因で一番大きなものは「タイミング」2年前でもなく2年後でもなく「なぜ、今やるのか?」その理由を言えるか?

回答:ソーシャルメディアの普及に伴い、「個人」の発言力が大きくなってきました。このトレンドはさらに進み、企業や事務所などの「組織」よりも「個人」の発言がより影響力の強いものになっていくでしょう。

Youtuber や Instagramer などのインフルエンサーによるマーケティングが受け入れ始めているように、今後は様々な分野で「個人」レベルで情報発信する人々が影響力を持つようになります。それは弁護士でも例外ではありません。

しかし、今はアメリカの弁護士が日本のプロフェッショナルに向けて「個人レベル」で情報発信できるプラットフォームがありません。弁護士事務所のホームページや弁護士のプロファイルを見ても当たり障りのないことしか書かれておらず、有益な情報は何も得られません。

しかし、今、弁護士などの専門性が高い人が安心して情報配信できる場を作れれば、専門分野における情報の民主化が起こります。そして、ツイッターやインスタグラムなどで既に起こっているオンライン上でのコミュニティを形成することができるのです。

そうすることで、特殊な専門分野である知的財産のような情報でも、情報コストが桁違いに安くなり、それに伴い情報量も莫大に増えてきます。情報コストが安くなれば、日本企業や知財系の事務所はより効率のいい形でアメリカ知財に対応でき、結果として、アメリカにおける知財コストを軽減することができます。

私たちが携わっているビジネスはいわゆるプラットフォームビジネスで、Facebook、インスタグラム、Youtube、ツイッターと同様にユーザーベースの数が重要になってきます。まだ誰も参入していない日米の知財プロフェッショナルのための情報発信プラットフォーム市場を独占していくには先行者利益(First Mover Advantage)を活用して、他社が追随できないようにすることが求められます。そのため、2年前でもなく2年後でもなく「今やる」必要があります。

まとめ

まだスタートアップのショートピッチ(3分〜5分)で何を伝えるべきかの10ポイントの4番目までしか適用できていませんが、長くなってきたのでこれを前編として投稿しておきます。

スタートアップのビジネスアイデアでよくあるのが、(例えば、何が何でもBlockchainやAIを使いたいなどのように)「解決策」が先走っているものらしく、問題提議をちゃんとするようなアドバイスを結構見ます。今回の田所雅之さん(@TadokoroMasa)のツイートもその印象を強く受けました。

その影響かいろいろと長く書きましたが、「解決策」にあたる実際のビジネスアイデアが上記のピッチ考察ではうまく説明できていなような気がします。そもそもこのピッチの前提が3分から5分なので、どう内容をまとめてシンプルにしていくかという作業のほうが、実際に今回のように書き出す作業よりも大変な気がしますが、それはまた別のときに考えます。

次回は「なぜ和たちなのか?」「競争優位性をどう保つのか?」などの6つの問いに回答していきたいと思います。お楽しみに。

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