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『日本沈没』 我々にとって国とは結局なんなのか?

こんなお話です

日本列島の沈没という壮大なスケールで描かれるSF小説であると同時に、人間ドラマとしても読み応えのある作品です。

近未来の日本。インフラは高度に行きわたり繁栄を謳歌しています。しかし、小笠原諸島沖の小島が一夜で海底に没したのを皮切りに、日本国内では大地震・火山の噴火などが相次ぐ状況に。調査の結果、日本沈没が10か月以内に迫っていることが判明し、精鋭スタッフたちは死に物狂いで全国民の国外脱出計画を遂行し、日本人を続々と海外避難させます。そんな中、まず四国が海に沈み、列島各所が次々と後に続きます。最後まで残っていた北関東が大爆発を起こし、日本列島は完全に消滅します。

日本人にとっての国土とは

世界的に見ても、日本ほどに「国」と「国土」が不可分なもののように深く結びついている国は少ないのではないでしょうか。ヨーロッパの歴史をみると、様々な民族が常に領土争いをしており、何年かおきに国境線など出たり消えたり移動したりしています。ここ50年の間でさえ、ユーゴスラビアやソ連の崩壊、ドイツの再統一と、めまぐるしいことこの上ありません。しかし日本はずっと日本であり続けています。

そんな日本列島を失ってしまったら、日本人のメンタリティはどうなるのだろう?

作者の小松左京が創作のモチベーションとしたこの疑問の解決は、ウクライナや台湾を巡って勃発している紛争や論争について考察を深めるうえでも重要なのではないかと考える次第です。

あるいは北方領土問題。北方四島は我々の領土だと日本がいくら主張してもロシアが歯牙にも掛けない様子なのはなぜなのか。ロシア人が人でなしなのではなく、彼らにとって領土っていうのはもっと流動的なものだからこその擦れ違いではないのでしょうか。「固有の領土」という考え方が共有されていなくて、「昔は君たちの領土だったかもしれないけど、今の話とは関係ないね。だって君たち戦争で負けたよね」という話になってしまうのではないのか。

そう考えると、今こそ本作を再読してみるべきかもしれません。サイエンス・フィクションとしてだけではなく、ポリティカル・フィクションとしても読み応えのある傑作だと思います。

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