いでこうじ

電機メーカーの人事・人材育成、組織開発コンサル部門に約40年間勤務。企業出版の立ち上げ…

いでこうじ

電機メーカーの人事・人材育成、組織開発コンサル部門に約40年間勤務。企業出版の立ち上げや、社内リーダー向け人材育成誌の編集・執筆に携わる。現在、フリーランスの人物ライター。経営者やビジネスマンから学者、芸術家や職人の方々など、さまざまな人びとへのインタビュー&ライティングを行う

最近の記事

蕗と苺(ふきといちご)

八王子の下恩方にある武田信玄の娘・松姫ゆかりのお寺・心源院から、八王子城址を抜けてJR高尾駅に至る山道を「心源院歴史古道」という。 小学四年生だった私は、祖父と二人でその山道を歩いていた。春のお彼岸の時期だった。 いつもならば、西東京バスで陣馬街道を八王子駅まで戻るのだが、その日はなぜか、祖父と二人で高尾駅までの山道を歩いていた。家族全員で墓参りに来たはずなのに、なぜ祖父と二人で歩いていたのか、記憶にない。 心源院から高尾駅に至るそのコースは数キロある。小学生の私にとって

    • 皆との「いのちの旅」に乗り遅れた私

      ちょっと聞くのが遅すぎたかもしれないわね。この歳になると、辛かったりしたことも、良い思い出になっちゃうから。でも、そんな中でも忘れられないことといえば、やっぱり戦時中の体験だわね。 昭和一九年の夏、学徒勤労動員令というのがあって、私たち伊那高女(長野県伊那市)の四年生は全員、名古屋にあった三菱航空機の軍需工場に動員されたの。今でいう高校一年生。みんな、親元を離れるのは初めてだったから、とても不安だったわ。 工場ではあの零戦を作っていました。慣れない工場での作業は大変だった。

      • 旅の「ハプ二ング」は、新しい自分を教えてくれる

        僕の好きな旅は、「ハプニング」が起こる旅だ。 ハプニングといっても、大きな事件や驚くような出来事ではない。 些細なこと、たとえば、乗換駅で上下線を間違えたとか、急に途中下車したくなったとか、途中で忘れ物に気づいたとか。 ここでは、僕のそんなハプニング旅を、二つご紹介する。 一つ目は、時計を忘れた旅。 ある秋のこと。名古屋出張の帰りにふと飯田線に乗りたくなって、豊橋駅で途中下車した。 飯田線は、愛知の豊橋から長野の辰野までの二百キロを七時間かけてのんびり走るローカル線。険しい

        • 私は、私の人生を「こんな人生もいいものだ」と言えるだろうか

          昨年(2021年)8月、作家の高橋三千綱氏が亡くなった。 享年73歳。芥川賞作家である氏にはベストセラー小説も多いが、地味な本もある。 ルポルタージュ集である『こんな人生もいいものだ』も、その一つだ。 本書は、市井で生きる人びとへのインタビューをまとめたもの。 登場するのは、手作り飛行機に挑む自動車修理工場の経営者、3年間一度もベンチ入りできなかった高校球児、役者専門理髪師、など14名。彼ら彼女らの夢や情熱、挫折や後悔が語られている。 私が初めて読んだのは、20歳の頃。ま

        蕗と苺(ふきといちご)