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私は、私の人生を「こんな人生もいいものだ」と言えるだろうか

昨年(2021年)8月、作家の高橋三千綱氏が亡くなった。
享年73歳。芥川賞作家である氏にはベストセラー小説も多いが、地味な本もある。
ルポルタージュ集である『こんな人生もいいものだ』も、その一つだ。

本書は、市井で生きる人びとへのインタビューをまとめたもの。
登場するのは、手作り飛行機に挑む自動車修理工場の経営者、3年間一度もベンチ入りできなかった高校球児、役者専門理髪師、など14名。彼ら彼女らの夢や情熱、挫折や後悔が語られている。

私が初めて読んだのは、20歳の頃。まえがきに、こうある。
「この5年間、いろいろな人に会ってきた。そうして思ったのは、10代には10代の青春があり、20代には20代の、そして、60代には60代の青春がある」。…当時の私は、この部分を読み、素直に「いいなあ」と思った。自分も「そういう人生を送りたい」と思った。

いま、私は60代になった。改めて読んでみた。このくだりは、やはりいい。
しかし、それとは別に、目に留まった一文があった。同じまえがきにある、
「書き進めながら、それまでには気付かなかった偽善的なものを感じ、書き進めることが苦痛になった」という一節。20代の私は読み飛ばしていた。
仮に目に留まっていたとしても、「そうだよな。偽善は良くないよな」と思っていたであろう。

でも、と、いまの私は思う。偽善も、その人自身なのではないかと。
私にも偽善は多々ある。でも、人生とは、偽善も含めて、こんな人生もいいものだ、と思えるかどうかではないだろうか。
氏も、この文に続けてこう述べている。
「でも、やはり、人間てやつはいいもんだ、と思う」と。
私も、偽善を切り捨てるのではなく、偽善の向こうにその人の本当の良さが見えるようなインタビューをしたいものだ。

本書を改めて読んでみて、自分で自分を取材してみたくなった。
取材者である私は、果たして、私の話を聞いて「こんな人生もいいものだ」「人間てやつはいいもんだ」と思えるだろうか。

(2022.9.17)
#高橋三千綱 、#こんな人生もいいものだ


※本稿は、「宣伝会議45期 編集・ライター養成講座」(2022.7~2023.2)の瀬戸山玄氏クラスの課題制作①です。
瀬戸山玄氏ホームページ http://www.monogatari-seisakusyo.com/

【課題制作①】
昔読んで印象に残っている本をもう一度、読み直してみましょう。いま読んでみて、面白く感じるようになった点、つまらなく感じるようになった点について触れながら、まだ読んだことのない人が、その本を読みたくなる原稿を書いてください。


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