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青く輝くクリスマスイブ #2000字のドラマ
クリスマスまでに彼氏が欲しい。
漠然とそう思った。
東京に行きたくて東京の大学を選び上京した。
なのに授業はオンライン授業だし、大学に行ったのは数える程度。
入学してもう半年経つのに、まったく友達もできていない。
せっかく東京の大学に受かったのに、私の夢のキャンパスライフはどこにもかしこにもなかった。
あっという間に夏が終わり秋になった。
11月に入った途端に急に涼しいよりも肌寒いと感じる日が増え、なんとなくもの寂しくなった。人肌が恋しい。
誰でもいいってわけじゃないけど、とりあえずクリスマスを一緒に過ごせるイケメンを確保したかった。
みすずはさっきからマッチングアプリの写真をスワイプしているが、ビビッとくるような運命の相手は見つからない。
ふと、みすずの指が止まった。
「え?これって……」
これって私の推しじゃん。え、嘘でしょ?なんで?
みすずのスマホには、ひそかにいいなと思っているTikTokerの見慣れた顔があった。
さらさらの銀髪に、切れ長の涼しげな目元。見間違いようがない。
まさか。
まさか、青がマッチングアプリをやってるなんて。
いや、絶対ない。違う。青なわけない。
これは写真を悪用されてるだけ。きっと偽物に決まってる。本物なわけない。
そう思いながらも、みすずはダメ元でいいねの方向にスワイプした。
……マッチした。
「本物なわけないじゃん」
「だよねえ。本物だったら、騒ぎになってるはずだよね」
「でもそこまで知名度あるってわけでもないから、案外本物だったりするかもね」
びおらはブラックとゴールドの攻撃的かつゴージャスなネイルをいじりながら、そう分析する。
青からメッセージが来たときはびっくりしたし、緊張して何て返せばいいかわからなかった。
それでも勇気を出してなんとかメッセージを返し、当たり障りのないやりとりが続いていた。文章からは青本人かどうかは判別できない。
みすずは青のことを知らないふりをしている。
だって、ファンだとか認知してるとか言ったら警戒されそうだと思ったから。
<写真、ご本人ですか?>
などと探りを入れてみてもいいのだが、みすずはせっかくの青とのやりとりが終わってしまうのが怖くて、聞けずにいた。
聞いてしまったら、夢が壊れて、降ってきた粉雪みたいに解けてなくなってしまいそうだったから。
嘘でもいいから、青とメッセージのやり取りを続けていたかった。
「そうは言っても」
びおらが飲んでいたコーヒーのカップを置いて言った。
「会ってみないと埒あかないじゃん。みすずはどうしたいの?会ってみたくないの?」
カフェには大きなクリスマスツリーが飾られていて、みすずたちが座っている窓辺には雪を模したふわふわした白い綿のようなものが飾られ、窓ガラスには白い雪の結晶が描かれている。
テーブルの上のサンタクロースの小さな人形がこちらに向かって笑顔を向けている。
「でも、会って違ったらがっかりするかもしれないし、本物だったら……」
「会う、会わない、会う、会わない、会う、会わない、会う……」
花びらをちぎる。
青は心理学の発信をしているTikTokerだ。
やわらかそうな銀色の髪に、耳にたくさんのピアスをしている。ちょっと怖そうにも見える。
その派手な見た目とは裏腹に、画面の中の青は冷静で頭が良く、落ち着いた低い声で静かに話す。
話す内容も毎回的確で的を射ていて、圧倒的に納得させられた。そこらの薄っぺらい発信をしている人たちとは比べものにならない。
と、みすずは思っている。
そのギャップに惹かれた。
同い年くらいのチャラチャラした男とはまったく違う人種に見え、とにかくかっこよかった。
彼の私生活はベールに包まれていた。
他のTikTokerと違って、SNSはどれも紐づけられていない。
それでもかなりのフォロワー数で、それだけ青の魅力に惹きつけられる人が多いということだ。
みすずが青に会えるのは、TikTokだけ。
青に出会えたのは本当に偶然だった。
みすずが何気なくスマホをスワイプしていたら、たまたま青の動画が出てきた。見た瞬間、釘付けになった。目が離せなくなった。
一目惚れってやつ?
それから青の過去の動画を貪るように見続けた。
カーテンから差し込む淡く白い光で、みすずは目を覚ました。
ついに今日が来てしまった。
緊張で寝付けなかったはずなのに、いつの間にか眠っていたみたいだ。
今日、私は青に会う。
季節は12月。
ついにこの日が来てしまった。
親友のびおらが一緒についてきてくれる。
びおらは地元が同じで別の大学に通っているギャル系のかわいい女の子。みすずとは系統が真逆なのに仲が良いのでよく不思議がられた。
白いニットのノースリーブのワンピースを着る。
お気に入りの女優ミラーに映る自分を見ながら、みすずはまつ毛にラメの入ったマスカラを念入りに塗った。
美容院で髪の毛をセットしてもらう。
「みすず、すごい気合い入ってるね」
びおらに会った瞬間、笑われた。
「……変かな?」
「いいんじゃない?かわいいよ」
いつものカフェで約束のランチまでお茶をする。
びおらとおしゃべりしながら、ふと窓の外を見た。
「あっ」
「雪?」
雪が降るなんて予報はなかったのに。
「綺麗」
私は今日、青に会う。
青は私のことを気に入るだろうか?そもそも本当に青だろうか?
わくわくとドキドキが入り混じる、今のこの気持ちが、私は好きだ。
私たちは、ほどよく暖房の効いた暖かいカフェから、雪の降る外に出た。
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