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吉村萬壱『臣女』を読んで

感想文、学校の先生には見せられないバージョン③

              こい瀬 伊音



 この物語は、第22回島清恋愛文学賞受賞作。
 そして、夫婦の純愛小説。
 受け取り方は人によって色々なんだろうと思うけれど、わたしはシンプルに現代の「愛」と「介護」の物語、と感じました。
 お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、このままじゃ帯どおりです。現代の、がついただけです。


 夫が妻を一人きりで介護しようとするとき。
 心のなかを、妻がどんどん占めていく。
 こんなふうになった原因は自分にある、と自責の念にかられていて、それゆえにその存在感は日増しに巨大化していく。
 思い通りにならなくて、時に折檻してしまう。
 一生懸命になればなるほど、社会から遠ざかり二人きりの世界に閉じ籠ってしまう。

 男性が家族の介護を担うときに陥ってしまいやすい葛藤が、ここに網羅されているようでした。
 おれが守る、という意志を貫き通し、やりとげた気持ちを持てただろうな。介護者として、これ以上ない幸せな最後といえるかもしれない。

 では妻は?
 どれだけ醜い姿になろうとも、この人はわたしを世話してくれるのだから。
 世間から隔離され隠されていても、受け入れる以外仕方がないのだから。
 痛み、苦しみ、すべてを咀嚼し、排泄する。
 彼女の姿は、自分の意思を表現できない要介護者として描かれています。
 
 あなたは何を望んでいるの?
 わたしたちはどうするのがいいと思う?
 人間として、どう生きたい?
 話し合い、妥協点を探り、折り合いをつけながら人生を進んでいく必要がある、ということを、了解しあう関係を築けますか?築けていますか?築いてきましたか?
 そんなことを、問われているように感じました。

 病めるときも健やかなるときも、と誓う前に。
 新しい命を考えたときに。
 家族の介護が始まる前に。

 愛情や愛情だと信じてやまないものの存在についてを考えるのに、よき友となる一冊になると思います。
 排泄物の温度まで感じることができます。
 うつくしいか、きたないか。それはぜひ、あなたのこころに聞いてみてください。

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