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詩 『糸/音』

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音にすると 少し離れる。 たけど繋がっている。
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2021年4月の記事一覧

詩「誓い」

詩「誓い」

             こい瀬 伊音

フローレンス
あの夜ほどあなたの教えを
破りたくなったことはありません

苦しい呼吸音を朝まで聞きつづけた
桜散る
あの日のことです

戴帽式で
あなたに誓ったものです
「悪しき薬を用いることなく」と
けれど
指示の二倍、三倍量で
少しでも楽にしてあげたかった

安心してください
あなたの弟子も
また
ヒポクラテスの弟子たちも
決して賛成致しません
東京五

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ある晴れた日に
てのひらで砂を掻いて
さらさら
さらさらと
くるぶしまでを埋めました

すこし動けば
ゆびの間をくすぐって
くすぐって
砂は下へ落ちる

そのつぎの日も次の日も
砂を掻いて
さらさら
わしわしと
足首までを埋めました

しっとりとぬるく、すこし黒い

やがて雨が降る
潮が満ちる
波がその指を広げ
わたしを噛みにくる

だれか
私の足にもっと砂を
もっと深く
一歩も動けないように

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なぞらえる

なぞらえる

              こい瀬 伊音

ひとりでいたとき
わたしは完全体だった
両輪を揃え前進していける
うつくしさがあった

きみといたいとおもってしまったとき
わたしは自分を手放した
片割れをただ
きみに差し出して

きみはわたしを抱き寄せるとき倍にふくらむ
わたしは半分になる
不平等や不公平をいいつのる
ほんとうのわたしは眠ってしまった

いまはただ
それが落ち着く形だと言うのだから可笑

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