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海がそうさせた

ようやく怒られまくる期間を抜け出し、赤い電車に乗って三浦半島の先っぽに向かっていた。
三浦マグロ切符を使って女の子と夏本番を控える海を見に行く!のではなく、仕事で。
乗換の時に横浜駅で食べた刺身定食がおいしかったのと、会社に戻らず帰っていいよと言われたのがうれしくて、珍しく仕事中にウキウキしていた。
それに、デートじゃなく仕事で行くとしても、夏に海のそばに行けるのは、とてもしあわせなことだ。

仕事は、思ったよりも忙しくて、あっという間に時間が過ぎた。
同期入社の女の子がいたから、ちょっと迷っていっしょに帰ろうと声をかけた。
女の子に声をかけるということは、どんな場面でもぼくは緊張する。ちゃんと会話した記憶はほとんどないけれど、彼女に聞いてみたいことがあったから、思い切って、声をかけた。


どんな会話でもそうなのだけれど、ぼくは本題をズバッと切り出すことがとても苦手だ。
最近やってる仕事とか、夏になると忙しくなるよねなんていう、他愛もない会話をしばらくしていた。このまま話をつづけていたら、何事もなく家にたどりついてしまう。そうなると、彼女に聞きたかったことはこれからさきずっと聞けないような気がした。
横並びで座るぼくら。電車がトンネルを抜けると、海が見えた。夕日が水面に反射して、きらきらしていた。タイミングは、いまだ。

「ずっと聞きたいことがあって!」
へたくそに会話をさえぎったぼくの質問に、丁寧に、昔話を交えて答えてくれた。なんだかぼくがこれまで考えていたこととすこし似ていて、ぼくも昔話をした。
これだ!こういう話をしたかったんだ!というきもちを久しぶりに感じながら、うっとりしていた。
それだけでもしばらく思い出す思い出になりそうなのに、なんと彼女は、誰も気がついていないであろう、ぼくの行動についてみていてくれていた。
そのまま天国に行っても後悔はなかった。友達の女の子に、よく女の子を神格化しすぎだと怒られていたぼくだけれど、このひとは、ものすごい。
あだち充の漫画に出てくる女の子みたい。すこしあきらめかけていたあることを、もうすこし続けてみようと思った。

すてきなひとはすてきなひとと恋をするということを教えてくれたひとのお話。

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