どんな感情も否定せず、一緒に撮影をおもしろがりたい │カメラマン小池まゆみさん
小池まゆみ、こと、こいまゆさん。
お会いして何度か目の時に「そろそろこいまゆちゃんって呼んでほしいな」かわいくおねだりされて以来、こいまゆちゃんと呼ばせて頂いている。
小柄な体格、大きくクリッとした瞳。
ふんわりとしたパフスリーブのニットがよく似合う。
一見してかわいらしい雰囲気を持つ人だ。
しかし、やることは時に豪胆である。
3月の末からフォトセッションツアーをするという。
半年の間に、沖縄・北海道を含む9都市に。
それだけで終わりかと思えば、そうではない。
秋には中国・四国・九州地方まで遠征し、1年間の間に全国各地を回るというのだ。
いったいその小さな体のどこにそんなパワーがあるのか、パワーの源とフォトセッションツアーへ込めた想いについて、お話を聞いた。
始まりは、「全国にこいまゆが行ったらおもしろいかもしれない」という思いつきだった
昨年、秋に「49人撮影」というものを開催した。
アロマ講師としての17年のキャリアを手放し、昨年カメラマンとしてデビューした彼女。
その初年ならではのチャレンジだった。
その年の秋に49歳になることにちなみ、49人を無料で撮影するプレゼント企画を計画した。
申し込みは殺到し、有料追加分を含めて結局100人の撮影を数ヶ月のうちに成し遂げた。
「その時から、ずーっと『来年はどうしよう?』って考えていた」
年が明けて「100人撮影はしないんですか?」とよく聞かれた。
しかし、『〇〇人撮影』というのはほかの人も使う文言だ。
みんなと一緒の言葉は使いたくない。
むしろ同じことはしたくなかった。
ある日雑談の中でカメラ仲間から「47都道府県こいまゆお茶会やったらいいじゃん」と冗談交じりに言われたことがある。
その言葉が脳の片隅に残っていた。
いろんなところに行って人と会えたら楽しそうだ。
どうせ行くならお茶会じゃなく撮影がしたい。
47都道府県はともかく、○○地方という大きな枠組みならいけるかもしれない。
一年間で、日本全国すべてのエリアに足を踏み入れたらおもしろいかも?!
想像するとワクワクした。
だが、
「おもしろいだけなんてダメじゃない?」
「大義名分とか作った方がいいんじゃない?」
そんな自分の心の声が聞こえてきた。
しかし、振り返ってみればアロマ講師をしていたときもオリジナル講座を作る時は
「これおもしろい!みんな知ったらいい!」
という想いがきっかけだった。
美味しいご飯屋さんをシェアするように「おもしろい」を伝えたい。
アロマ講師時代に印象的だったことがある。
ある方から講師として招致された。
何の話をしましょうかと主催者に希望を尋ねたところ
「なんでもいいんです!こいまゆ先生が来てくれるなら、どれでも!」
という声が返ってきて、唖然としたのだ。
去年の49人撮影の時で、頂いたアンケートの「申し込みのきっかけ」には、「こいまゆさんに会いたかった」という声が多かった。
知識が欲しいんじゃないの?
写真が良さそうだったからじゃないの?
でも、よくよく考えれば情報や利益を得たいのではなく、会いたいと言ってくれるってすごいことだ。
50代の手前でアロマ講師からカメラマンへキャリアチェンジをした。
写真を撮られはじめてから見た目がどんどん変わった。
突然数か月の間に100人を撮るというチャレンジを決めた。
いろんな理由で、「こいまゆに会いたい」と思ってくれる。
それなら、私が「おもしろい!」と思うことをしたら、みんなもおもしろがってくれるのかもしれない。
日本全国こいまゆツアー、やってもいいのかもしれない。
「アロマっておもしろいよ!」から「撮られるって楽しいよ!」へ
「撮られるって楽しい」と思ったのは、2019年、人柄写心家・丸山嘉嗣氏に撮られた二度目の撮影だったという。
「はじめての撮影は楽しくなかったの?」
と思わず聞いてしまった。
「最初の時はね、もうわたしひどかったの」
笑いながら彼女は言った。
「この人に外の景色のなかで撮られてしまうとかわいくなっちゃう…!」
撮影を初めてお願いしたのはその年の5月だった。
絶対にスタジオで撮影されたかった。
スタジオでこんな撮影がしたい、というわけではない。
むしろ、背景に色をつけたくなかった。
山や海には色がある。
それを背にすると、バイアスがかかって先入観を植え付けてしまうのではないか。
そんなことを考えていたが、振り返ってみると当時の丸山は今よりもっとふんわりかわいい写真を撮るカメラマンだった。
撮られる女性の光の部分を捉えるのがうまい。
みんな、かわいくなる。
「この人に外の景色のなかで撮られてしまうとかわいくなっちゃう…!」
そんな恐れがあった。
かくいう自分は、確かに身長は小さい。
今では「かわいい」も受け入れていたが、当時は絶対に嫌だった。
かっこいいのがいい。
髪も短かく、パンツ姿がほとんどだった。
スカートは履いたとしてもタイトスカート。
ワンピースならコクーンワンピース。
とにかくかっこいいがいい。
しっかりしたお姉さんキャラだった。
仕事も成功していた。
当時でいうところの「キラキラ系起業家」と周りからは見られていた。
でも、みんな本当の私は知らない。
肚の中はどす黒い。
人の言葉の裏を読んでは、「どうせこういうことでしょ」と諦観していた。
コーチングを学んでいたから、心の動かし方の講義も受けている。
「きっとこの人はこう言ってもらいたいんだろうな」
「ああ、ここであの技法でワークするのね」
「ここではこの行動をしておく方がよさそうだな」
撮影でも、「カメラマンは今どう撮ろうとしてるんだろう」と考える。
「どうしたら撮りやすいだろうか」頭が先に考えてしまい、身体は自由に動かない。
生徒さんから「こいまゆ先生はかわいいですね」と褒められても、全否定だ。まさに「どうせお世辞でしょ」である。
自分が好かれているとも思っていなかった。
アロマの講師としてほかの人が知らない情報を持っているから、自分のまわりに人が集まるんだと思っていた。
陽光の中で撮られてしまったら、この腹黒さが見つかってしまう。
こんな腹黒い私を、本当の私を知ってしまったら、みんな離れていくのではないか。
だからバックに自然なんか背負いたくなかった。
弱みを見せたくない。
誰もいないリングの上でファイティングポーズをずっと取っていた。
もちろん、今振り返ればそれは勘違いだと分かる。
キャリアチェンジをするときだって、アロマ関係者や生徒さんからたくさんの応援の声をいただいた。
49人撮影の時にも、その後も、撮影に来てくれた人も何人もいる。
こいまゆに会いたいと、慕ってくれる人がいる。
今もつながっている大切な人たちだ。
丸山とは現在まで親交が続いている。
今では自分のカメラの師匠でもある。
あれからずいぶん経ってから
「それなのになんで俺のところに来たのよ」
と笑われた。
本当にそうだ。
「本当はかわいく撮られている子たちがうらやましかったんだよね」
その日、撮影の中でぽつぽつと話した彼の言葉が心に引っ掛かった。
心を開かせるための言葉だと分かっていても、決まり文句ではない。意外なところからジャブが来る。新鮮だった。
「この人おもしろい人だ」
そう思って、二度目の撮影を受けることにした。
二度目の撮影で知った「撮られることの楽しさ」
由比ヶ浜。
海を指定された。
海は嫌いだった。
くせ毛の髪の毛は湿気でうねるし、潮風でぱさぱさになる。
砂が靴に入るのも嫌だ。
でも、受けると決めたんだ。
死なばもろとも。
やってみよう。
そう決めて、服を買いに行った。
丸山が撮影した他の女性の写真は、SNSを通じてチェックしていた。
だから、海ならワンピースかな、と漠然と考えていた。
ちょうどロング丈のひらひらしたスカートが流行り出したころだった。
全面的に「かわいい」を推してくる服たちが、売り場を席巻していた。
「もう、当時ホント『どうしてくれよう!』って思ったの!」
zoomの向こう側で、どうしてくれよう、と3度ほど語気を強めながら、最後は噴き出すように笑った。
「なんでこんなのばっかり流行ってるの?って。他にもオーバーサイズの服とか。私着こなせないしって!」
そんな中、これはかわいい。
そう思えた一着があった。
そこまでひらひらしていない、でもロング丈の軽やかな素材。
海にはぴったりなさわやかなブルー。
そのロングワンピースを買った。
感情を「こどものように」外に出す
小さなころ、親戚の家に行くと伯父から「お前はわがままだ」と言われた。
どうやら、感情が顔に出やすい子だったらしい。
喜怒哀楽が顔に出る。
それを評して「わがまま」と言われたらしかった。
感情を出すのは良しとされないんだ。
当時から聡い子どもだった。
出してはいけないならばと、だんだんと感情を出すことをやめてしまう。
他の子どもよりも、大人になるのが早かった。
お付き合いする人ができて、手をつなぎたい、甘えたいと思っても「いい大人なんだから」とそっと手をほどかれた。
表面上の自分はしっかりした女性だった。
だから、そういう人物像を期待されていた気がする。
心の奥では甘えたいはずなのに、甘えづらい環境ができていた。
撮影の時間は、真逆だった。
「はしゃいだらいい。好きにしたらいい」
一緒にはしゃぐわけではないけれど、丸山はそれを見て「楽しそうだね」とニコニコしながら写真を撮ってくれた。
自分が感情を出すことに、批判も否定もされなかった。
感情って出してよかったんだ。
何をどうやったのか、わからないほどはしゃいだ。
新品の青いワンピースはびしょぬれになった。
後日、丸山から連絡が来た。
「今、写真の編集してるんだけど、何がそんなに楽しかったっていうぐらい笑ってるけど、何が楽しかったの?」
やっぱり楽しかったんだ。
そして、納品された写真の自分はかわいかった。
その時から、自分への見方が変わった。
ふわふわのスカートも買うようになった。
髪も伸ばした。
かっこいい自分ももちろん好きだ。
でも、かわいい自分も好きになった。
撮影を「まずは体験してもらいたい」
撮られた写真をみんなネットにアップしろとは言わない。
SNSでアップするのを目的に撮られなくてもいい。
「自分で見て『わ!かわいい!』って思えたら最高じゃん」
誰かに「可愛い人ですね」「きれいですね」って言われても、受け取れない人も多い。
だが、その時思わず声に出した「かわいい!」は自分の本心だ。
誰も否定できない。
だから、写真を撮ったらいい。
逆に、SNSに写真をアップするために撮るのもいい。
アップしたら、みんながほめてくれる。
その言葉のシャワーを浴びるのもすごくいい。
自分も何度もそんな経験がある。
思った以上にコメントをもらったり、プロフィールの写真素敵ですねと声をかけられたり。
照れるかもしれないけれど、絶対うれしい。
だから、アップできるなら、アップしてみてほしい。
写真と共に褒められると、セルフイメージが変わる。
「どうせ生きてるなら、自分っていいなって思いながら生きてた方がいいじゃない」
自分の人生の中で、最後まで一緒にいるのは自分だ。
その自分を、嫌だなって思いながら過ごすより、良いねって思えた方がきっといい。
自分に良いねを押すためのツールはいろいろ。
その手段のひとつとして撮影がある。
写真は目に見える形として「当時の自分」が画像になる。
かわいいですね、という言葉だけではお世辞かもしれない。
それに、言われたことはわざわざ書き残しておかないと、流れていって忘れてしまう。
でも、写真はそこに現物としてモノが残る。
振り返ってあの時と、今の違いを確認できる。
それがいい。
あの時あんなふうだった。
こんなに変わったんだね。
並べてみるごとに、感じることがたくさんある。
「だから、撮ろう♥」
ドリカムのように、フォトセッションツアーを全国へ
全国をフォトセッションツアーで巡るという案にたどり着いたとき、ふと思い浮かんだのは「ドリカムワンダーランド」だった。
吉田美和率いるバンドDREAMS COME TRUEが催す、4年に一度の大規模なライブイベント。
テーマは「史上最強の移動遊園地」。
これだとおもった。
ドリカムが好きだ。
楽しい歌も、強い歌も、泣けるバラードもいろんな曲がある。
でも、ドリカム全体を通して感じるのは「人生の応援歌」だ。
「何度でも」を聴くといつも思わず涙が出る。
辛いこともいろいろあるけれど、諦めたらそこで終わりだ。
何回チャレンジしてそのたびにうまく行かなくても、もしかしたら次にうまく行くかもしれない。
人生を諦めるな。
そう言われている気がする。
強い言葉で、背中をぐっと押されていると感じる。
そう思うのは、かつて自分が戦っていたから。
そして今ももがいているからだ。
むやみやたらに誰にでもファイティングポーズを取るのはもうしなくていいと分かったけれど、それでもまだ戦っている自分もいる。
今まで戦ってきた自分を、これまで戦ってきた人を否定するのは嫌だ。
戦うことが悪いんじゃない。
必要なら戦えばいい。
それすらも自由だから。
戦っていることにも、必死でもがいてることにも、OKを出したい。
ドリカムワンダーランドは、そのテーマ「移動遊園地」の通り、行くと元気になる。
泣ける歌も、元気をくれる歌も、楽しい歌もある。
泣いたり、笑ったり、叫んだり、大声で一緒に歌ってスッキリする。
そして、清々しい笑顔で言うのだ。
「楽しかった!明日からまた頑張ろう!」
そんな撮影をしたい。
そんな風に元気になって、帰って欲しい。
どんな感情も否定せず、一緒に撮影をおもしろがりたい
49人撮影のとき、参加したあるお客様が言っていた。
「本当の私ってこっちなんだよね」
「こいまゆちゃんだったら、こんな私でもおもしろがってくれる気がする」
かわいい自分も。
綺麗な自分も。
ラフな自分も。
戦っている自分も。
そのどれも、全部自分だ。
ドレスを着ている日もあれば、デニムにTシャツの日もある。
甘えたい日も、自信をもって語りたい日もある。
背伸びして未来の自分を演じたい時も、おすまししたい時もある。
だから、どんな格好でも歓迎する。
むしろ、いつもは撮られない姿を自分が撮れるなんて光栄だ。
初めて撮られるって楽しいと思ったあの日。
自分が感情も何も否定されなかったように。
お客様のどんな感情も、否定したくない。
むしろ一緒におもしろがりたい。
どんな選択も応援したい。
撮影に慣れてない人は、写真を撮影するならワンピースを買わなきゃって思うかもしれない。
けれど、その時の自分が一番好きな服があって、その姿で撮られたいならば、たとえジーンズにTシャツだろうと、作業着だろうと、なんだっていいんだ。
がんばって今日の為に準備してきたの!でも
ぷらっと撮影に来たの♪でも全然いい。
どんな姿もあなただから、全部自分で決めていい。
それだけ、私たちは自由なんだ。
撮られて、「楽しかった!明日も頑張ろう!」そう笑ってくれたら本望だ。
だから、とにかく胸を張って伝えたい。
「撮影って楽しいよ!だから、まずは撮られてみようよ!」
こいまゆフォトセッションツアー2022
春夏:北海道・仙台・東京・横浜・富山・名古屋・大阪・沖縄
秋冬:東京・横浜・中国・四国・九州
募集期間など、詳しい情報は
小池まゆみnote・公式LINEにて先行配信予定。
補注
お名前を出させていただいた方につきましては、文章表現上、適宜敬称を省略させて頂きました。
インタビュー・執筆*はたなかさやか
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