統合医療診療の実際(3)突発性難聴・耳鳴り・不眠
夏の暑さを背景にして、突発性難聴が発症した人も多いように感じます。そこで、30代女性Bさんの症例をご紹介します。
数日前、突然の耳の聞こえの悪さを自覚し、耳鼻科を受診したところ「突発性難聴」の診断を受けました。聴力検査などの検査を行い、ATP製剤、ビタミンB12、循環改善薬などが処方されましたが、完全に回復という感じではありませんでした。
経過観察での聴力検査において、低音域の若干の改善を認めるものの、「片耳が覆いかぶさったような感じ」が続き、聞こえにくさを強く自覚する状態でした。以前、後鼻漏がひどかったので、当院にて上咽頭治療をしていたことから、なんとか改善しないものかと受診されました。
左耳の強い耳鳴りと、「何かがかぶさったような」聞こえにくさの訴えに対して、全身の緊張を解く目的での鍼を施術してから、左耳に対して、耳介周囲への刺絡と、直接灸を施行。
折からの頭頸部のむくみも強くあったことから、排出される瘀血の量も多く、施術中においても自覚症状の耳鳴りはみるみる改善を認めました。
さらに灸を加えた後には、聞こえ方も著明に改善。状態が大きく変化したことを喜ばれて、施術を終えました。ただこれだけでは、元の状態に戻りかねないので、既に処方されている薬剤の増強を目的として、ビタミンB群を多めにしたマルチビタミンと、ATPの更なる増産をはかってコエンザイムQ10(電子伝達系の最終段階でATP産生を促進します)を飲んでいただくことにしました。(ATP産生という観点から5ALAなども有効であるかもしれません)
また眠りの浅さから易疲労もあったので、サプリメントとしてメラトニンも加え睡眠状態の改善も図りました。
4日後の再診時には、聞こえの悪さ等の自覚はかなり改善され、耳鼻科での検査でも改善を認める結果が出ていたこともあり、大変喜ばれておられました。
以後、1週間後に再度加療し、耳鳴りや聞こえの悪さは全くなく、発症前と何ら変わらない、とのことでしたので終診となりました。
また睡眠に関しても、メラトニンにより中途覚醒が劇的に減少し、起床時の熟眠感を得られ、とても喜ばれておりました。
Bさんのように、夏の暑さのためか、ビタミンB群の劇的な減少と知らずに進行した脱水を背景として突発性難聴の方がこの時期、増えているようです。また睡眠時の発汗により脱水が生じ、起床時に腰痛などの身体の痛みが出たり、易疲労に限らず、色々な不調が発症してきます。
大きな症状の発症の前に、ビタミン摂取を含めた十分な栄養と、充実した睡眠時間の確保に心掛けたいものです。生じた症状をターゲットに治療を開始するばかりではなく、予想しうる不調を予め想定することで、より健康度の高い生活が送れるのではないかと、統合医療の観点からは考えられます。