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臨床ファッシア瘀血学(9)経絡・経別・奇経・経筋との関連

 筋膜と経絡との関連性のみを指摘していても、臨床的にはあまり役に立たないので、今回はその具体的な「変換」を試行してみたいと思います。鍼灸医学における各概念との比較です。

 筋膜に関する概念は、Steccoによる「筋膜マニュピレーション」の用語が臨床的に使いやすいので、そちらを参考に鍼灸の概念と対比してみます。
 まずは臓器との関連で、臓器ー筋膜単位として「OーF」が仮定され、これが頸部、胸部、腰部、骨盤部の内臓筋膜と、水平方向の引張構造としての関係をもち、臓器をつりさげます。
 「OーF」単位によるヨコ(水平)の関係に対して、タテ(垂直)の方向の関係性が、器官ー筋膜配列としての「A-F」配列となります。これは文字通り身体のタテ方向を走行し、体幹を吊り橋と考えると、その懸垂線(カテナリー)を構成します。その系列は3種類で、内臓配列、血管配列、腺配列と称され、上肢、頭部、体幹、下肢と走行し、経絡との類似性が提示されます。対応は以下のようになります。

内臓配列:手太陰肺経・手陽明大腸経・足陽明胃経・足太陰脾経
血管配列:手少陰心経・手太陽小腸経・足太陽膀胱経・足少陰腎経
腺配列:手厥陰心包経・手少陽三焦経・足少陽胆経・足厥陰肝経

 次にこの「A-F」配列が、内臓筋膜との「OーF」単位に接続する流れが想定されますが、それが臓腑との関連で考えると「経別」ということになります。
 つまり、各配列の手と足の組み合わせを一組として考えると、六つの組み合わせが形成され、それを「合」とすると、一合~六合の経別となります。これにより、内臓から体表までが連続するものとして記載されたことになります(経別は深層の臓腑まで潜り込むので)。

 さらに構造的に考えて、「OーF」単位より「A-F」配列は密な関係にないですから(空間的な半身に対して3つのループが走行するだけですから)、各配列間にはそれらを連絡する「間隙」が想定されます。
 この間隙は各「A-F」配列にとっての、緩衝地帯としても考えられることから「奇経」が類推されます。それゆえに、この奇経に邪気が流入すると、熱をもち瀉血を要するということになるのでしょう。この辺りの関係は、瘀血病変における「細絡」の形成に似ているのではないでしょうか。

 内臓と関連するファッシアとしての「OーF」単位・「A-F」配列とは幾分系統が異なり、四肢を中心にして、筋肉と神経も包含する筋膜(ファッシア)もあります。文字通り筋肉を包み、支配神経とともに走行しながら全身に分布する「経筋」です。
 当然先ほどの経絡と密接に関連しながら、中枢神経である脳・脊髄の方向に「求心性」に走行することになるため、その流注は異なります。
 また一般に、その流注においては、経穴はないとされ、類似の「穴」は、解剖学的な筋肉の起始・停止において、一定の面積をもつ領域であるとされます。また、パルス刺激や「やいと」などの物理的刺激への反応性の良さを考慮すると、解剖学的範疇でとらえることの出来る存在ともいえます。
 交流波であるパルス刺激での臨床効果から類推できることは、この機序は、経絡現象における直流波での効果とは異なるものであるということです。
 経絡現象が直流であることは、中谷博士の良導絡理論からも実証できますし、ベストセラー『閃く経絡』などでも繰り返し述べられています。つまり半導体としてのコラーゲン内部を流れる自由電子こそが、正経(経別を含む)や奇経における媒体で、経筋はこの媒体が異なるからこそ、その刺激方法も異なるという説明が可能になるのです。
 さらに述べるなら、アナトミートレインとは、こうした経筋の概念に加えて、構造的な接続、力学的な接続性が強調されたものと理解できるでしょう。ファッシア概念から始まり、東洋医学から一周廻って、西洋に戻ってきたような形ですね。

 今回は、ファッシアの構造的な分類から、東洋医学への展開を具体的に追ってみました。具体的には、十二正経とその経別、奇経、経筋、そしてアナトミートレインまでの流れを見たことになります。依然として概念の混乱の多い領域ですが、ファッシアという概念を介することで、ずいぶんと整理されてくるのではないかと思います。

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内部機能障害への筋膜マニピュレーション 実践編
Antonio Stecco 医歯薬出版 2020-06-18

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